2020/1/8

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大規模な自然災害リスクの開示と対策はSDGsの観点からも重要な経営課題となっている。世界では保険と金融の融合が進み、新たなリスクファイナンスの地平が広がっているという。デジタル化の動向も含め、その最新事情を聞く。

制作・東洋経済ブランドスタジオ
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大規模な自然災害リスクへの
備えが十分ではない…

銀泉リスクソリューションズ(株)代表取締役社長 岩澤 政寛

銀泉リスクソリューションズ(株)
代表取締役社長
岩澤 政寛

住友銀行(現・三井住友銀行)を経て現職。保険士、損害保険鑑定人、BCAO認定事業継続管理者の資格を有する

岩澤 北出さんとは2007年に銀泉がバミューダにレンタキャプティブの会社を設立したときからのお付き合いですね。今はどのような仕事をされているのですか?

北出 銀泉とのお付き合いが始まったのは、私が商社の金融部門に在籍していた頃です。その後2009年にバミューダの現地企業と合弁で保険リンク証券の運用会社を設立しファンドを立ち上げました。現在はロイズシンジケートの関連会社であるMercury Capital 社に参画しています。バミューダには私を含めて30人程度の日本人がいますが、その中で私が最古参になりました。

岩澤 日本では、台風や地震など大規模な自然災害リスクを懸念する企業が増えています。またESGやSDGsの観点からも、保険に対する関心が高まっているのですが、残念ながら企業向け地震保険などは必要な補償額が得られない、保険料が高いなどの理由で、導入を断念するお客さまもいらっしゃいます。

保険と金融の融合に
よって実現する新しい
ソリューション

Mercury Capital Ltd.チーフ・マーケティング・オフィサー 北出 公英

Mercury Capital
Ltd.チーフ・マーケティング・オフィサー
北出 公英

住友海上(現・三井住友海上)、三菱商事などを経て現職。ILS分野における日本人として第一人者。在バミューダ

北出 私が今携わっている保険リンク証券(ILS※1)市場とは、自然災害リスクの計量化技術を背景に、保険市場と金融市場が融合した市場です。自然災害の発生リスクは株価や為替などと違い金融との相関性が低いので、投資リスクの分散化を求める金融市場のニーズと、保険リスクの引受先を求める保険市場のニーズが合致してこのILS市場が急速に発達しています。

 当社の推計によれば、2018年度のILS市場規模は約1000億ドルに達し、自然災害にかかる再保険市場の約25%を占めています。再保険という保険の卸売市場が金融市場へ拡大しているということです。

岩澤 卸売市場が拡大すれば、お客さまが購入する保険の小売市場もその恩恵を受けることになりますね。当社も三井住友銀行と親密な保険ブローカーとして、お客さまのリスクファイナンスに役立つことを目指しているので興味深いお話です。そのILS市場はいつ頃から始まったのですか。

北出 1990年代の半ば、米国のハリケーンにより伝統的な再保険市場が逼迫したときに、キャットボンド※2が発行されました。これが保険の抱えるリスクを金融市場へ移転した最初の案件です。その後地震や洪水などさまざまな自然災害リスクをより多くの地域でモデル化、計量化する技術が進み拡大していったのです。

 その形態は、キャットボンドのほか、ILW※3、担保付再保険など種類も増え、現在は担保付再保険がメジャープロダクトとなっています。

岩澤 日本の自然災害リスクもILS市場の対象になり得るのでしょうか。

北出 現在のILS市場は、米国のハリケーンや洪水などのリスクが中心となっています。そのためリスク分散の観点から、日本やアジアのリスクへの需要がたいへん大きい状況にあります。ですから、こうしたリスクをILS市場につなぐことができれば、投資家の分散投資ニーズも満たされるでしょう。

お客さまの抱えるリスクの流れとILS市場

イメージ

岩澤 保険サイドから言うと、これまでの再保険会社に加え、新たにILSがリスクの受け皿になれば国内の保険会社にも選択の幅が増えます。そして保険を諦めていたお客さまが改めて導入を検討するチャンスも増えるということですね。

北出 その通りです。銀泉はバミューダのキャプティブを通じて再保険の経験も豊富なのですから、今後ILS市場における保険と金融の仲介的な立場から、オーダーメイドの保険をお客さまにご提案できることになりますね。

法令違反などの
オペレーショナル・リスクや
サイバーリスクも対象に

岩澤 最近のILS市場で新しい動きがありますか。

北出 最近は自然災害リスクだけでなく、オペレーショナル・リスクやサイバーリスクもILS市場の対象になっています。これらはパラメトリックプロテクション※4なので、保険金受け取りの迅速性と効率的なプライシングが可能になっています。

岩澤 最近、地震に対する事業継続費用の補償などパラメトリックトリガーの保険に注目していたところなので参考になります。最後に最近のデジタル化の流れについて、バミューダの動きはどうですか。

北出 今年の3月、ブロックチェーンベンチャーのChainThat社が、バミューダにおける保険のデジタルマーケットプレイスとしてRICAP※5を発足させました。バミューダ金融庁の支援のもと、近々試行を開始します。

 ブロックチェーン技術のスマートコントラクトを活用して、保険会社、再保険会社、ブローカーなどの間で安全で効率的な取引を可能にするインシュアテック市場の形成を目指しています。

岩澤 なぜ、バミューダでそういう動きが起こるのでしょうか。

北出 やはりバミューダは再保険・キャプティブの世界的な中心地であり、官民でつねに新しい仕組みや技術を取り入れてきた土壌があるからではないでしょうか。私自身はバミューダに居る日本人として、ILS市場についてもっと日本企業に知っていただき活用してほしいと思いますね。

岩澤 今日は貴重なお話を、ありがとうございました。

※1 Insurance-Linked Securitiesの略。

※2 Catastrophe Bond、大規模災害債券。

※3 Industrial Loss Warrantyの略。

※4 あらかじめ取り決めたトリガーによって所定の保険金が支払われる仕組み。

※5 Risk meets Capitalの略。

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https://ginsen-risk.com/