アーキテクチャーのない スマートシティは失敗する

スーパーシティ法が成立しました。

片山スーパーシティ法は、技術活用に向けた規制緩和と都市設計の構築を組み合わせて課題を解決する、いわば生活全般にまたがる改革を「見える化」するためのツールです。立法の背景の1つにあったのは地方創生という目的。東京は今も人口の吸収力がある一方、地方では医療・介護・教育といった面でQOLを保てるかに不安があり、UIJターンがあまり進んでいません。

越塚その理由は、日本のスマートシティのサービスは世界でもかなり充実している部類に入るものの、日本らしい欠点があったからです。日本のITはやりたいことに最短距離で向かってしまって、横串でコンセンサスを取りながら「急がば回れ」で進めることが苦手。その結果、汎用化したりプラットフォームをつくることができず、それに長けた欧米にいつのまにかマーケットを取られることが多かった。

片山そうした横串の連携を図るために、市町村や都道府県、あるいはその枠を超えて、生活圏の中でICTやAI、ロボティクスなどあらゆる技術を使い、問題を解決する方法の1つとして期待されているのがスーパーシティです。そして、スーパーシティ構想を進めるにあたって欠かせないのが、データ基盤連携と標準API化。わが国でも必要な要素技術はすでにそろっていたものの、実践できる土壌が整っていなかった。今回の改正によって、両方を総合的に解決するための有力な道具ができたわけです。

片山 さつき 氏

片山 さつき
自民党総務会長代理 前内閣府特命担当大臣(地方創生、規制改革、男女共同参画)、女性活躍担当大臣、まち・ひと・しごと創生担当大臣。1959年生まれ。東京大学法学部卒。1982年、大蔵省(現財務省)に入省。女性初の主計局主計官などを歴任。2005年に衆院初当選、経産政務官、党広報局長等歴任。2010年より参議院議員として党政調会長代理、外交防衛委員長等を歴任。
2020年7月17日には著書『スーパーシティ 社会課題を克服する未来のまちづくり』(学校法人先端教育機構)が刊行。

越塚都市づくりは社会基盤があるので、一つひとつ積み上げていくことがとくに大切です。それがまさにアーキテクチャーと呼ばれる理由。日本がこの分野で世界をリードしていくならば、アーキテクチャーから考えないとダメです。内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AI時代のサイバー空間基盤技術」ではアクセンチュアの協力もあって、2019年、日本で初めてのスマートシティのアーキテクチャーができました。これは大きな前進です。

中村アーキテクチャーの重要性は100%同意です。スマートシティは市民と対話しながらアジャイル的に進めていく必要がありますが、最初にアーキテクチャーがないと、最初は先進的でも、進めるうちに収拾がつかなくなっている自治体も少なくありません。一方、会津は 9年前に会津モデルをつくって、アーキテクチャーに落とし込みました。そして、仕組みを標準化してプラットフォームをつくり、アクセンチュアのみならず、参加したい企業にオープンにして、多くの関係者を巻き込んでサービス開発してきたおかげで今も進化を続けています。

もう1つの課題は、地域でつながることでしょう。スマートシティは都市同士でつながることで相乗効果が期待できますが、システムが違うとコネクトするのにコストも時間もかかってしまう。つながるための標準化が必要です。

日本のアーキテクチャーは世界に輸出できる

片山スーパーシティ法では、さまざまなデータを持っている方々がルールに従いながらつながる基盤をつくることを法定しました。インターフェースや標準APIに着目するのは、今までの政治や官僚の社会にはなかった発想。何しろマイナンバーと住民基本台帳すらつながっていない国ですから(笑)、データ連携基盤を法定化した意味は非常に大きいと思います。

越塚 登 氏

越塚 登
東京大学大学院情報学環教授。1966年生まれ。東京大学大学院 理学系研究科 情報科学専攻 博士課程修了、博士(理学)ユビキタス情報社会基盤センター共同統括。東京工業大学助手、東京大学大学院助教授などを経て、2009年より現職。研究テーマはユビキタスコンピューティング、リアルタイムシステムなど。東京大学大学院情報学環の越塚登研究室では、データの利活用によって産業分野や社会にイノベーションを起こすための研究を行っている。

