松屋

AD2021/2/8

MATSUDA DESIGN

「百貨」の価値を刷新する松屋銀座が目指す未来

秋田,田川,佐藤

2019年11月に創業150周年を迎え、さらなる進化を目指して歩み出している老舗百貨店「松屋」。同店は今、銀座に店舗を持つことや、良質なデザインを長年啓蒙してきた強みを生かしながら、百貨店のあり方そのものを刷新しようとしている。日本を代表するデザイナーである佐藤卓氏と、気鋭のデザインエンジニア・田川欣哉氏、そして松屋社長である秋田正紀氏が、松屋や百貨店そのものの「ワクワクする未来」を語った。 制作・東洋経済ブランドスタジオ

秋田,田川,佐藤

未来の百貨店につながる 「種まき」ができた

秋田 正紀

松屋 代表取締役 社長執行役員 秋田 正紀

1958年12月兵庫県生まれ。83年東京大学経済学部卒業後、阪急電鉄(現・阪急阪神ホールディングス)入社。経理や人事などの部門を経験。91年松屋入社。99年取締役、2001年常務、05年専務、同年副社長を経て、07年より社長を務める。 経済同友会 副代表幹事

【日本デザインコミッティーとは】

1950年代前半に「グッドデザインの啓蒙」を目的に設立された非営利の団体。メンバーにはデザイン界の第一線で活躍するデザイナー、建築家、評論家などが集う。松屋は55年に「デザインコレクション」という売場を設け、その活動を支えてきた。佐藤卓氏、田川欣哉氏もメンバーの一人

まずは創業150周年に関する取り組みの内容についてお聞かせください。

秋田松屋では創業150周年を機に、多岐にわたるプロジェクトを立ち上げました。佐藤さんには、そうした150周年プロジェクトのクリエイティブ・ディレクターとして、陣頭に立っていただいています。

佐藤プロジェクトで掲げたのが、「デザインの松屋」という標語です。松屋には現在までの約70年にわたり、日本デザインコミッティーと共にグッドデザインを啓蒙してきた歴史があります。今こそ「デザインの松屋」という意識を社員の方々にしっかり共有し、さらには外部に発信していく時だろうと。そこで展開したのが、「実験」と称して行う新しい試みの数々です。

例えばすばらしい仕事をしている社員に他の社員が「グッドデザインカード」を渡す、福袋だけの売場を設ける、エレベーターガール・エレベーターボーイを復活させる、などですね。ほかにも環境委員会やギフト委員会などさまざまな委員会を立ち上げて社員にも参加いただき、討議を通してデザインとは何かを考える取り組みもスタートしました。

秋田根底には、松屋におけるデザインを「気遣い」と定義づけたことがあります。造形のデザインだけでなく、気持ちよく、便利に、豊かに生活していただくための気遣いこそが、松屋にとってのデザインであるという考え方です。これを踏まえると、デザインは一部の特別な人が関わるものではなく、全社員がデザインに携わることになります。また、松屋は銀座店8階の展示スペースにて2年に1度、日本デザインコミッティーと共同でさまざまな展覧会を行ってきましたが、150周年を機にこちらも拡大することになりました。場所も銀座店にこだわらず、日本唯一のデザインミュージアムである六本木「21_21 DESIGN SIGHT」で行おうと。そのディレクターを務めていただいたのが、田川さんです。

田川私はデザインコミッティーの中ではいちばん若い部類に入りますが、ほかのメンバーはデザインの教科書に載るようなレジェンドの方々ばかりです。そこで企画したのが、日本デザインコミッティーのメンバーがデザインの過程で生み出したスケッチや図面、模型を見せる展覧会「㊙展 めったに見られないデザイナー達の原画」でした。

日本を代表するデザイナーたちによる巨大な知識と知恵の集合体を、六本木を回遊する若いクリエーターやデザイナーの方々に開放したいと考えたのです。それには、ものができる途中のドキドキ感やインスピレーションが、人々をひき付けるコアな価値になるのではないかと。展覧会は2019年11月から約10カ月開催され、9万人を超える方々にお越しいただきました。若い人たちにも「こんなの見たことない」と喜んでもらえました。

