日本マイクロソフト

ADAD2021.12.02

Hybrid Work with Microsoft

3万人企業の縦割り意識を変えた「Teams」活用法 全社に新たなムーブメントを起こした「仕掛け」

社会のニーズが複雑化・多様化する中で、企業には専門性だけでなく分野横断的な取り組みが求められるようになってきた。激しく変化するビジネス環境の中で、迅速かつ柔軟に対応するには、社内コミュニケーションの活性化が必要だ。一方で、長年の縦割り意識を変えるのは決して容易ではない。組織が大きければなおさらだが、わずか1年足らずで社内の雰囲気を一変させた企業がある。電気設備とデジタル技術を核としたソリューションを世界109の国と地域に展開するパナソニック株式会社のエレクトリックワークス社だ。「Microsoft Teams」(以下、Teams)を活用し、従業員約3万人の大組織を変えるムーブメントを起こした「仕掛け」に迫った。制作:東洋経済ブランドスタジオ

Teamsによって生まれた“ヨコやナナメ”のコミュニケーション

役員が熱く語り、その脇で社員が積極的に意見の共有を行っている。「今の話は言っているのはこういうことでしょうか」「こういう方向性があってもいいのではないか」「私はこう思う」――。

実はこれ、パナソニック(株)のエレクトリックワークス社がTeams上で開催したオンラインイベントでの光景だ。社員の会話はチャット上でのもの。リアルイベントのときはもちろん、人が話しているときは「黙って聞かなければ」と考えがちだが、Teamsを活用したオンライン イベントでは、登壇者の話を妨げることなく、発信に対してすぐに議論が展開できる。しかも、部署や職制にとらわれず、別のカンパニーからも参加するフラットなやりとりだ。

大瀧 清 氏

パナソニック株式会社
くらし事業本部 エレクトリックワークス社
社長大瀧 清

「2020年4月にTeamsを一斉導入してから、このように会話が加速し、組織を超えて大きく輪が広がっています」

イベントに限らず、日常の会議でも同様の光景が繰り広げられていると明かす同社社長の大瀧清氏は、長年感じていた課題が解決しつつあると話す。

「縦のやりとりで得られる情報は、意外と限られています。一方で、製造でも営業でも、隣の課が何をやっているかはお互いに知りません。せっかく宝物があるのに活かせていない状態でしたが、Teamsによって“横や斜め”のコミュニケーションが生まれました。パナソニックの他の事業会社とのつながりを含め、新たなイノベーションのきっかけになっていくことを期待しています」

さらりと話しているが、同社の従業員数は約3万人。それほど巨大な組織の文化を変えるのは並大抵のことではなかったはずだ。ログイン率のトラッキングなどの数字の管理にも気を配ったのではと思いきや、「一切そうしたことはしていないし、今後もするつもりはない」と同社常務でデジタルプラットフォーム/ IT担当の井之川裕一氏は明言する。

「どんなこともそうですが、一時的な“やらされ感”では続きません。便利で仕事に役立つとそれぞれが実感できて初めて自発的に使うようになります。だから、Teamsの利活用はプロジェクトではなく、あえて『ムーブメントを起こそう』と呼びかけていました」

今回のようなコミュニケーション改革でKPIを設定したプロジェクトにしてしまうと、KPIの数字にとらわれてしまう。そうした取り組みでは「ムーブメント」を起こせない、とDXセンター部長の藤井典子氏も言及する。

「ターゲットを設定してしまうと、そこを超えることはできないと思うのです。目標数値をいかに達成するかではなく、経営層を含めた従業員一人ひとりが自発的に動かないとコミュニケーションの変化は起きません。

「心理的安全性の確保」と「仲間づくり」がカギ

とはいえ、「ムーブメント」は簡単に起きるものではない。単にTeamsを導入して、使い方のレクチャーをするだけではダメだっただろうと井之川氏、藤井氏は口を揃える。では、どのような仕掛けを施したのか。

「Teamsの使い方やちょっとしたコツを共有できるよう、『たすけあい知恵袋』というコミュニティを立ち上げました。ただ、IT部門だけが回答していると、『ユーザーvs.IT部門』といった対立構造が生まれて回らなくなりますので、他部門の人が回答しやすくなる環境を整えることに留意しました」(藤井氏)

