ベアリング技術を磨き
挑戦し続けた100年

常務取締役
大橋 啓二
回転する機構を持つあらゆる機械には、回転部分の摩擦を減らして運動をなめらかにするために、ベアリング(軸受)という部品が使われている。たとえば1台の自動車には100を超えるベアリングが使われており、航空機や建設機械、家電製品、工作機械までありとあらゆる機械に欠かせないものなのである。
実は日本は、このベアリングにおいて世界屈指の技術と生産シェアを誇る。その中でもトップの一角を占めるのが、NTNだ。同社は、ベアリングを主力とした精密機器メーカーとして発展し、2018年3月、創業100周年の節目を迎えた。同社が明治・大正期の近代工業化から今日まで日本のものづくりを支えながら成長してきた背景には、技術開発に心血を注ぎ、臆することなく新しい事業に挑戦してきた歴史がある。
「1918年、高価な外国製しかなかったベアリングの国産化を目指して研究試作を開始しました。その時から、未踏の分野を切り開く情熱と、世の中のために貢献しようという志は変わっていません」。常務取締役の大橋啓二氏は、創業時から受け継がれる同社の「開拓者精神」と「共存共栄精神」をこう語る。
なめらかな回転のために、いかに摩擦を減らせるか。それがベアリングの技術だ。同社は創業からわずか5年で国産ベアリングを実現させると、航空機ジェットエンジン用の超高速ベアリングや、工作機用精密ベアリングの国産化に初めて成功し、圧倒的シェアを獲得。さらなる高精度化、高機能化に取り組む中で、潤滑や摩擦、摩耗、軸受設計など「なめらかさ」の実現に関わる技術を磨き続けてきた。

ベアリングは、もはや私たちの生活になくてはならない存在だ

自動車には、数多くのベアリングとドライブシャフトが使用されている
また日系ベアリングメーカーとして画期的だったのは、世界のジェットエンジンメーカー大手4社の認証を取得したこと。それ以降、最高水準の精度と耐久性が求められる航空機エンジン用ベアリングを製造している。今日まで、まさに100年に及ぶ技術の研鑽があったというわけだ。
さらに戦後は、1960年代にモータリゼーションが進む中、自動車エンジンからタイヤに動力を伝える等速ジョイント(ドライブシャフト)を日本で初めて開発。構造上ドライブシャフトを必要不可欠とするフロントエンジン・フロントドライブ(FF)車の普及に大きく貢献した。そのほかにも、ニードルベアリングの量産化など、次々と事業領域を拡大してきた。
「グローバル市場への展開も早く、戦後は北米や欧州への輸出を積極的に進め、70年代には欧米での現地生産をスタート。現在では、売上の70%、生産も50%以上を海外が占めています」と大橋氏。こうした挑戦の歴史が、同社をグローバル企業に育て上げたのだ。
自動車、産業機械、補修市場で
世界屈指のシェアを誇る
創業から100年、現在同社は自動車市場、産業機械市場、さらに補修市場(アフターマーケット)を主戦場にしている。中でも自動車事業の売上はいまや全体の70%に達し、同社の中核事業である。タイヤの回転を支えるハブベアリング、ドライブシャフトともに世界屈指のシェアを誇っており、その強さは圧倒的。産業機械事業では、航空機やロケットのエンジン、鉄道車両、産業機械など幅広い分野に、超高速・超高温または超低温でもなめらかに回転するベアリングを提供している。
そして近年注力するのが、アフターマーケットだ。その狙いを大橋氏は「機械の現場を訪問し、メンテナンスサービスや技術講習を提供しています。当社のファンを育成し、売上増大を図ります」と語る。後発ながら欧米をはじめとした海外企業の独断場に切り込み、グローバル市場に攻勢をかける。

