フリーアナウンサーの魚住りえさんとGIの産地をめぐる旅。今回は香川県で初登録となった「香川小原紅早生みかん」(以下、小原紅早生)をレポートする。GIとは、農産物のブランド力を向上させ、独自の生産プロセスや地理的な特性によって高い品質を達成している農産物の名称を知的財産として保護する制度。ミカン生産量の多い和歌山県や愛媛県、静岡県ではなく、香川県で偶然生まれたというこのミカン、その背景を追った。
(2019年2月25日掲出)

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突然変異で生まれた
「香川小原紅早生みかん」

日本一面積の小さい県・香川県。コメやレタスなど豊かな農産物に恵まれているほか、フルーツ栽培も盛んで、イチゴや桃、キウイなどを「さぬき讃フルーツ」と称して全国的に売り出している。

魚住 りえ

魚住 りえさん

慶應義塾大学卒。日本テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍。著書である『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がベストセラーに。新刊の『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)もヒット中

中でも、「紅」と名付けるのもうなずけるほど鮮やかな濃紅色で目を引くのが「香川小原紅早生みかん」(以下、小原紅早生)だ。果皮の色だけでなく濃厚な甘さも大きな特長で、関西圏を中心にブランド品種として知られる。これが2017年12月に香川県で初めてGI登録され、さらなる注目を浴びているのだ。

今回、香川県を訪れた魚住りえさんを温かく出迎えてくれたのは、JA香川県代表理事理事長の遠城昌宏氏だ。「『小原紅早生』は、もともと『宮川早生』という品種に、突然変異で紅色が入ったものです。県内の生産者・小原幸晴氏が1973年に偶然発見したことに始まり、たった一つなった果実を、地元の農家が協力して接ぎ木で増やしてきました。彼らの情熱がなければ、小原紅早生をここまで育てあげることはできなかったと思います」(遠城氏)。農業試験場での検査・栽培実験を繰り返し、実に20年の歳月を経て、93年に品種登録された。突然変異(枝変わり)でできた新種は、親の品種よりも劣ったものになることが多い中、これだけ商品価値の高いものができたことも「奇跡」といえよう。

さっそく一つ口にした魚住さん、「甘みがとても濃厚ですね。ソフトな酸味も感じられ、果汁がたっぷり詰まっています」とほほ笑んだ。果皮は薄く、手でむきやすい。

「ハウス栽培ものは6~8月、露地栽培ものは11~12月に出荷します。加えて、年明けまで樹上で完熟させた越冬ものを加えた3形態で栽培することで、長期間供給できるようになりました。お歳暮やお中元用、そして贈答品として百貨店などで販売されており、一般的なミカンの3割増の値がつきます(※)」と、遠城氏も胸を張る。昨年の初競り(ハウス栽培もの)では、最高級の『さぬき紅』に一箱(2.5キログラム)100万円の値がついたという。

※平成27年度、温州みかんとの平均単価(kg/円)比較。
 出典:JA香川県、大阪市中央卸売市場年報 平成27年度

みかん畑

香川県北部の中央に位置する坂出市が、小原紅早生の原産地。特に甘い糖度12.5度以上のものは「さぬき紅」、同11.5度以上12.5度未満のものは「金時紅」、11.5度未満のものは「小原紅」と区別されている

台湾や香港などアジア圏、
カナダにも輸出開始

遠城 昌宏

遠城 昌宏

JA香川県代表理事
理事長

香川県は、一年を通して日照時間が長く温暖な気候。特に夏から秋に降水量が少ないため甘いミカンが育ちやすく、古くから多くの農家がミカン栽培を手がけてきた。

品種登録後、小原紅早生の栽培面積は年々増加し、2018年には86ヘクタール、出荷量も800トンを数えるまでになった。現在までに約300名の農家が栽培に携わり、海外への輸出も始まっている。「春節(旧暦の正月)を前にミカンを贈りあう習慣がある台湾や香港では、紅いミカンは縁起物として好まれています。ほかにもマレーシアやシンガポール、カナダを中心に拡大しています」(遠城氏)。

