フリーアナウンサーの魚住りえさんとGIの産地をめぐる旅。今回は福井県大野市の「上庄さといも」をレポートする。GIとは、農産物のブランド力を向上させ、独自の生産プロセスや地理的な特性によって高い品質を達成している農産物の名称を知的財産として保護する制度。ちょうど収穫期を迎えた10月中旬、「上庄さといも」の産地・福井県大野市は、GI登録を受けていっそうの盛り上がりを見せていた。
(2018年12月25日掲出)

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もちもちとした食感の
「上庄さといも」

福井県大野市は、越前大野城を中心とする城下町。山々に囲まれたのどかな盆地で、山に降った雨や雪が地下にしみ込み、湧き水となって昔から人々の暮らしを支えてきた。環境省選定の「名水百選」に選ばれた湧水地もあり、自然に恵まれた街である。

魚住 りえ

魚住 りえさん

慶應義塾大学卒。日本テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍。著書である『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がベストセラーに。新刊の『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)もヒット中

そんな大野市で古くから栽培されてきたのが「上庄さといも」だ。特長は、なんといってももちもちとした食感。通常のさといもよりも小ぶりながら実の締まりが良く、地元では煮物や郷土料理「のっぺい汁」などに使われ、日常食として親しまれてきた。

そんな「上庄さといも」が2017年11月、地域の産品ブランドを国が保護する地理的表示保護制度(GI)に登録され、地元では大きな盛り上がりを見せている。大野市を訪れた魚住りえさんは、早速JAテラル越前の代表理事組合長・林信一さんから「上庄さといも」の煮っころがしを出していただくと「身が締まっていて、しっかりとした歯応えがありますね」と驚いた。

続けて「程よいねっとり感とまろやかな甘みがおいしいです」とほほ笑む魚住さんに、林組合長も笑顔でこう語ってくれた。「さといもは、カリウムやビタミンB6を豊富に含み、いも類の中ではカロリーも低い健康的な野菜です。独特のぬめりは、水溶性食物繊維によるもの。煮っころがしは定番ですが、煮っころがしをさらに焼いてそのまま焼いて食べてもおいしいですよ」。

「上庄さといも」の栽培地域である上庄地区は、大野盆地の南部に位置する。荒島岳などの1000メートル級の山々に囲まれ、昼夜の温度差が大きい盆地特有の気候だ。この寒暖差によってでんぷん含有量が高く、煮崩れしにくい「上庄さといも」が育まれている。また土壌も排水良好で、真名川などの豊かな水によってが容易。さといも栽培に向いた自然条件が整っているのだ。

「ここでできた種いもをほかの地域に持っていっても、同じさといもはできません。上庄独特の気候、水、土壌が、おいしいさといもづくりに寄与しているのです」(林組合長)

写真1

福井県の東端、雄大な山々に囲まれた大野市の、広大なさといも畑に訪れた。さといもはスラッと細く伸びた茎と大きく平らな葉が特徴的。葉が少し黄色くなり垂れてきた頃、収穫期を迎える。親いもの周りにたくさんの子いも・孫いもがなることから、子孫繁栄を表す縁起物としても愛されてきた

生産量が少なく
高値で取引されている

林 信一

林 信一

JAテラル越前
代表理事組合長

もともとさといもは同地区で平安時代から流通しており、コメの代わりに税として納められていたといわれる。その後、コメの減反政策をきっかけにさといも栽培が盛んになり、各種さといもの選別を経て、「大野在来」と呼ばれる種が生き残った。それを1970年代初頭より「上庄さといも」として売り出すようになった。

現在「上庄さといも」の栽培面積は58ヘクタール、生産量は642トンと、宮崎県や千葉県といったほかの産地と比べてもそれほど多くない。生産者は324名、70~80代が中心で高齢化が進んでいる。しかし生産量が少ないということは、それだけ希少価値が高いということ、さらに品質も評価され通常のさといもと比べて倍近い高値で取引され、贈答品としても利用されている。

「さといも産地は全国に数多くありますが、やはり上庄さといもの食感は独特。栽培にも非常に手間暇がかかるので、ある程度単価を高くしなければ生産を持続できません。GI登録をきっかけに若い方々にももっと興味を持っていただき、上庄さといもの品質や価値を広く理解していただけるように努めていきます」(林組合長)

