AD2020.03.31

 

マネジメントの真価が問われる 失敗しないテレワーク導入のコツ

在宅勤務をはじめとしたテレワークへの移行が急速に進んでいる。今やテレワーク環境の整備は「一部の進んだ企業だけ」というわけにはいかなくなっている。うまく導入できれば、生産性の飛躍的な向上につながるともいわれているテレワークを成功させる秘訣を、テレワークの先駆者たちに聞いた。 制作/東洋経済ブランドスタジオ 調査協力/クロスマーケティング

テレワーク、
あなたの会社の導入状況は?

今回、20〜60代のビジネスパーソン300人に、テレワークの実施状況についてのアンケートを実施した。

  • Q1 あなたの職場では
    テレワークを実施していますか?

    図1
  • Q2 あなた自身はどれくらいの頻度でテレワークをしていますか?

    図2
  • Q3 テレワークを実施して感じた
    業務上の課題はありますか?

    図3

    「はい」と答えた人が感じた課題は?

    • 「紙文化が残っていて、押印などの対応が必要」
    • 「自宅のネットワーク環境が弱い」
    • 「周りで浸透していない」
    • 「書類が見られない」
    • 「自宅以外の作業場所の確保」
  • Q4 テレワークを実施して
    生産性は上がりましたか?

    図4
  • ※全国の20~60代ビジネスパーソン300人を対象にオンライン上で、2020年3月18日に実施。

意外にもテレワークを実施していない職場が8割を超える結果(3月中旬調査時点)に。している人は、週に1〜3回程度が多い様子。また、テレワークをしている人のほとんどが「生産性は変わらない」と回答している。まだまだ、テレワークに踏み切れていない職場が多いものの、環境さえ整えれば懸念されるような「生産性の低下」はとくに心配する必要はない。ならば、災害時のスムーズな業務遂行のためにも一刻も早くインフラ投資を進めることが肝要といえるだろう。

テレワークのプロに聞いた
マネジメントのOK・NG

長沼 史宏

TDMテレワーク 実行委員会 長沼 史宏

アステリア コミュニケーション本部長。都心における交通需要調整の必要性を認識するとともに働き方の多様性を重視する首都圏の企業や自治体など約30社が加盟するTDMテレワーク実行委員会事務局委員長を務める。一般社団法人ブロックチェーン推進協会 事務局長 兼 広報部会長。

テレワークは異なる環境の人たちが
一緒に働くためのインフラ

弊社では社長をはじめ、社員全員がテレワークを実施しています。そもそものきっかけは東日本大震災。災害によって電車が止まったり、ライフラインがダメージを受けた場合に、今までのように「出勤」を前提としていると、今後また何か起きたときに事業の継続性に影響が出てしまいます。もともとテレワークをしやすいエンジニアなどのクリエイティブな職種以外である管理部門や営業部門でもテレワークができるように、強制的に月に1度の実験を行い、必要な機材やビジネスの現場で必要になるアプリを洗い出し、制度面での体制も整備した結果、2013年頃には全社的にテレワークができる環境が整っていました。

日本ではまじめな人が多く、「テレワークを推進する」と言っても、どうしても会社に来てしまう人も多いです。そこでテレワークの利用価値を全社員と共有し定着させるための取り組みとして、2015年には「猛暑テレワーク」という制度を始めました。最高気温予想が35度以上の猛暑日は会社としてもテレワークを強く推奨するというワークスタイルで、早朝に社員にスマホアプリでテレワーク推奨日であることを通知し、そのままテレワーク申請をアプリ上でワンタッチでできるようにしたところ、一気に全社的に広まりました。今は不確実性の高い時代、こうやって平時に体制を整えておくことで、災害が発生したときにも混乱せずに事業を継続していくことができます。

また、テレワークは、多様な生き方、考え方、働き方の受け皿としても期待できます。つまり、テレワークによって、海外にいたり地方で生活している人、さらには家庭の事情で親元で暮らす必要のある人など多様な仲間が一緒に働くためのインフラであるとも言えます。これにより、親の介護や配偶者の転勤といった退職理由もなくなりますし、海外などの離れたビジネスパートナーと仕事をすることでイノベーションが生まれる可能性も高くなります。今までの日本のように画一性の高い環境よりも、バックボーンが異なる仲間が集まった方が斬新なアイデアが生まれやすい。いつまでも同じ場所にいる人たちとしか仕事ができない状態では、新しい価値を生み出すことはできないでしょう。

  • OK 管理職から率先して
    テレワークを実践する

    テレワークに対して「楽をしている」と感じさせない共通の理解を深めることが必要です。進んでいる会社ほど、社長や管理職自らが率先してテレワークをしています。また、目の前にいない相手でも適切なマネジメントができるか? いかに個々の成熟度や個性・特性に合わせた適切なフォロー体制やコミュニケーションが取れているか? といった管理職のマネジメントスキルが、テレワークを推進するうえでは、重要なカギになるのです。適切なマネジメントができないからこそ、テレワークに対して「楽をしている」という疑念が社内に広がってしまうのです。

