
学習院大学 経済学部経営学科教授・
一橋大学名誉教授
守島 基博氏
なぜ、企業は従業員エクスペリエンス(Employee Experience、EX)の向上を図らなくてはならないのか。そもそも、従業員エクスペリエンスとは何か。イベントのオープンニングに登壇した人材マネジメント研究の第一人者、学習院大学教授の守島基博氏は、「居甲斐」と表現する。
「私の尊敬する経営者がおっしゃっていた言葉です。その企業にいてよかった、働いていてよかったと思うことで従業員は働きがいを感じ、結果として生産性が上がっていきます」
一方で守島氏は、グローバルで見ても日本企業の従業員エンゲージメントが低いことを指摘。米ギャラップ社の調査結果によれば、日本は「熱意あふれる社員」の割合がわずか6%で調査した139カ国中132位だったという。しかも、コロナ禍でリモートワークをしている従業員の孤独感が高まっている調査結果も多いことを紹介し、「4つの側面で、従業員エクスペリエンスを高めるための投資が求められている」と指摘する。4つの側面とは以下だ。
1.仕事に意味・意義を感じているか(やりがい・達成感・パーパスの共有など)
2.働きやすい職場か(ハラスメントが無い、労働時間が適切、評価や処遇が公平かなど)
3.ワーク・ライフ・バランスや私生活が充実しているか
4.職場環境の有効度があるか(有効に仕事ができる職場環境が提供できているか)
守島氏は、とりわけ「職場環境の有効度」が必要だと説く。仕事が効率的に進んでいるか、必要な情報が獲得できているか、成長できる(学べる)環境にあるか、仲間と適切につながっているか。
「これらができていないと、働く人たちの心が落ち込み、戦力化されなくなってしまいます。結果、離職やチームワークの停滞を招き、人材不足で成果が上がらず、競争に負ける組織となります。今や、働きがいがあって働きやすい環境を提供し、従業員エクスペリエンスを向上させるのは経営者の仕事です。そのための投資をしていく時代になってきたと考えています」