日本マイクロソフト

2022.02.28

いま組織が取り組むべき 従業員エクスペリエンス
お客様事例から見えた 目指すべき組織の姿

リモートワークの普及とともに、企業における組織のあり方は大きく変わりつつある。実際に会うコミュニケーションが前提にならなくなってきた中で、すべての従業員が生き生きと前向きに働ける環境をどのように整えていけばいいのだろうか。この重要なテーマを追求したオンラインイベント「今すぐ実現!最高の従業員エクスペリエンス Microsoft Viva」の模様をレポートしながら、今求められている組織の姿と、そのための手立てを探った。
制作:東洋経済ブランドスタジオ

日本の従業員エンゲージメントは世界最低水準 日本の従業員エンゲージメントは世界最低水準

学習院大学 経済学部経営学科教授・一橋大学名誉教授 守島 基博 氏

学習院大学 経済学部経営学科教授・
一橋大学名誉教授
守島 基博

なぜ、企業は従業員エクスペリエンス(Employee Experience、EX)の向上を図らなくてはならないのか。そもそも、従業員エクスペリエンスとは何か。イベントのオープンニングに登壇した人材マネジメント研究の第一人者、学習院大学教授の守島基博氏は、「居甲斐」と表現する。

「私の尊敬する経営者がおっしゃっていた言葉です。その企業にいてよかった、働いていてよかったと思うことで従業員は働きがいを感じ、結果として生産性が上がっていきます」

一方で守島氏は、グローバルで見ても日本企業の従業員エンゲージメントが低いことを指摘。米ギャラップ社の調査結果によれば、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%で調査した139カ国中132位だったという。しかも、コロナ禍でリモートワークをしている従業員の孤独感が高まっている調査結果も多いことを紹介し、「4つの側面で、従業員エクスペリエンスを高めるための投資が求められている」と指摘する。4つの側面とは以下だ。

  • 1.仕事に意味・意義を感じているか(やりがい・達成感・パーパスの共有など)

  • 2.働きやすい職場か(ハラスメントが無い、労働時間が適切、評価や処遇が公平かなど)

  • 3.ワーク・ライフ・バランスや私生活が充実しているか

  • 4.職場環境の有効度があるか(有効に仕事ができる職場環境が提供できているか)

守島氏は、とりわけ「職場環境の有効度」が必要だと説く。仕事が効率的に進んでいるか、必要な情報が獲得できているか、成長できる(学べる)環境にあるか、仲間と適切につながっているか。

「これらができていないと、働く人たちの心が落ち込み、戦力化されなくなってしまいます。結果、離職やチームワークの停滞を招き、人材不足で成果が上がらず、競争に負ける組織となります。今や、働きがいがあって働きやすい環境を提供し、従業員エクスペリエンスを向上させるのは経営者の仕事です。そのための投資をしていく時代になってきたと考えています」

「1on1」の内容がエンゲージメントを左右する 「1on1」の内容がエンゲージメントを左右する

慶応義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教 佐藤 優介 氏

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教
佐藤 優介

守島氏が指摘したように、「職場環境の有効度」を高めるにはどうすればいいのか。その回答の1つを提示したのが次のセッションだ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教の佐藤優介氏が、日清食品と実施した「従業員のエンゲージメントを高めるマネジメントに関する共同研究」の成果を発表した。

「エンゲージメントの低い一般社員は、管理職との1on1ミーティングやチャットによるやり取りが少ないという結果が出ました。逆に高い社員は1on1やチャットによるやり取りを丁寧に行っています」

これは、従業員の意識だけではなく、管理職側の行動や組織構造の問題も影響しているようだ。エンゲージメントが低い部下を持つ管理職は、部外・社外とのメールが多く、権限移譲できていない様子がうかがえるという。つまり、コミュニケーションをメールに頼り、部外調整や社外調整に追われ、指示出しもメールのみでフォローがない。また、部下が気軽にチャットで話しかけられないためチーム内に心理的安全性が確保しづらい状況が予測できます。1on1も形骸化し、進捗確認をするだけの場になってしまっている。この傾向はリモートワークに移行してさらに強まっていると佐藤氏は説明する。

「部門によっては雑談の中でのひらめきや思いつきを試すことが重要ですが、リモートワーク環境下だとそれが少なくなっています。だからこそ、チャットのような気軽に相談できる場づくりが管理職に求められるということが研究から見えてきました。加えて、ネガティブなフィードバックもリモート下だと難しいという声が、管理職側からも上がっています」

だからこそ、気軽なチャットのやり取りと、きちんとフィードバックを伝えられる1on1をしっかり確保している管理職の部下は、エンゲージメントが高まっていく。

「リモートワーク下で、多階層会議への出席がしやすくなったため、部下との1on1が不足したという課題も今回の研究で見えてきました。絶対に出るべき会議は何かを見極め、部下との1on1を優先できるよう時間的余裕を持つ。そのための環境づくりをすることも重要だということです。そのうえで適切な権限移譲をして部下の自信を高めていくことがエンゲージメント向上につながり、結果的に管理職の負担も減っていくといえます」

行動データの可視化が働き方改革も促す 行動データの可視化が働き方改革も促す

渋谷区 経営企画部 経営企画課 主査 岩本 直樹 氏、渋谷区 経営企画部 ICTセンター 主任 小松 慎吾 氏

(写真右)渋谷区 経営企画部 経営企画課 主査
岩本 直樹
(写真左)渋谷区 経営企画部 ICTセンター 主任
小松 慎吾

佐藤氏の説明で従業員エンゲージメントのメカニズムはわかった。では、具体的にどう組織でエンゲージメント向上に取り組めばいいのか。参考になりそうなのが、次のセッションで登壇した東京都渋谷区の取り組みだ。