  • NG 承認を得ないと
    テレワークできない

    有休と同じで、許可をもらうというプロセスがあると、どうしても後ろめたさが出てきてしまいます。引け目がある状態では、現場も「評価に響くかも」という不安が拭えず、いつまで経っても浸透しないでしょう。会社でも自宅でも、個人のスタイルに任せ、ある程度主体性を認めることが重要です。管理職は、普段から時間や勤務態度ではなくアウトプットで部下の仕事の価値を見抜かなければいけません。

中島一明

ベルフェイス代表取締役 中島一明

1985年生まれ。起業を志し高校を1年の1学期で退学し、15歳で土木会社に就職。19歳で世界一周をしながら200枚のビジネスプランを作成。21歳で起業し、「社長.tv(ティービー)」という中小企業経営者を動画で紹介する広告メディアを展開。2015年4月にベルフェイス設立、現在に至る。

方法論よりも、
提供する価値の本質を
見極めることが重要

テレワーク成功のポイントは、マネジメント側が、いかに現場の社員を信じることができるかどうかにかかっています。まずは信じたうえで、「テレワークしやすい環境」を会社側から一歩踏み込んで整えること。例えば弊社では、休校で子どもが自宅にいて在宅ができないという従業員に対して1人当たり10万円分のベビーシッター代を支給しています。

今の時代、そもそも「対面でやること」の価値がどんどんなくなっていっています。それは、営業も含め、どの業界も同じ。本当に顧客の立場に立ったとき、必ずしも相手が直接会うことを望んでいるわけではありません。もちろん、直接会うことに意味がある場合もありますが、有事の際には、「何が何でも訪問する」という姿勢は自己満足に陥ってしまう危険性があります。また、人材採用の点からも、過去の価値観のままでいることは大きな損失につながりかねません。

経営層は、自分たち世代の成功体験を持ったまま「なんとなく」昔の商習慣を引きずっていると、顧客からも働き手からも選ばれなくなってしまうでしょう。そこにこだわらずに新しい価値を生み出すことに注力できるかどうかで、今後の時代を生き抜くことができるかどうかが決まります。

  • OK 週単位でのKPIを可視化する

    「本当にやっているのか?」と不安になるのは、月末の売り上げしか追っていないから。かといって、カメラを付けて監視しようとしたり、すべてをチェックして日報を出させて縛り付けるのもモチベーションを低下させます。重要なのは、目標に至るまでのプロセスを分解して、KPIを設定し、いつまでに何をやり遂げたかを可視化すること。それさえ把握できれば問題ないはずです。

  • NG 今までの感覚で判断する

    「会社に来るのが当たり前」「直接顔を合わせないと誠意は伝わらない」といった思い込みは捨てること。情報漏洩のリスクがあるんじゃないか、といった不安も、パソコン自体にセキュリティーソフトを入れれば対応できます。テレワークで考えられるリスクがはたして、「オフィスか在宅か」という問題なのか、見極めることが大切です。

中川 祥太

キャスター代表取締役 中川 祥太

1986年生まれ。下北沢にて古着屋を経営した後、ネット広告代理店に入社。社内ベンチャーのソウルドアウト社への出向を経て、2012年に退職し帰阪。イー・ガーディアン社の大阪営業所立ち上げに従事。その後新設された事業企画部立ち上げの過程でクラウドソーシングと出会う。「リモートワークを当たり前に」というミッションを掲げ、2014年にキャスターを設立。

個人個人に一律のルールを当てはめると
管理は難しい

今、全国の企業からテレワークを導入したいという相談が増えていますが、多いのは「社員がサボるんじゃないか?」という不安。これは裏を返せば、管理職側の「マネジメントする自信がない」という意識の表れでもあります。

そもそも、どのような働き方のスタイルがいちばん生産性を上げられるかは部門や個人の状況によって、バラバラ。例えば、経理や管理などのバックオフィス部門では、実際にテレワークには向かない業務もあります。また、事情があって家にいづらい、物理的に業務をする場所が取れないといった「在宅困難者」も一定数存在しており、個々人が業務環境の最適化を図ることが本来は必要です。にもかかわらず、一律に「全員」最適のルールを押し付けてしまおうとすることが、マネジメントの失敗を招くのです。

今回のような大きな変化のタイミングでは、通常時にきちんとマネジメントできていた人とそうでない人の差が明るみに出てしまいます。とはいえ管理職の仕事が変わるわけではなく、上で挙げたような個々人の事情についても、日頃からコミュニケーションが取れていれば不安にならず、成果だけを見て合理的に見極めることができます。そもそもオフィスに来ていてもサボる人はサボっています。テレワークに対して「今までやったことがないから」という理由だけで、意味のないルールで縛り、ネガティブチェックをしているようでは、「老害化」してしまうのも時間の問題です。

  • OK チャットツールでは顔の見えるグルーピングを

    テレワークではチャットツールを使ったリアルタイムでのやりとりが欠かせません。その際は、グルーピングを何人単位でつくるかもポイント。リアルな場と一緒で、全員が見える中で挨拶をする、役職単位で区切る、などによってテキストでのコミュニケーションをわかりやすく、活性化することが大切です。

  • NG 監視ツールを入れる

    テレワークでは、オフラインでの無駄なコミュニケーションがない分、業務量や時間当たりに上げた成果はごまかせません。監視や申請、細かい報告などのルールは、「本当はテレワークを推進したくない」というマネジメント側の気持ちの表れでしかなく、仕事の成果を上げるうえでは意味がないといえます。