全世界に拠点が存在し、多様な社員が活躍する組織で、いかに円滑なコミュニケーションを実現するか――。この難題に真っ向から取り組んでいるのがJTBだ。「Microsoft Teams」(以下、Teams)をプラットフォームとし、「縦横無尽」をキーワードに社内外のコミュニケーションを活性化させている。トップダウンとボトムアップを巧みに使い分けた取り組みを追った。制作:東洋経済ブランドスタジオ
「もう2巡目も終盤に入りました」
JTBの社長執行役員、山北栄二郎氏が取り組む個所長(※1)との1on1ミーティング(以下、1on1)のことだ。1人当たり約30分、開始した2020年度は約200人、21年度も180人と実施したという。
「弊社の社員数は2万人を超えていますので(※2)、直接コミュニケーションができる範囲は限られていました。その制約から解放してくれたのがTeamsです。以前は、経営ビジョンや経営方針そして事業計画に込めた思いを社員にダイレクトに伝えたくても、有効な手段がなかなか見つかりませんでしたが、Teamsであれば場所や組織の枠、立場も超えてフラットに話ができます。双方向で意見交換でき、理解が深められるという点で、社員との距離がかなり縮まった実感があります」
※1 JTBでは法人事業の支店および個人事業の店舗を「個所」としている。
※2 JTBグループ全体の従業員数は23,785名(2021年3月31日現在)
ダイレクトに話をすることで感情が伝わり、鮮度の高い情報がやりとりできると山北氏。加えて、フレキシブルにスケジュールが組みやすくなったほか、コミュニケーションの質が高まってきたこともメリットに挙げる。
株式会社JTB
代表取締役 社長執行役員山北 栄二郎氏
「以前は、会議への出席を考慮して、出張のスケジュールを組まなくてはなりませんでした。しかし今はTeamsで会議ができますので、出張先から参加ができますし、グループ各社、パートナー企業、そして海外の関係各所とのコミュニケーションも取りやすくなりました。また、Microsoft 365のアプリケーションと連携することで、さまざまな資料や動画の共有もしやすくなり、コミュニケーションを図りやすくなっていると感じています」
制約から解放されると同時に、やりとりが円滑化。トップが感じる変化は、社内にも確実に伝わっているようだ。この1on1を導入したCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)の髙﨑邦子氏は、次のように成果を説明する。
「個所長が以前にも増して積極的に部下とのコミュニケーション機会を持つようになり、それが課長、グループリーダーへと広がっています。社長との1on1で得た気づきが、行動変容を引き起こしているのだと感じます。個所長は経営の意思をしっかり部下に伝えることが出来ているか不安に感じることがあります。しかし、身近には、なかなか相談できる相手がいません。社長との1on1は、その不安を解消する機会としても有効だったと感じています」
「従来の会議では、数時間にわたって同じ空間にいても、社長と1対1で話すチャンスはそれほどなかった」と自身も個所長を経験してきた髙﨑氏は振り返る。個所の経営やマネジメントを担う重要な役割を担っている存在であり、様々な悩みを抱えるミドルマネジメント層にとって、1on1は新たな気づきのヒントを得る場にも、ロールモデルにもなっているのだ。
コミュニケーション戦略を抜本的に改革している背景には、コロナ禍がある。とりわけツーリズム産業は大打撃を受けており、JTBも2020年4月~9月期は売上高が前年比で80%以上減少した。この未曾有の危機を乗り切るには「社員が気持ちを一つにするしかない」と考えた髙﨑氏は、「コミュニケーションのバリューチェーンを起こしていく」と決めた。
キーワードは「縦横無尽」。予測不可能な変化へスピーディに対応するため、あらゆる方向でフラット、ダイレクト、かつインタラクティブなコミュニケーションを図っていこうというわけである。トップダウンだけにとどまらないのが「縦横無尽」の真骨頂。「タテ・ヨコ・ナナメ」の質の高いコミュニケーションやボトムアップの仕掛けも施している。
「その1つが、『Smileプロジェクト』です。組織風土改革の取り組みですが、各個所に設置し、社員が『Smile委員長』そして『Smile委員』となって『Smile責任者』である個所長と共に推進しています。成功事例を共有できる掲示板をSharePoint を使って展開しているほか、事務局とのミーティングもTeamsを活用し定期的に行っています」
株式会社JTB
執行役員
コーポレートコミュニケーション・ブランディング担当(CCO)
ダイバーシティ推進担当髙﨑 邦子氏
この仕掛けは、いろいろな効果をもたらしている。掲示板は組織の壁を越えた横のコミュニケーションを促し、身近な成功事例の共有が自組織への展開にも繋がっている。例えば所属員の埋もれがちなスキルやキャリアを可視化する取り組みでは「4カ国語を操れる」「趣味のヨガはインストラクターレベル」「イタリアの販売には自信がある」といった社員一人ひとりが持つ強みが分かる情報にも到達しやすくなり、ナレッジの共有とともにコラボレーションも活発化している。
また、髙﨑氏がSmile委員長との意見交換の場として重要視している『Smile Teams ミーティング』では、「ワークスタイル変革」や「ダイバーシティ」「コミュニケーション推進」など毎回テーマを設定。Smile委員長が力を入れて取り組んでいるテーマを選んでエントリーし事例共有などを行う場であるが、興味深いのは会話による同期コミュニケーションと、チャットの非同期コミュニケーションが無理なく両立していることだ。
「いろいろと会話をしながら、『気になることがあったらいつでも何でも言ってね』と伝えたところ、チャットで個々の悩みを寄せてくれるようになりました。スキマ時間に返信を作成しています。OutlookやTeamsの時間指定送信を使うことで、お互いの働き方を尊重できるのもいいですね。しかも、入社1、2年目の若手からリーダー層まで幅広いレイヤーとつながることができて、現場の思いを理解するうえで非常に役立っています」