秋田こうした取り組みの数々は、ただの周年のプロジェクトにとどまらず、未来の松屋につながる「種まき」になったと捉えています。

【日本デザインコミッティーとは】

1950年代前半に「グッドデザインの啓蒙」を目的に設立された非営利の団体。メンバーにはデザイン界の第一線で活躍するデザイナー、建築家、評論家などが集う。松屋は55年に「デザインコレクション」という売場を設け、その活動を支えてきた。佐藤卓氏、田川欣哉氏もメンバーの一人

地方の優れたプロダクトを 持続的に発信していきたい

田川 欣哉

デザインエンジニア、Takram代表 田川 欣哉

東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2015年から18年まで英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートにて客員教授を務め、18年に同校より名誉フェローを授与。デザイン・テクノロジー・ビジネスを駆使するデザインイノベーションと呼ばれる仕事に携わる

佐藤一方で松屋といえば、地方創生にも力を入れています。例えば2020年末には、福井県に本社を置くリボンメーカー「SHINDO」とコラボレーションし、華やかなクリスマス展示を行いました。また年始に当たっては、徳島県の藍師・染師「BUAISOU」とコラボし、巨大な藍暖簾(のれん)を展示しました。私自身、リボンや藍染めでこんなことができるのか!と正直驚きました。松屋ではつねにこうした伝統と革新性を兼ね備えた地方の作り手を、リサーチされています。

秋田私はいま経済同友会の副代表幹事を務めていますが、4年前は地方創生に関する委員会の委員長でもありました。その関係で日本各地で調査研究を行ってきましたが、その中で、すばらしいものづくりに携わりながらも、広く発信するすべがなくて困っておられる事例をいくつも見てきました。そうしたものづくりを世に知らしめることが、東京の銀座で事業を営むわれわれの役割なのではないかと思うようになりました。それ以降は地方のプロダクトと松屋の各現場をつなげる取り組みを、積極的に行って参りました。何か特別なことをするよりも、われわれの行う事業を通して発信していくことが、地方創生や社会貢献として末永く続けられる形ではないかと考えています。

コロナ禍はまだ収束の兆しが見えません。この時代に、百貨店の力やデザインの力をどう生かしていくべきでしょう?

佐藤たとえ行動が制約されても、人がものに触れたり体を動かしたりする本能的喜びは、絶対になくなりません。だからこそ150年続いてきた歴史ある百貨店ならではの安心感や信頼性、あるいは1つの建物内にいろいろなものが編集・演出され、それを実際に体感できること。そうした今まで当たり前とされてきた価値が、大きく高まりつつあるのではないでしょうか。

田川よく未来が早回しでやってきているともいわれますが、まさに今は目の前の状況がこれまでの5倍速くらいで変化している感覚です。だからふと気を抜くと、提供側が提供する価値と、お客様が必要とする価値が大きくズレてしまいかねません。そのズレを解消するには、自分たちが持っているものを一度横に置き、いま何が求められているのか、何が困り事になっているのかをお客様に愚直に寄り添って見つけていく。それを毎日行い、改善し続けることが必要ではないでしょうか。まさに実験であり、デザイン=気遣いがとても重要な時代だと感じています。

秋田松屋にはインターネットやデジタルに慣れておられない高齢のお客様も多くいらっしゃいますので、そうしたお客様にどうお応えするかも重要です。例えばネットを使えない方にはお電話で対応し、さらにただ注文を受けるだけでなく、必要とあれば「お話し相手」ともなって差し上げる。そうしたこともわれわれの使命だと捉えています。最近では、ご注文いただいた商品をタクシーでご自宅に配送するお買い物代行サービスも始め、ご好評いただいています。

