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知名度抜群の神戸牛
よくある誤解とは

海外でも和牛の高級ブランドとして名高い「神戸ビーフ」が「但馬牛たじまぎゅう」とともに、2015年12月、GI(地域の農産物ブランドを国が保護する地理的表示保護制度)に登録された。

魚住 りえさん

慶應義塾大学卒。日本テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍。著書である『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がベストセラーに。新刊の『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)もヒット中

「神戸ビーフはたいへん有名ですよね。でも、但馬牛たじまぎゅうとの違いは」と魚住りえさんが向けると、「神戸牛こうべぎゅうと呼ばれる方もいらっしゃいますが、実は神戸牛こうべぎゅうという牛は存在しません」とJA全農兵庫・県本部長の曽輪佳彦さんが笑顔で返す。どういうことなのか。「枝肉にした但馬牛たじまぎゅうの中から、一定の条件を満たしたものだけが神戸ビーフや神戸牛こうべぎゅうとして流通しているのです」と曽輪さん。「但馬牛の場合、飼育している段階では(うし)と読み、牛肉の状態となってから(ぎゅう)と読みます」と続ける。

もともと但馬牛は兵庫県内で農耕牛として利用されてきた。山間部が多い地形のため、体が小さく、小回りが利き、性格もおとなしかった但馬牛が重宝されたという。それが明治時代の神戸港開港をきっかけに入港する外国船に牛肉として納入するようになり、次第に「神戸ビーフ」と呼ばれるようになった。

しかし、1970年代まで「神戸ビーフ」の定義ははっきりしていなかった。そこで83年に生産者・食肉流通業界・消費者らが協力して「神戸肉流通推進協議会」を立ち上げた。

「生産者だけではなく、流通業界の方々が一緒になって議論を重ね、多くの関係者が一つとなってブランドをつくりあげたことに大きな意義がありました」と曽輪さん。そして、「但馬牛たじまぎゅうとは、県有種雄牛のみを歴代にわたり交配した但馬牛を素牛もとうしとし、繁殖から肉牛として出荷するまで協議会の登録会員(生産者)が県内で飼養管理し、県内の食肉センターに出荷した生後28ヵ月齢以上から60カ月齢以下の雌牛・去勢牛で、歩留・肉質等級が『A』『B』2等級以上」との定義に結実した。では「神戸ビーフ」はどうか。「その但馬牛たじまぎゅうのうち、未経産牛・去勢牛であり、『A』『B』4等級以上等」といった複数の条件を満たしたものだけが神戸ビーフを名乗ることができるようになった。

神戸ファームの牛舎は天井が高く、風通しが良い。繁殖から肥育棟まで、大きくなるにつれ牛舎を移動していく。また、一般的な牛舎と比較して、スペース当たりの牛の数を抑え、ストレスを減らす工夫をしているという。毎日の全頭点検も重要な仕事。取材に訪れた日も獣医さんが往診に来ていた

但馬牛たじまぎゅう・神戸ビーフの一番の特徴は」との魚住さんからの質問に「不飽和脂肪酸であるオレイン酸が多く含まれていることが一つ。そして、融点の低いサシ(脂肪)が細かく入るコザシと言われる状態で、上品な甘味があることが挙げられます。こうした特徴を維持、向上させていくためにも、但馬牛の血統を守ることが、たいへん重要なことなのです」と語ってくれた。

曽輪 佳彦
JA全農兵庫県
本部長

そんな「神戸ビーフ」は、海外でも広く知れ渡っている。だからこそ、GI登録は、さらなるブランド浸透に弾みがつくチャンスだと曽輪さんは言う。

「GIを取得したことは、海外での商標登録において有効な手段でありますし、ブランドの維持・管理をやっていくうえで、大いに活用したいと思っています」

魚住りえさん但馬牛とご対面

和牛には黒毛和種、褐毛和種、無角和種、そして日本短角種の4種類がある。その中で、但馬牛は黒毛和種に分類される。牛舎では取材陣は皆、靴にカバーをし、白衣に着替えた。海外からの取材や視察も多いという

JAグループでは「みんなのよい食プロジェクト」を展開している。上のキャラクターはシンボルマークの「笑味ちゃん」。「心と体を支える食の大切さ、国産・地元産の豊かさ、それを生み出す農業の価値を伝え、国産・地元産と日本の農業のファン」を増やすため、さまざまなイベントなどを実施している

国内では、流通業界とともに神戸ビーフの定義を確立した経緯もあり、徹底したブランド管理の仕組みを運用している。神戸肉流通推進協議会では、繁殖農家を含む生産農家から販売先まで、すべてに指定登録制を敷いており、卸売店、小売店、飲食店では、店頭での会員証と指定証、そしてブロンズ像が掲示されている。

「海外では、和牛と言えば神戸ビーフ、とおっしゃっていただく方も少なくないようです。私どもも、海外での評価の高さを実感しています。他方、国内では、これまで近畿圏を中心とした流通が多かったものですから、これからは首都圏でもブランド力を高めるべく努力したい。食べて〝やわらかい〟〝溶ける〟といった感想だけでなく、但馬牛・神戸ビーフの脂のおいしさ、肉のおいしさを知ってほしいですね」

肥育には手間をかけ
精一杯の面倒をみる

次に魚住さんが向かったのが、JA全農兵庫が運営する神戸ファームだ。但馬牛の繁殖と肥育を行っている神戸ファームの現場を担当する吉田大さんが魚住さんに但馬牛の肥育について説明をしてくれた。

「但馬牛の最大の特徴は血統にあります。県の管理する血統だけで改良を重ねることにより、もともと但馬牛が持っている優れた肉質といった特徴を維持、向上させているのです。いわば、純血を貫くことで、肉質のきめ細かさ、皮下脂肪の薄さ、食べた際に口の中で溶けるような食感が生まれてくるのだと言えるでしょう」

実際、但馬牛は血統を守るために雄の精子は県がすべて管理しており、人工授精で繁殖される。しかし、但馬牛は小柄であるため、生まれたての子牛も小さく、肥育にはかなりの手間がかかるという。

吉田 大
神戸ファーム
場長代理

「子牛が生まれてからは毎日の健康管理を欠かさず、朝と夜に全頭点検を行っています。神経を使う部分は、やはり風邪などの症状です。特に季節の変わり目は注意しなければなりません。子牛の平均体温が38.5~39.5度くらいなので、体温を測りつつ、必要に応じて栄養剤を与えたり、獣医さんに往診を依頼したりしています」

肥育農家と連携して但馬牛の数そのものを維持していくことも大切な役割の一つ。「純血を守りながら、どのように繁殖させていくのか、データを活用して最適な組み合わせを導き出してもいます」と吉田さんは語る

吉田さんの説明を聞きながら「繁殖・肥育の方法は、過去と比べて進化している部分はありますか」と魚住さん。すると、「牛は第4胃まであるのですが、生後3カ月くらいまでは胃がまだ一つしか働かない状態です。そのため、昔は草をどんどん食べさせることで、胃の成長を促していたのですが、今は専用の飼料を与えることで、胃の中の絨毛を育てて、消化・吸収するチカラをつけてから、草を与えるようにしています」。肥育は平均32カ月をかけて良質な肉質をもつ牛に成長させていく。「但馬牛は毛や皮がやわらかい牛に育ちます。肉質がいい証拠なのです」。

最後に「但馬牛のライバルとして意識しているブランドは」と魚住さんが聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ライバルはいません。但馬牛の良さを守り、ブランド価値を高めていくことしか考えていません。GI登録を機に、これからも神戸ビーフという世界的なブランドの名に恥じないように努力していくしかない。そう考えています」

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