デジタルやテクノロジーを強みとしてさまざまなパートナー企業とともに「変革」を起こしてきたアクセンチュア。そのパートナー企業の1つに、セイコーエプソン株式会社(長野県諏訪市、以下エプソン)がある。同社は、「持続可能でこころ豊かな社会を共創する」をビジョンステートメントとして掲げ、「分散型社会をつなげる」「環境負荷の低減」など5つの社会課題に取り組む姿勢を明確にしている。今や社会課題の解決にデジタルの力は欠かせないが、同社が進めるDXで社会にどのような「変革」をもたらそうとしているのだろうか。
制作/東洋経済ブランドスタジオ
「デバイス」をつないで「サービス」にすることが新しい価値を生み出す土壌になる
――「DXを通して社会課題を解決する」というテーマは、どのような経緯から生まれたのでしょうか。
𠮷田 私たちは、商品としてプリンティングやスキャニングのデバイスを提供してきましたが、これらのデバイスは以前からインターネットにつながっており、IoTの機能を備えていました。デジタルをさらに活用し、「デバイス」だけにとどまらず「サービス」として提供できれば、よりよい解決策を導けるはず、と考えました。お客様とお客様、あるいはお客様と私たちがデジタルでつながることが、新しい価値を生み出す土壌になるのではないか。そうした狙いから、2年前にDX推進本部を立ち上げました。
𠮷田潤吉 氏
セイコーエプソン株式会社 執行役員
プリンティングソリューションズ
事業本部長
――デバイスをつなぐことで、どのような社会課題が解決されるのでしょうか。
𠮷田 社会課題解決に貢献するには、つなぐと同時に私たちのビジネスモデルを変革する必要があります。例えばBtoC領域では、欧州を皮切りに2020年より「ReadyPrint」というサービスを展開。以前はプリンターを販売後、お客様がご自分で判断して消耗品を購入されるビジネスモデルでしたが、ReadyPrintはお客様のデバイスと私たちをつなぎ、定額あるいは利用に応じた課金という契約ベースでお客様にプリンティングをサービスとして提供しています。
これにリモートでプリントやスキャンができるクラウドサービス「Epson Connect」を加えると、さまざまな社会課題を解決する糸口が見えてきます。例えば教育問題はその1つ。COVID-19で行動制限がかかると、自由に学校や塾に通えなくなるという問題が出てきました。そこにこの仕組みを活用すれば、学校・学習塾と生徒をつないで教材を送り、またスキャンして送り返すというやり取りが容易にできるようになります。学習支援については、ある学習塾と組んで実証実験を行い、すでに上々の成果が出ています。これはほんの一例です。デバイスの上にアプリケーションやコンテンツを乗せることで、社会課題解決の可能性が大きく広がるでしょう。
BtoB領域では、業務用大判プリンターの運用を遠隔化するサービス「Epson Cloud Solution PORT」を開発し、サービスを開始しました。稼働状況が遠隔で把握できるため、お客様は業務の効率化を実現できます。また、遠隔地への設備増強も容易になります。分散型の製造が進めば消費地との物流距離が短くなり、脱炭素にも貢献します。
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月額定額サービスでインクの減りを気にせず、たくさんプリントできる
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インクが減ったら自動配送され、故障時は代替機をお届け
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本体、インク、メンテナンス費用すべて含まれた定額制で利用できる
※サービス対象は契約内容によって異なりますので、詳細はエプソンにお問い合わせください
「Epson Cloud Solution PORT」のサービス画面の例
勝木 エプソンが取り組んでいるのは、モノからコトへ、つまりサービス化へのビジネスモデル変革を通した社会課題解決です。サービス化を推進するときに重要になるのが、お客様との接点を360度で捉えて情報を一元管理すること。アクセンチュアは、それを実現するための顧客データ基盤の構築に加え、それらを支える業務プロセス・役割分離・KPIの定義なども含めて支援をしています。
勝木悠也 氏
アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部
マネジングディレクター
今回感じたのは、顧客中心のサービスビジネスに舵を切っていくという皆さんの熱量の高さです。𠮷田さんは毎週のように現場の会議に出席して、強いコミットメントを示していました。掛け声だけのDXで終わる企業もある中で、本質的な変革をしていく意思が明確に伝わってきて、私たちもチャレンジしがいがありました。
𠮷田 DXは2年前から取り組んでいましたが、COVID-19で10年先の未来が突然やってきて、待ったなしの状況になりました。取り組みをさらに加速させなければいけない中で、ともに高速にPDCAを回すことができ、本当に心強いパートナーシップでした。
地方からグローバルへ、 アナログとデジタルの橋渡し
――エプソンは、アクセンチュアも参画する福島県会津若松市の「スマートシティAiCT(アイクト)」にイノベーション拠点を開設しました。
𠮷田 数年前からアクセンチュアに誘われていましたが、昨年訪問した際に「オープンイノベーションに最適」と直感して即決しました。私たちは長野県に本社を持つグローバル企業であり、日本を地方分散型の産業構造に変えなければいけないという問題意識を持っています。地方と地方が一緒に取り組むAiCTは、私たちが目指す世界観にぴったりです。
エプソンはエコタンク搭載インクジェットプリンター※を世界150カ国以上で販売するなど、世界中で事業を展開しています。そうしたリソースを生かして、スタートアップ企業ともプロジェクトを立ち上げ始めています。引き続き、世界でビジネスの機会を探っていきたいですね。
勝木 当社は東日本大震災以降、会津若松におけるDXを支援してきました。多くの企業の方と共創を進める中で、デジタルとアナログの接点に対する技術と経験を持つエプソンの参画は非常に力強いです。今社会で急速にDXが進んでいますが、どの分野でもアナログ処理は残ります。例えば取引先からの請求が紙なら、紙とデジタルの双方をデータとして一元化して、データからデジタル・紙双方のアウトプットを出す必要があります。エプソンにはそうした場面で、アナデジ双方を含めたプロセス管理やデータ管理について価値を提供していただけるのではないかと楽しみにしています。
※大容量インクタンク搭載により、消耗品や包装材に関わる資源消費量を低減。消耗品のCO2排出量はカートリッジ方式の約1/5(エプソンの製品にて比較)
顧客データの連携・分析こそが社会課題の解決に生かせる
――最後に、今後のビジョンについて教えてください。
𠮷田 いま私たちは「Epson as a service」というコンセプトを打ち出そうとしています。デバイスを通してお客様とつながり、サービスやソリューションを継続的に提供していく戦略ですが、これを実現するには顧客データ基盤が必須です。顧客データを点で見るだけでは十分に活用ができません。データを連携させて分析してこそ、お客様の課題解決、さらに社会課題の解決に生かすことができます。アクセンチュアはその分野のコンサルティングのご経験が豊富ですので、知見を共有していきながらこのコンセプトを推し進めていきます。
勝木 DXには、「統合されたデータ」に加え、データを活用する「組織・人材・プロセス」、そしてデータを経営に活用する「トップのマネジメントやコミットメント」が欠かせません。エプソンがDXをPoC(実証実験)で終わらせず、一気にコアビジネスに取り込みつつあるのも、この3つがそろっているからでしょう。
私たちは、引き続き先手を打ってご提案していくつもりです。例えば社内システムやデバイスからの社内データだけでなく、検索データ、ECデータ、家計簿データなど外部のデータと組み合わせ、さらにアナリティクスやAIの技術を掛け合わせれば、新たな社会課題やその解決策が見えてくるかもしれません。これからもぜひ一緒に社会課題の解決に貢献できればと思っています。
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高画質・高生産を追求したエプソンの昇華転写プリンター(1/2)
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