生産量が限られている一方で、今回のGI登録によって、取引の引き合いも増えている。「これからどう展開していかれますか」と尋ねる魚住さんに、林さんは力強く語った。「ブランド価値を上げて、もっと販路を広げたい。今後は機械化や若手人材の育成を図り、栽培面積を増やし、もっと多くの地域で上庄さといもを生産できるよう努力していきます」。

写真2

魚住りえさん上庄さといもの収穫に挑戦

手作業で行う収穫は、かなりの力作業。生産者の門前さんにならって、慎重に親いもと子いもをはがしていく。皮を剥ききらずに薄皮を残して調理するのが、おいしく仕上がる秘訣だという

品質管理は厳重
その分、手作業も大変

門前 花子

門前 花子

続いて魚住さんが向かったのは、上庄地区のさといも畑だ。実際に栽培を行っている門前重夫さん、花子さんご夫婦に話を聞いた。取材はまさに出荷時期を迎えた10月半ば。魚住さんも土まみれになりながら、親いもの周りにしがみつくように実がなっている子いもを一つひとつ手で切り離す収穫作業を手伝った。

代々農家を営んでおり、コメやソバとともに、さといもの生産に従事してきたという重夫さん。「さといもは、もう50年近く栽培しています。もともとは家庭で食べる量しかつくっていませんでしたが、水はけのよい土地の特性を生かしてコメからさといもへの転作をすすめ、大量につくるようになりました」と語ってくれた。

生育期間は4~11月。花子さんの畑では毎年約10トンほど生産している。品質管理は厳重で、乾燥が不十分のものや傷があるもの、大きさが500円硬貨以下のものなどは出荷しない。また、さといもは連作ができないため、一度収穫すると6年ほど土壌を休ませる必要がある。農家では複数の畑を用意して、毎年安定して収穫できるよう工夫しているという。

「いちばん苦労するのはどの時期ですか」と尋ねる魚住さんに、「6~7月ですね。葉茎の横から出てくる芽を一つひとつ切除したり、害虫の駆除をしなければならず、そのほとんどが手作業です。今年のように台風が多いと、いもが一時成長を止めてしまうため、ひょうたんのようないびつな形に育ち出荷できなくなります」と語る花子さん。「でも、いちばんうれしいのはさといもが無事に育って出荷する時。自分の子どものようで愛おしく感じますね」と話す笑顔が印象的だった。

写真3

JAグループでは、心と体を支える食の大切さ、国産・地元産の豊かさ、それを生み出す農業の価値を伝え、一人ひとりにとっての「よい食」を考えてもらうことを通じて、日本の農業のファンになっていただこうという「みんなのよい食プロジェクト」を展開している。左はよい食プロジェクトのキャラクターで食べることが大好きな小学2年生の「笑味ちゃん」。

GI登録で今後はもっと
多くの人に食べてほしい

上庄地区ではかつて、各農家が豊富な水を利用してさといもを洗う「芋洗い水車」の風景が秋の風物詩となっていたという。農家が種いもを保管するためにわらでつくった貯蔵庫「いもにょ」も、ところどころで見受けられた。現在は機械を導入したり、JAの選別所と協力しながら、作業の効率化を進めている。

集合写真

収穫されたさといもは、JAテラル越前の選別所で規格ごとに箱づめされた後、県内や関西、関東方面へと出荷される。GI登録をきっかけに、本格的なブランド化が期待される

最後に、魚住さんが「GI登録への感想を」と尋ねた。「GI登録されたのは、大変光栄なこと。福井県は越前がにをはじめ小浜市の若狭小浜小鯛ささ漬、鯖江市の吉川ナス、若狭町の山内かぶらなどさまざまな産品がGI登録されており、おいしい食材が豊富な県です。農家としては、誇らしい反面、プレッシャーもあります。その名に恥じないよう頑張っていきたいですね」(花子さん)。

重夫さんは、こう抱負を述べる。「GI登録されたことで、品質管理をより守っていかなければと思っています。上庄さといもの価値をさらに上げ、ブランド力を高めていきたい。そしてぜひ、日本中の方に、この独特の美味しさを味わっていただきたいです」。高級品として、すでにブランドを確立しつつある上庄さといも。そのおいしさは、これから全国へ広まっていきそうだ。

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