渋谷区は、職員数2000人の大組織。「早く決めて早くやる」行政機関として、2016年に策定した渋谷区基本構想に基づき、ICTを活用した職員の働き方改革や行政運営の効率化に取り組んできた。とりわけ働き方改革については、「職員のマインドセットをプロアクティブに変える」を主眼に置いていると同区経営企画部経営企画課主査の岩本直樹氏は説明する。

「職員のエンゲージメント向上が、区民の皆様への価値提供につながると考えているからです。職員がやりがいを持ってワクワク働いている状態、プロアクティブに区民ファーストのマインドで働いている状態を実現したいと考えています」

そのためには、事実をベースとしたクイックな判断が重要だと岩本氏。データドリブンによる公共サービスの展開を目指し、渋谷という都市のデータを可視化した「シティダッシュボード」とともに、職員の働き方を含む区役所内の資源を可視化した「オフィスダッシュボード」を構築したという。

「『オフィスダッシュボード』は、渋谷区の職員システムや文書決裁システム、住民情報系システムなどのログデータに、職員一人ひとりのMicrosoft Teams(以下、Teams)や Outlook の使用状況を基に得られるMicrosoft Vivaインサイトの行動データを組み合わせたものです。職員の働き方をより詳細に分析し、組織計画の精度向上と働き方改革の推進につなげるため作成しました」

そう説明したのは、同区経営企画部ICTセンター主任の小松慎吾氏。取り組みの結果、年度間、月間、組織間、職員属性間での働き方の比較がしやすくなったと明かす。

「例えば時間外労働が極端に多い課はTeamsの活用割合が他課に比べてかなり低いということも見えてきました。従来のように人員増員の検討を行うだけでなく、Teamsをはじめとしたツールの利用促進などによる改善の検討や、親和性の高い組織との統合といった組織改正の検討により、働き方改革につなげられると考えております」

もちろん、ダッシュボードのみですべてが把握できるわけではないと小松氏。データの活用には、ソフト面でもハード面でも多くの時間を要すると感じているからこそ、「スピード感を持ってスモールステップで地道かつ段階的に進める」ことが重要だと話した。

なぜこれからの時代はリスキリングが重要か なぜこれからの時代はリスキリングが重要か

LinkedIn 日本代表 村上 臣 氏

LinkedIn 日本代表
村上 臣

慶應義塾大学と日清食品の共同研究は、管理職および経営層が持つべき視点を示した。渋谷区の取り組みは、データドリブンな組織づくりが、従業員エクスペリエンス向上に貢献するという示唆を与えてくれた。では、従業員一人ひとりはどうすればいいのか。最後のセッションに登壇したLinkedIn 日本代表の村上臣氏は「リスキリング(学び直し)が重要になってきている」と説明する。

「世界経済フォーラムが2020年に発表したレポート『The Future of Jobs Report 2020』によれば、2025年までに8500万人分の仕事がAIやロボット等に置き換わる一方で、デジタル化の進展で9700万人分の雇用が生まれるとしています。例えば、数年前まであまり聞かなかったのに、今や一般的になったカスタマーサクセスという職種のように、新たな仕事がどんどん生まれていきます。そうなってくると、従業員全員が新しいことを学び直し、新たな職種に就いてもらわなくてはなりません」

では、どんなことを学べばいいのか。LinkedInの調査によれば、ハードスキルだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力、リーダーシップといったソフトスキルも重要視されてきているという。

「いずれも1日では身に付きません。技術も日進月歩で進化します。毎日少しずつキャッチアップしなければ対応できませんから、経験や努力を積み重ねないと成長できないというグロースマインドセットを従業員一人ひとりに持ってもらわなくてはなりません」

続いて登壇した日本マイクロソフトの榎本直子氏は、村上氏の指摘するグロースマインドセットを定着させるツールとして、Microsoft Vivaラーニングが有効だと話す。

「忙しくて時間が取れない、社内によいコンテンツがなかなか見つからない、逆にコンテンツがありすぎてどこから手をつけたらいいかわからないというお悩みをよく聞きます。その点、VivaラーニングはAIがそれぞれに最適なコンテンツを提案するほか、パーソナライズされた自分だけの学習ダッシュボードを作成できます」

Teams上でアクセスできるため、仕事をしながら、チームメンバーや管理職とおすすめのコンテンツをすぐ共有できるのも特徴。1人だけではなかなか保てないモチベーションも高められるため、学び合いの機運を高めるには最適だ。ちょっとした隙間時間を活用できるほか、すでに契約しているラーニングコンテンツと連携したり、既存コンテンツを取り込んだりできる利便性も見逃せない。

「リモートワークが進み、さらに新たな職種がどんどん生まれていくと、『背中を見て学ぶ』では通用しません。スキルの常時アップデートを従業員が自律的にできるようにするには、やはり職場環境の有効度を高め、ひいては従業員エクスペリエンスとエンゲージメントを向上させる必要があります。そうした組織文化を醸成するのが、経営者の重要な役割になってきたということです」

まさにMicrosoft Vivaは、オープニングキーノートに登壇した守島氏のこの提言を実現させるのに役立つツールだといえる。お互いに学び高め合える組織内文化の醸成が需要なのは言うまでもないが、ITツールがその文化の醸成までも後押ししてくれる、そんなことも期待したい。従業員エクスペリエンスの向上への継続的な取り組みが、予測不可能な時代を生き抜くカギとなるのかもしれない。

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