GI登録をきっかけに、香川には希望が広がっている。

「香川は小さな県ですが、腰を据えて上質な作物をつくっていることが私たちの誇り」と語る遠城氏。「この素晴らしさを、もっと多くの人に知ってほしいのです。良いものを、少しずつでも継続的に全国に届けることができれば、高齢化が進む農家でも後継者を生む余地が生まれると考えています」と期待を寄せる。

農家が持つ技術や経験を新規就農者が引き継げるようJAも支援しており、大学の農学部や農業大学校に進学する学生向けの、就農奨学金制度や農業インターン制度を整備している。

「香川県で新規就農したいという意欲を持つ方には、園地も技術も支援したい。集荷の後も、選別から箱詰め、出荷まで丸ごとサポートします。少しでも農業の振興、長期継続を実現していきたいのです」(遠城氏)

魚住りえさん ミカン畑で甘さ・紅さを初体験

魚住りえさん ミカン畑で甘さ・紅さを初体験

産地から運ばれてきたミカンは、人の手と機械による選別を経て、サイズ別に箱づめされる。多くの機械が並ぶ共撰場に、魚住さんも興奮! ミカン畑で一つ口にし、甘さを堪能した

みかんの箱詰め作業

JAグループでは、心と体を支える食の大切さ、国産・地元産の豊かさ、それを生み出す農業の価値を伝え、一人ひとりにとっての「よい食」を考えてもらうことを通じて、日本の農業のファンになっていただこうという「みんなのよい食プロジェクト」を展開している。左はよい食プロジェクトのキャラクターで食べることが大好きな小学2年生の「笑味ちゃん」。

天候は味と大きさに影響
とにかく細かく栽培管理

東山 光徳

東山 光徳

坂出みかん共撰場
運営委員長

次に魚住さんが向かったのが坂出市のミカン畑だ。ほかに高松市や三豊市などで栽培されているが、坂出市はまさに小原紅早生発祥の地、最多出荷量を誇る。

取材に訪れた12月中旬は、ちょうど露地栽培ものの出荷時期。作業の手を止め出迎えてくれたのは、ミカン農家で坂出みかん共撰場の運営委員長も務める東山光徳氏、現在79歳だ。

「体力的に大変なのは収穫作業ですが、特に気を遣う必要があるのは剪定・摘果作業です。実が育つままに放っておくと、小さい実ばかりになってしまいますから。ミカンが紅く色づく10月下旬頃までは、とにかく天候が気がかりな毎日を過ごしますね。2018年は台風があったものの、良い出来です。糖度も十分で、食べやすい実ができました」

ミカンの枝には、花をつくる年と実がなる年が交互にくるため、一つの木でも枝ごとに収穫年が異なる。一つの枝からは2年に1度の収穫が基本だ。

上述のとおり、高値で取引される小原紅早生。価格に見合った品質を維持するため、各農家ではきめ細かな栽培管理が行われている。東山氏は「ほかにも薬剤散布などを行って品質を管理していますが、適切な散布時期を少しでも外すと効果がなくなってしまいます。ミカンの状態や天候を見ながら、糖度・酸味のバランスが良いおいしいミカンをつくれるよう、産地全体で技術向上を続けていきます」と力強く語った。

GI登録は生産者の励み
ミカンをつくり続けたい

集合写真

1973年の発見から、地元生産者の協力と努力によってここまで広がってきた小原紅早生。生産者・東山氏も、今年も上質なミカンを送り出せたと満ち足りた表情だ

「今回のGI登録について、生産者の皆さんはどう感じていますか」と尋ねる魚住さんに、東山氏は笑顔でこう答えてくれた。

「何より、毎日の励みになりますね。全国的に温州みかんが供給過剰になった一昔前は、ミカン栽培を辞める人も少なくありませんでした。しかし小原紅早生の登場後、どんどん人気が出て、生産者の意欲も変わってきたのです。今回のGI登録によってそれがさらに強まったと感じます」。

後継者不足は避けられない課題だが、東山氏の地区でも、生産意欲をもつ若者に園地を斡旋したり、外国人研修生を迎え入れたりするなどさまざまな施策を行っているという。

「香川県の名物といえば、讃岐うどんを思い起こす人が多いのでは。小原紅早生も、うどんに追いつけ追い越せと、有名になってほしいですね」と笑う東山氏。目と口で二度驚ける小原紅早生は全国へそして海外へ広がり、香川県の新たな名物となりつつあるようだ。

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