福井のリボン

福井のリボンの魅力を 世界に発信

松屋銀座では2020年末のクリスマス期間、アートユニット「リボネシア」のリボンアートを展示。正面ウィンドーの大きなトナカイをはじめ、幻想的な世界観の作品たちが全館を彩った。使用されたリボンはすべて、福井県に拠点を置くリボンメーカー「SHINDO」製。同社はグローバルにも展開し、そのリボン生産量は世界でもトップレベルだ。

「福井の工場で加工され出荷されたリボンが銀座という特別な場所でアート作品になるのは感慨深く、本当にうれしかったです。松屋銀座さんは、普段はなかなか伝えられないリボンの新しい価値を見つけて、発信していただき、産地と銀座をつないでいただきました」(SHINDO・鎌田進氏)

福井のリボン 福井のリボン

「百貨」であることより 「一貨」の価値を突き詰める

佐藤 卓

デザイナー、TSDO代表 佐藤 卓

東京生まれ。1979年東京藝術大学デザイン科卒業、81年同大学院修了。株式会社電通を経て、84年佐藤卓デザイン事務所(現・TSDO)設立。企業の商品開発からパッケージデザイン、テレビ番組の総合指導、各種展示会のディレクションなど、活動は多岐にわたる

「未来の松屋」像とはどのようなものでしょう?

田川百貨店はものがたくさんあるということで「百貨」の名が付いていますが、今やECは百貨店を超える「億貨店」「兆貨店」となっています。逆に百貨店には、「一貨」の価値を突き詰める道があると考えています。例えば松屋銀座7階のデザインコレクションでは、日本デザインコミッティーの各メンバーが選んだデザイングッズに、メンバーの解説が付いています。たとえ量産品であっても、それがあることでまったく違うものになりますよね。贈り物一つをとっても、プレゼントのプロがラッピングやメッセージカードの相談に乗ることで、特別なギフトとなります。そうしたひと手間により、プロダクトが物語になる。

もちろんデジタルを否定するわけではなく、むしろデジタルを、「一貨」の価値を高めることに最大限利用していく。そんなふうに、松屋には「テクノロジーと対人サービス・気遣いの総合芸術」を担っていただきたいです。

佐藤150周年を機にあらゆるコミュニケーションの実験をしましたが、今後も実験を続けていき、「松屋って面白いところだよね」「次に何をやってくれるか楽しみだよね」と言っていただける場所になったらいいですね。ですから150周年プロジェクトは決して期間限定の取り組みではなく、あくまでも「始まり」なのだと考えています。

秋田お二人から伺ったことは示唆に富んでいて、ぜひ参考にさせていただきます。モノからコトへという時代の流れに沿うように、百貨店での体験を通して気持ちを和らげ、日々を豊かに過ごしていただく。そんなふうに百貨店は、気持ちが華やいでワクワクする「百華店」であるべきだと、改めて感じました。

同じものであっても、ご提案方法によっては無二の価値を帯び、それにより真の豊かさをお客様にご提供できる。それができれば、今後も百貨店は未来永劫に必要とされ続けると思っています。

巨大暖簾

徳島の藍師・染師が手がけた 9メートル超の巨大暖簾

クリスマスのリボンアートの直後に展示されたのが、藍で染め上げた巨大な暖簾だ。とくに館内の吹き抜けに飾られた暖簾は、長さ9メートルにも及ぶ。また地下通路のポスターギャラリーの展示も「触れるアート」とあって話題となった。手がけたのは、藍の生産量日本一を誇る徳島県を拠点に活動する新世代の藍師・染師グループ「BUAISOU」。

「コロナで日本全体が大変な状態になっている中で、徳島にいる僕らに大きなご依頼をいただいた。藍染って藍色であれば同じに見えますが、僕らは天然素材のみを使って色を出している。薬品を使えば手間が省けますが、見えないところにもこだわっていて、そういう思いを込めた暖簾を銀座に出すことができてうれしく思っています」(BUAISOU代表・楮覚郎(かじかくお)氏)

藍師・染師グループ「BUAISOU」 藍師・染師グループ「BUAISOU」

お問い合わせ

松屋銀座

東京都中央区銀座3丁目6番1号
TEL:03-3567-1211

松屋 公式サイト
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