越塚データ連携について方向性を示すなら、集中型ではなく連邦型、つまり各都市や地域が各分野でそれぞれにデータ基盤を持ちつつ、それらをオープンにしてフェデレーション(さまざまな都市サービスやユーザー認証などを連携)でつないでいく形が理想です。日本は中国のような強い政府があるわけではないし、アメリカのようにGAFAなどの巨大企業による寡占化があるわけでもない。その中でデータ連携しようと思えば、どこかに巨大センターをつくって集中的に管理するのではなく、連邦型でやるしかありません。

ただ、これはむしろチャンスです。中国やアメリカ以外の国、とくに、東南アジアはむしろ日本と状況が近いですから、日本のアーキテクチャーがいちばん参考になると注目しています。いいものがつくれたら、スマートシティのインフラとして輸出できる可能性があります。

中村1つ付け加えると、連邦型で、なおかつオンとオフで切り替えられる自律分散社会を目指したいですね。今回のコロナで、実は会津地域は感染者がゼロでした(対談時現在)。ですので、会津は稼働できるのに、東京で緊急事態宣言が出ると日本全体が止まってしまう。こうした問題も、都市OSのAPIが標準化されていてスイッチングできれば柔軟に対応できます。そのためにはオフグリッド状態でも自立可能な地産地消モデルを実現したうえで、平常時はオンで効率を最大化させるために各地がつながっている。首都圏で災害が起きて災害地域とオフになっても、ほかの問題のない地域とオンでつながって経済や生活を回し、日本全体は止まらないようにしていく。都市OSが連携することで十分実現可能なので、ぜひこれをやっていきたいですね。

日本人は 個人情報の提供に ネガティブではない

データ活用に可能性を感じる一方で、個人情報保護で不安を持つ住民もいます。

片山国や独立行政法人、地方公共団体がデータ提供する場合には、本人同意を事前に取るか、あるいは誰なのか識別できないぐらいに加工して、かつ復元できないようにすることが必要になっています。そのほかにも細かく決まりがあって、ルールは整備されているんですね。ルールが守られていても犯罪的な行為で漏洩するリスク自体はありますが、もともとデータはどこかに保管されているわけです。データ連携基盤があるからという理由で、そのリスクが増すことはないと考えています。

中村 彰二朗 氏

中村 彰二朗
アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括。東日本大震災を機に復興・地方創生を実現するため会津若松市に拠点を移し首都圏一極集中から機能分散配置を提言し市民主導型スマートシティ事業開発、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。オープンガバメントコンソーシアム代表理事。日本IT団体連盟副会長。

中村アクセンチュアは2020年2月、グローバルで調査を行い、「自分にパーソナライズされた、よりよいサービスが受けられるのなら、個人情報を行政等と共有しても構わないか」という質問をしました。日本人はネガティブな回答が多いだろうと思われがちですが、実際は79%の回答がポジティブでした(※)。まずはその前提、ファクトに基づいてデザインすることが大切です。

いきなりオプトアウト(本人が識別される個人データの第三者への提供を、 当該本人の求めに応じて停止すること)は住民から反対を受ける可能性が高いですが、今回のパンデミックを経験して、「自分や地域社会に役に立つのであれば情報を共有してもいい」というマインドセットは広がったのではないでしょうか。例えば、平時はオプトイン(個人データを第三者へ提供するためには、あらかじめ本人の同意を得る)、災害時だけオプトアウトにして、スマートシティ運営側が位置情報を活用して避難誘導するといった併用パターンも、今後はありえると思います。

片山そのマインドの変化に期待したいですね。法案審議のとき、AIに支配される映画を持ち出して批判した方がいらっしゃいました。しかし、その見方はどうでしょうか。スーパーシティの目的は、人間が人間らしく暮らせるサステイナブルな社会を、地域単位でつくっていくこと。ですから、法案を作る過程でも「SDGsの考え方に合致したスーパーシティでなければいけない」と強調し、2019年6月のG20のサイドイベントとして開催した“スーパーシティサミット”は国連広報の後援も得ています。これからも、目指すところはきちんと伝えていかなければいけないと思います。

※出典:アクセンチュア最新調査——市民は公共サービス向上のためであれば、個人情報共有に前向きであることが明らかに https://newsroom.accenture.jp/jp/news/release-20200316.htm

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