
澄み渡る青空、広大な大地。プロテクターを着込んだ人物がバイクにまたがると車体が浮き上がり、陸や海の上を颯爽と駆けていく──A.L.I. Technologiesが開発したホバーバイク「Speeder」の紹介映像でのワンシーンだ。世界最大級の自動車の祭典「東京モーターショー2019」でも実機が初展示され、目玉のひとつとして熱い視線を集めた。
「子どもの頃、大人になれば『空飛ぶバイク』にも乗れると思っていたのに、実現しそうにありませんでした。未来的な道具といえば、スマートフォンくらい。子どもの頃に想像していた未来と、現実の未来の差を少しでも近づけたくて、自ら開発することを心に決めたのです」
プロペラ状の大型メインローター2つにより、ドローンのように浮上する仕組み。形状や動力の異なる複数のモデルを開発中で、時速80~100kmでの飛行が可能なスタンダードモデルは2023年頃の量産化を計画。公道走行を可能にすべく、関係各所との調整も進められている。
「ただ空を飛べるだけではダメで、人を魅了できるようなデザイン性も追求しました。映画や漫画など、SFカルチャーからの影響は少なくないですね。やはり憧れを抱けるようでないと乗りたいと思えませんし、新しいモビリティとして定着していくのは難しいからです」

小さな頃に観た映画の影響で世界の不平等を痛感し、社会貢献への意識を強めたという小松氏。大学時代には国境なき医師団のボランティアとして参加するなど実際の行動に移すが、できることの限界に直面する。
「世の中を平等化するには、権力や資金が必要です。権力を得るのはなかなか難しいのですが、資金なら稼げばいいだけの話。それならばと、給与の高い外資系証券会社に勤めることにしたのです」
救いの手を求める声に応じて寄付やエンジェル投資を行っていたが、「空飛ぶバイク」実現の想いもあって自らがプレイヤーになることを決意し、2017年にA.L.I.Technologiesの前身となる会社の代表に就任。それからわずか2年で有人飛行試験を達成したというから、そのスピード感に驚くばかりだ。
「時計の針はもとには戻らないじゃないですか。逆に戻そうとすれば、時計が壊れてしまいます。自分としては時計の針を急いで進めているつもりはなく、ただ前を向いてひとつひとつ歩んでいるだけです」

そんな小松氏だが、時計技師になろうと考えていた時期があったという。
「学生時代にとある時計工房を見学した際、時計の精密な世界に魅了されました。時計学校への進学を希望したのですが、親の反対にあって実現できませんでした」
そのほか、調香師や革靴の修理師に憧れたこともあった。
「気になったことは積極的に学び、身につけるのが大事です。だから当社では、未経験者でも即戦力にならなくても問題ありません。ちなみに『Speeder』のエンジニアリーダーは、元時計職人だった者。精密機械技術が求められるという点では、『空飛ぶバイク』も腕時計も同じなんです」
人生のターニングポイントを聞くと、「ヘッジファンド在籍中に超高級メゾンのスーツを買ったとき」と話す小松氏。そこで身なりへの意識が大きく変わったという。腕時計への興味も所有する側に拡大し、さまざまなブランドの腕時計を購入。現在は50~60本ほどを保有しているという。
「自分はそれほど気にしないほうですが、やはり腕時計で人となりが見られてしまうことはあります。自分にふさわしい腕時計を着用することが大切だと思います」

小松氏の心を射止めたのは、ハミルトンの「ジャズマスター オープンハート」の針の色合いだった。バイクが駆ける青空をイメージさせるような深く美しいブルーだ。
「この色がいいですね。実に上品ですし、ブルーの針は歴史的な背景も感じさせるパーツ。僕はブルーが好きで、会社のコーポレートカラーに採用したくらいなんです」
また、12時位置や7時位置から機械式ムーブメントがのぞくオープンハート仕様も小松氏の心を動かした。
「高級すぎる腕時計をしても"年不相応"とみなされるかもしれないし、シンプルすぎるのも面白くない。バランスが難しいんです。『ジャズマスター オープンハート』は伝統のあるブランドのモデルながら、現代的な遊び心をしっかり備えているところに惹かれます」
小松氏によって「空飛ぶバイク」はSFから現実の世界へと舞い降りた。あとは、タイムスケジュールを刻々と進めていくだけだ。
「実用性は高く、エアモビリティ社会の基盤になるはずです。ゆくゆくは、映画に出てくるような宇宙までいけるモビリティを開発したいですね」

ハミルトン
ジャズマスター オープンハート
H32705121
¥119,000(税抜)
機械式自動巻き/ステンレススチールケース/ケース径42mm/サファイアクリスタルガラス/5気圧防水
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A.L.I.Technologies代表
小松 周平
1982年生まれ。東京大学大学院先端エネルギー工学専攻修了。外資系証券会社にて主にプロップデスクの株式デリバティブ、クレジットデリバティブトレーディング業務を担当。その後シンガポール、ロンドンのヘッジファンドにてグローバルマクロのポートフォリオマネジメントを経験。帰国後、2017年2月に株式会社エアリアルラボ(現 株式会社A.L.I.Technologies) 代表取締役就任。2019年3月に代表取締役会長に就任。AIAA(米国航空宇宙学会)最優秀論文賞受賞。