投稿に「いいね!」をつけたりコメントを返したりして、「また投稿しよう」という気持ちを促す。いわば、ムーブメントを起こす仲間づくりだ。注目したいのは、同時に「心理的安全性」の確保に取り組んだことである。役員も総出で自らのコメントを書き込んだり、ハートマークでリアクションをするなど積極的に発信していったことで、「フラットに、自由に自分の意見を言ってもいい場所」という認知を広めていった。

井之川 裕一 氏

パナソニック株式会社
くらし事業本部 エレクトリックワークス社
常務 デジタルプラットフォーム/IT担当井之川 裕一

「上司や別部署の人へ気軽に話しかけてはいけない雰囲気はどこかにありました。『あそこに話を通すにはこことここに承認を得て……』と考えるのが普通でしたが、トップクラスの人が口火を切ったことで、『やっていいんや』という雰囲気が生まれたんです」(藤井氏)

心理的安全性を確保しつつ、仲間を増やしていく。コツコツと繰り返した仕掛けが実を結び、「ムーブメント」となっていったのは、Teamsを一斉導入してから半年後くらいからだった。徐々にTeamsの使い方に慣れ、さまざまな部署で独自に活用され始めたほか、社内SNSのMicrosoft Yammerがスタートしてオープンなやりとりがさらに進んだことも影響しているという。

「もっとも大きなポイントは、毎日の仕事の中心にTeamsがあるところでしょう。Officeアプリだけでなく、ファイル共有のSharePointやデジタルノートのOneNoteなど仕事に欠かせないツールのハブとして機能しながら、カジュアルなつながりの起点にもなっています。メンションや『いいね!』、ハートマークなど、気持ちを表現できる機能が肌感覚で使えますから、弊社のような大所帯でも浸透させられたのだと思います」(井之川氏)

「会社の中で仲間になれずに、お客様と仲間になれるはずがない。」

藤井 典子 氏

パナソニック株式会社
くらし事業本部 エレクトリックワークス社
DXセンター 部長藤井 典子

階層型組織を意識して設計された従来のグループウェアやコラボレーションツールと異なり、さまざまな機能がフラットに配置されているのもTeamsの利点だと井之川氏は指摘する。

「Teamsでは、今までならつながりにくかった部署間のネットワークが自然に生まれるのが非常に面白いですね」

しかし、社内の関係性を考慮して、部署間のつながりが生まれることを躊躇するビジネスパーソンや経営者もいるかもしれない。そう井之川氏に問いかけると、以下の答えが返ってきた。

「あまり気にする必要はないと思います。むしろ『やってみなはれ』の精神で取り組んでみてはどうかと思いますね。社内に遠慮して思うことを話せなければ、お客様ときちんと会話できるはずもありませんから。それに、社内のことなので失敗してもお客様には迷惑がかかりませんし、金額的な損失もたいして発生しません。私もそうしていますが、気楽に『自分らしい』スタイルで取り組んでみてはどうでしょうか」

オープンかつフラットな雰囲気をつくるためには、この「気楽」が1つのキーワードになるのかもしれない。

無理に“キャラ”をつくったり、投稿を増やしたりしても続かないからだ。前出の社長・大瀧氏も次のように語る。

「その点、Teamsは非常に使い方が簡単でわかりやすく、全年代にとって垣根が低いのが素晴らしいと思っています。私もそうですが、50歳代でも積極的に活用しているので、組織の活性化が進んでいる実感があります」

大瀧氏も、経営会議での活用や生産現場とのコミュニケーションへの活用、また、経営メンバーと従業員のコミュニティ(YAKUIN横丁)で、日常の活動や感じたことを気軽に発信し、従業員との双方向コミュニケーションを図っているという。

「弊社が手がける電気設備は、あらゆる“くらしの空間”に欠かせません。カーボンニュートラルな世界を実現し、地球の持続可能性を高めていくには、Z世代を含むあらゆる世代と交流を重ねてイノベーションを起こし続けていくことが重要です。そのヒントを掴むためのプラットフォームとして、今後もTeamsをフル活用していきたいと考えています」

パナソニックは、2022年4月に事業会社制へ移行することが決定している。そこに向けた変革のキーワードは「専鋭化」。絞り込んだ領域において競争力を徹底して磨き上げることを意味する造語だ。それを踏まえると、エレクトリックワークス社がTeamsの活用で目指すオープンでフラットなコミュニケーションは、さらに深い意味を持ってくるのではないだろうか。

大瀧 清 井之川 裕一 藤井 典子
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