HAMILTON
デジタルの計算能力を駆使した「コンピューテーショナルデザイン」を積極的に取り入れることで知られるnoizを共同主宰する豊田啓介氏。未来の建物は、街は、モノは、どのような姿をしているのか。豊田氏が奏でる新しい世界の響きに、耳を傾ける。
Photo/Hiroaki Sagara Text/Hiroyuki Yokoyama
制作/東洋経済企画広告制作チーム
noizが外装とランドスケープデザインを監修した渋谷キャストの施設前面には、何百もの小さなフィンが敷かれている。すべて固定され、角度の種類も3つのみだが、時刻や気候の変化に応じてまるで動いているように感じる。
「気候や立地といったパラメーターの入力だけでなく、建築以外の領域も融合させてロジックで形や機能を生成させようという試みです。木の梢に風が当たるようなイメージを表現したもので、人間が単身で計算した以上の理想的な結果を導き出せました」
建築の枠を超えてプロダクトやサービス、街づくりにも手腕を発揮している。そのひとつが、豊田氏も招致段階の会場計画に関った2025年の大阪万博だ。各スポットがシームレスにつながる次世代型構造を志向し、スマートシティの実験場とする。
「タクシーにおけるUber、ホテルにおけるAirbnbは役割の境界線を曖昧にし、需要と供給のもとでの最適化をもたらしました。同様に、固定観念的な構造にとらわれない流動的な状況を生み出せば都市の最適化の形ももっとちがった可能性を見せ始めるはず。生活や仕事、教育における『場所』の選択肢も増えていくでしょう」
先進技術の活用は、「職人技」など旧来の技術の可能性も広げると確信する。
「伝統産業や技術に対するニーズは時代とともに変遷しますが、それらを生み出した歴史的な価値やストーリー性自体の絶対的な価値はむしろ今後高まっていくと考えています。むしろコンピューターを駆使すれば、新しい可能性が広がるのです」
腕時計も、伝統技術の圧倒的な凝縮感などで人を惹きつける力に満ちたプロダクトである。
「先進のデジタル技術と伝統産業は対極で捉えられがちですが、実は相性がよくて、喫緊のニーズはその辺りにある気がしています」
『自由なき人生なんて、惨めなものだ』。手作業によるムラ染め加工が施されたハミルトン「スピリット オブ リバティ」のストラップには、法律家アンドリュー・ハミルトンの言葉が刻まれている。そこに、最新のウォッチメイキング技術が融合された1本は、まさに伝統と革新の間に横たわる数多くの選択肢の中から紡がれたものだ。
「仕事でも固定化されるのが苦手で、カフェを転々としています。コンピューテーショナルデザインは、私たちに自由な選択肢を与えてくれるのです」
豊田氏はこれからも、新しい自由の形を模索していく。
H42415541
¥115,000(税抜)
機械式自動巻き/ステンレススチールケース/ケース径42mm/サファイアクリスタルガラス/5気圧防水
建築家
建築デザイン事務所「noiz」、領域横断型コンサルティングプラットフォーム「gluon」共同設立者。建築を軸にプロダクトデザインから都市まで分野を横断した制作活動を行う。コンピューテーショナルデザインを応用したファブリケーション、システム実装の研究のほか教育活動等も積極的に展開する。東京藝術大学芸術情報センター非常勤講師、慶應義塾大学SFC環境情報学部非常勤講師、情報科学芸術大学院大学IAMAS非常勤講師、台湾交通大学建築研究所理教授。