鮮やかな「NTNブルー」が印象的なテクニカルサービスカー。
担当者が顧客のもとに出向き、丁寧に技術講習を行う
次の100年を担う
熱い人材を育成
「さらなる成長を遂げていく上で、当社が今後社会の持続的な発展にどう貢献していけるかを考えていかなければならない」と大橋氏。2018年までの中期経営計画「NTN100」でも、「新たな領域での事業展開」とともに、社会貢献事業に積極的に取り組むことを明言してきた。
2017年度は「100周年記念施策」として自転車ロードレース「ツアー・オブ・ジャパン」に冠協賛。「併せて、地域や次世代との絆を深めることを目的に『NTN回る学校』を実施しました。子どもたちが体験を通じて楽しくベアリングや自然エネルギーについて学べるワークショップが、大いに賑わいました」(大橋氏)
一方で、「NTN100」で取り組む「変革」には担い手である社員の力が欠かせないと考え、全社員の意思統一と士気向上を図っている。
「『変革』のための提案を全社員から募る取り組みもその一つ。全世界の事業所から当初の予想をはるかに超える1700人以上が参加しての応募が寄せられました」と大橋氏。選考の中から優れた提案については、実現に向けた検討も行う。
「企業や社会に対する熱い思いは、今もしっかり受け継がれていると感じました」と、大橋氏は笑顔を見せた。次の100年を担う熱くて頼もしい人材が着実に育っている。

「NTN回る学校」では、地域の子どもたちが体験を通して
楽しくベアリング技術を学んだ
自然エネルギー、ロボット…
4つの新事業領域に挑む
100年にわたり、機械のあらゆる回転部位をなめらかにする技術で、「省エネルギー」と「暮らしの安全」に取り組んできた同社。いまや、世界中の産業や人々の生活を支える企業に成長した。

代表取締役社長
大久保 博司
「現状に甘んじることなく、これまで以上に持続的な社会の発展に貢献できる企業へと変革を遂げていかなければならない」と決意を語る、代表取締役社長の大久保博司氏。中期経営計画で掲げる「次の100年に向けたNTNの変革」について「培ってきた技術やリソースを守りつつ、新しい形に変えていく。それが我々の目指す『変革』です」と意図を明かす。
その中で挑むのが、新領域での事業展開だ。「自然エネルギー」「EV」「ロボット関連」「サービス・ソリューション」の4領域で、事業拡大に乗り出している。これまでにない挑戦となる自然エネルギー事業では、風力と太陽光で発電する「ハイブリッド街路灯」を開発。さまざまな場所に設置でき、独立電源として防災や防犯に役立てられる。加えて水路に置くだけで発電できる「マイクロ水車」など、地産地消エネルギーの普及に貢献する商品の実用化を目指す。

自然エネルギーで発電・充電し、夜間にLED照明を自動点灯する
ハイブリッド街路灯
またEV事業では、「自動車の電動化に対応した『電動モータ・アクチュエータ』シリーズや、欧州で普及拡大が見込まれる48Vマイルドハイブリッド車向けのモータ・ジェネレータ付きハブベアリング『eHUB』など、市場のニーズに合致した独創的な商品開発を進めています」(大久保氏)
そのほか、これまで培ってきた技術を新事業分野で花開かせようという試みもある。ドライブシャフトの技術を応用した「パラレルリンク型高速角度制御装置」や、センシング技術を活用した状態監視システム(CMS)がそうだ。
さらには液晶のリペア技術を応用し、大阪大学との共同研究においてiPS由来細胞の積層化に向けた技術開発にも乗り出すなど、貢献領域は創薬や再生医療にまで広がっている。大久保氏は「今後も、新たな技術開発にチャレンジし、着実に事業化につなげていく」と意気込む。
持続可能な社会の実現へ
「なめらかさ」の追求
摩擦低減による省エネルギーと安全を実現する「トライボロジー技術」をさらに追求し続け、なめらかに回り続ける循環型社会の実現を目指す。そうビジョンを描く同社。それを社会に広く訴求するべく「世界をなめらかにする仕事。NTN」というコミュニケーションワードも打ち出した。
「ステークホルダーの皆様はもちろん若い世代や子どもたちに、当社の技術や商品が社会でどう生かされているか知ってほしい」と言う大久保氏。その言葉には、次代の社会の担い手たちへの希望がにじむ。

パラレルリンク型高速角度制御装置。小型で取扱性が高く、作業効率が格段に上昇