ヨーグルトを味だけで選ぶ人が損をする理由
注目すべきは、菌の種類とそのパワー
自分のパフォーマンスを最大化するために、毎朝ランニングをしてヨーグルトも欠かさない――。そこまで考えていながら、ヨーグルトを味や値段だけで選んでいる人がいたとしたら、それはあまりにももったいない。ヨーグルトにはさまざまな種類があり、入っている菌とそのパワーもそれぞれ異なるからだ。さらに、一緒に食べるものや食べるタイミングによっても、そのパワーの引き出し方が変わってくる。ヨーグルト選びの結果が、ビジネスにおけるパフォーマンスに影響を与えることも、十分ありうる。
制作 東洋経済企画広告制作チーム
乳酸菌とビフィズス菌は、まったく別もの
写真はビフィズス菌のひとつである
ビフィドバクテリウム・ロンガム
連載第一回でお伝えしているとおり、人間の大腸内には「腸内フローラ」と呼ばれる膨大な腸内細菌群が生息し、それが人間の心身の健康を大きく左右することが、近年、明らかになりつつある。それに伴い再注目されているのが、腸内環境を整える「ヨーグルト」や「ビフィズス菌」の存在だ。どちらもおなじみの名前だが、意外と知られていない事実も多い。
まず、あらためてヨーグルトとは何か。食品の国際規格であるCODEXによると、「ブルガリア菌とサーモフィラス菌という2つの乳酸菌で乳を発酵させたもの」とされる。実際に世界中のヨーグルトも日本のヨーグルトも、ほとんどがこれに当てはまる。
一方のビフィズス菌は、乳酸菌と混同されやすいが、まったくの別ものだ。そして、スーパーなどで確認していただきたいが、ビフィズス菌が入っているヨーグルトとそうでないヨーグルトが存在する。
森永乳業で長年、腸内細菌に関する研究・開発を行ってきた小田巻俊孝氏はこう解説する。
(光岡、1972)
「もともとヨーグルトには、ビフィズス菌は含まれておらず、ビフィズス菌入りヨーグルトを作るには、発酵を担う乳酸菌だけでなくさらにビフィズス菌を加える必要があります。ただ、ビフィズス菌は酸素や酸に弱く、菌を生かしたまま製品化してお客さまのもとへ届けるのは簡単ではありません」
では、なぜ苦労をしてまでビフィズス菌をヨーグルトに足すのかといえば、それはビフィズス菌が、人の健康のカギを握る腸内環境にいい影響を及ぼすと考えられているからだ。
「実は腸内フローラの腸内細菌のうち、有益な働きをする善玉菌のほとんどがビフィズス菌なんです。それに対して乳酸菌(ラクトバチラス菌など)は、大腸にはほとんど生息していません。つまり、腸内細菌の機能を高めるには、ビフィズス菌が重要になってくると考えられます」(小田巻氏)
ビフィズス菌入りヨーグルトを日々とることで、大腸内により多くのビフィズス菌を送り込もうというわけだ。実は、人の腸内のビフィズス菌は加齢とともに減少していくのが一般的なので、ビフィズス菌入りヨーグルトでそれを補う効果も期待できる。
ビフィズス菌の万能な働き
(Odamaki et al, Benef Microbes, 2016)
(Yaeshima et al, Biosci Microflora, 1997)
ビフィズス菌の大きな働きはなんと言っても、大腸内を整えてくれることだ。「整腸作用」と言うと乳酸菌と混同されそうだが、乳酸菌にはないビフィズス菌の大きな特徴は「酢酸(さくさん)」をつくるということにある。
酢酸とはお酢に含まれる有機酸のひとつで、便秘にも下痢にも効能があると考えられているが、その改善の仕組みは大きく異なる。便秘の場合は、酢酸が腸の蠕動(ぜんどう)運動(収縮と弛緩を繰り返す動き)を起こし、それにより排便が促される。一方、下痢の場合は、酢酸の殺菌作用により下痢を引き起こす悪玉菌の増殖を防ぎ(右図参照)、下痢が治まるというメカニズムだ。アプローチが違えども、ビフィズス菌がつくる酢酸が腸を整えているのだ。
実際、右図のようにビフィズス菌「BB536」の整腸作用は研究で実証されている。「ヨーグルト非摂取期間」、「普通のヨーグルト摂取期間」、「BB536入りヨーグルト摂取期間」の3つの期間を比較したところ、「BB536入りヨーグルト摂取期間」が他の期間よりも排便回数が多かったという試験結果が出ている。
さらに、酢酸の殺菌作用は、整腸作用だけにとどまらない。
「酢酸には腸の上皮を強くする作用もあり、病原性大腸菌O157の感染から体を守ることがマウス試験で確認されています。酢酸はお酢として飲むこともできますが、途中で吸収されて大腸まで届かないため、大腸に効かせるにはヨーグルトなどで生きたビフィズス菌を大腸まで送り込み、酢酸を生成させる必要があります」(小田巻氏)
自分のパフォーマンスを引き上げるには、ビフィズス菌入りのヨーグルトがオススメということだ。ただ、それだけはまだ詰めが甘い。ヨーグルトに入っているビフィズス菌のパワーをフル活用するためには、どうやって摂取すればいいのか。
効果的なヨーグルトの食べ方とは?
森永乳業
研究本部 基礎研究所
腸内フローラ研究グループ
グループ長 農学博士
小田巻 俊孝 氏
ビフィズス菌入りヨーグルトを食べる際、まず重要となるのが“頻度”だ。
「外から摂取したビフィズス菌を大腸内に定着させるのは、そう簡単ではありません。なぜなら大腸の壁はすでに、すき間もないほどびっしり腸内細菌で埋め尽くされているからです。ただ定着はしなくても、ビフィズス菌は大腸にいる間に、これまで紹介したような働きをしてくれます。ですからつねに大腸にいる状態にするために、毎日食べることがポイントになります」(小田巻氏)
量はそんなに必要はなく、30グラムで効果が出るという研究結果があるという。カレースプーンのような少し大きめのスプーン1杯だ。
食べる“タイミング”も大切になってくる。前述のとおりビフィズス菌は酸に弱いため、どうしても胃酸によってある程度減ってしまう。それをなるべく避けるには、食後に食べるほうがいい。食後であれば、胃に入った食べ物によって胃酸が中和されているからだ。
またビフィズス菌を活性化させるために、ビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維も意識的にとりたい。オリゴ糖はバナナやリンゴなど、食物繊維は野菜やきのこなどに多く含まれる。
ちなみにビフィズス菌・BB536は、ビフィズス菌の中ではかなり酸素に強い菌種だ。空気に触れても急速には死滅しないので、容器のフタを急いで開け閉めしたり、皿の中でかき混ぜるのを控えたりするほど神経質になる必要はないのでご安心を。
ヨーグルトをとるとき、多くの人はそれが健康にいい影響を与えることを期待するだろう。ただ、論理的なビジネスパーソンであれば、「体によさそうだから」というあいまいな理由ではなく、ヨーグルトの何が健康にいいのか、そして菌のことを考えたヨーグルトの最適な摂取方法にまで考えを巡らせたいところだ。
参考:ビフィズス菌研究所
ヨーグルトの選び方、食べ方ポイント
- ・ビフィズス菌入りのものを選ぶ
- ・毎日食べる(30グラム以上を目安に)
- ・食後に食べる
- ・オリゴ糖、食物繊維と一緒に食べる