AD2021.05.24

 

テレワークで変わるものと変わらないもの 新時代の「働く幸せ」設計術

経済的・物理的な豊かさだけでなく、一人ひとりが自分の幸せを追求すること——well-being——が注目されている。コロナ禍をきっかけに普及したテレワークは、働く人のwell-beingを向上させるのか、それとも低下させるのか。「科学を使ってよりよい世の中をつくる」ことを使命に活躍する希代のデータサイエンティスト・慶應義塾大学医学部 宮田裕章教授に、テレワークの本質について話を聞いた。

テレワーク広告特集総論
制作:東洋経済ブランドスタジオ

「多様な幸せに寄り添うこと」が
ビジネスの核に

宮田裕章

宮田裕章

慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室 教授 2003年3月東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程、同分野保健学博士修了。09年4月より東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授。14年4月より同教授、15年5月より現職

——テレワークの浸透をどのように見ていますか。

人々の働き方は大きく変わりました。コロナ前まではテレワークのメリットを証明しなければいけなかったのが、今では逆に「なぜリアルオフィスで働く必要があるのか」と問われるようになった。私たちの働き方が、転換期を迎えたといえるでしょう。

そして、テレワークで変わったのは働く場所だけではありません。働く仲間や顧客一人ひとりの多様な豊かさに寄り添うことが、ビジネスの核になりつつある。これこそがテレワークの本質です。

——ビジネス以外の場でも、同様ですか。

例えば学校教育なら、教育アプリが普及したことで習熟度に合わせた学習指導をしやすくなったのは大きなメリット。でも、だからといって教師が不要になるわけではなく、むしろ児童・生徒一人ひとりに寄り添って、本当の豊かさを手に入れるために何をどう学べばいいのか一緒に考えて支えてあげる必要があります。そうやって一人ひとりの多様な幸せに寄り添うことこそが教育の本質なんだと、ようやく明らかになってきたと思います。

一方で、飲食業や観光業をはじめ、コロナ禍で苦しみ続けている人たちもゴマンといます。「『ニューノーマル』なんてきれい事で終わらせるな」という思いだってあるでしょう。ひとくくりで語ることはできません。

——新しい豊かさの指標として、well-beingが注目されています。

長年、社会の豊かさの指標としてGDPが使われてきました。しかし、経済的な財だけでは本当の豊かさは測れないということが明らかになってきています。とくにここ数年、共有することで価値が高まる「データ」が、経済を大きく動かす力を持ってきていることに伴って、豊かさの意味も変化し始めました。さらにコロナ禍によって、経済合理性のほかに健康や命、人権、自由といった多様な軸に関心が集まり、さらにwell-beingに注目が集まるようになったというわけです。

ただ、well-beingは一人で完結しません。新しい豊かさは、人と人、人と社会がつながる中で増していくものです。コミュニティをつくって誰かと共感しあったり、同じ目標や未来に向かって努力したりすることが必ず必要になってくる。これをwell-beingの上位概念として、「Better CO-Being」といいます。

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幸せを1つに決めると、
呪いになってしまう

——人と人のつながりが重要だとすると、テレワークがネガティブに作用することもあるのではないでしょうか?

当然、落ちる部分もあるでしょう。フィジカルな場を共有すれば自然に偶発的な対話が起きて、そこから一体感や楽しさ、新しいアイデアなどを得ることができます。テレワークで、これらを得るハードルが高くなっていることは確かです。

しかし、失うものだけを指をくわえて見ていても仕方ない。幸せの本質を因数分解すれば、well-beingの構成要素はリアルな触れ合いだけではないことに気づくはずです。部署でチャットツールを活用したり、オフィス空間を再設計したりすることで、well-beingを高めることは可能です。仕事がオフィスからいったん切り離されたことで、「この仕事は私の未来にどう生きるのか?」「私の仕事は誰の役に立っている?」と考えた人も多かった。そうして問い直しによって社会とのつながりを確認できれば、well-beingは高まります。

宮田裕章

——どこに価値を感じるかは、人それぞれ違います。

もちろん、仲間とオフィスに集まって働くことに価値を感じる人がいてもいい。「こうすればwell-beingが高まる」と答えを1つに決めると、それが呪いになってしまう。大切なのは、働き方を1つのパターンに押し込めないで、それぞれのあり方を認めあえる組織をつくること。それが多様な幸せ、多様な豊かさにつながります。

——多様性を認めることと、全体で1つの方向性をつくることは、相反しませんか。

相反するものではありません。ただし、多様なだけでは、組織としての強さは生まれない。自社のビジネスが社会をどうよくするのか、どんな未来に寄与するのか。SDGsの観点も踏まえて自社の理念、ビジョンをデザインし、全員共通の目標を持つなどして、メンバー同士をつなげることが必要です。さきほど挙げたチャットツールの活用やオフィス空間の再設計といった手法は、ここでも有効になるでしょう。

 

well-beingを軸に、
マネジメントが変わっていくべき

——企業は、こうした変化にどのように対応すべきでしょうか。

DX全般にいえることですが、不可逆な部分がほとんどです。日本国内での進捗は業界や企業によってまちまちですが、これはもはや全世界的な変化ですから、国内だけを判断基準にすること自体が間違い。海外に大差をつけられる前に、他国の成功事例を参考にしながら適応していかなければなりません。

——well-beingを重視すると、マネジメントの手法も変わるのでしょうか。

最近では、企業がwell-being指標をつくる動きが出てきており、今後はそれらを基準としたマネジメントが求められるでしょう。ただ、いきなりすべてを変えようと気負う必要はありません。経済合理性の観点からメンバーの能力や成果、生産性を見ていくことは、引き続き大事です。これまで築きあげてきたことがゼロになるわけではなく、さらに目線を上げて「充実した日々を送れているか」「その仕事はどんな将来につながるか」といった問いを加えていくイメージですね。

——具体的には、どのようなマネジメントスタイルになりますか。

どんなビジネスでも大切なのは、多様性を尊重しながら、働く人がお互いに共鳴しあい、さらに社会とつながれるような環境をつくること。それがBetter CO-Being時代に求められているマネジメントです。一人ひとりの多様な豊かさをわかり合い、寄り添うことが重要です。

かつては働く人が人生すべてを会社に捧げることを前提にして組織を回していけた時代がありましたが、今はさまざまな生き方、働き方を前提にしてマネジメントしなければいけません。ジェンダーや国籍はもちろんのこと、新人もベテランも、パラレルキャリアを築いている人もいるでしょう。組織への貢献度を偏差値のような1軸で測る時代ではないと心得て、メンバーの多様性を認めながら、全体を1つの方向に導いていくべきだと思います。

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