GIと呼ばれる地理的表示保護制度の登録産品が増えている。GIとは、農産物のブランド力を向上させ、独自の生産プロセスや地理的な特性によって高い品質を達成している農産物の名称を知的財産として保護する制度。農産物のブランド力を向上させ、海外を視野に入れた取り組みを加速させるきっかけとして期待されている。その中から、2カ所の産地をフリーアナウンサーの魚住りえさんと訪れた。今回、紹介するのは福岡県八女市の八女伝統本玉露だ。山あいの茶園に近づくと、一面、すまきに覆われた一画に出くわした。
(2017年8月7日掲出)

制作:東洋経済企画広告制作チーム
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八女伝統本玉露の
うま味と甘味を実感

玉露と煎茶の産地として名を知られる福岡県八女市の「八女茶」。その中で「八女伝統本玉露」が2015年12月、地域の農産物ブランドを国が保護する地理的表示保護制度(GI)に登録されたことで、さらなるブランド茶としての地位向上と海外展開へ向けた新たな取り組みが始まっている。

魚住 りえさん

慶應義塾大学卒。日本テレビにアナウンサーとして入社。フリーに転身後、ボイスデザイナー・スピーチデザイナーとしても活躍。著書である『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)がベストセラーに。新刊の『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)もヒット中

5月中旬、そんな注目の八女茶の魅力を探ろうと、初夏の陽気を迎える八女市に訪れたのは、フリーアナウンサー、スピーチ・デザイナーとして活躍する魚住りえさんだ。早速、JAふくおか八女の代表理事組合長である久保薫さんから「八女伝統本玉露」を勧められた魚住さん。一口いただいた途端、「強いうま味が感じられ、甘味が後になって広がってきます。普段飲んでいるお茶とは別の飲み物のよう」とコメント。続いて、しずく茶も一口。こちらはたっぷりの玉露に約45度のお湯を注ぎ、ふたをして待つこと二分。ふたをしたまま玉露のうま味が凝縮されたしずくを楽しむという趣向だ。

こちらは、「まるでお出汁を飲んでいるような感覚にもとらわれる」と続ける。しずくを味わった後の茶葉はポン酢をかけていただくこともできる。八女伝統本玉露のプレゼンテーションに魚住さんも感心しきりだった。
こうした八女伝統本玉露ならではのうま味と甘味はいかにして生み出されるのか。久保さんは次のように話す。

「玉露は新芽が一葉ほど出てきた段階で直射日光を遮るために茶園全体を覆って栽培するのですが、八女伝統本玉露は、棚をつくって、稲藁を編んだすまきを使用しています。そして人が手摘みをしています。そのため、機械摘みの茶園とは異なった風景が広がるのです」

八女伝統本玉露の茶園。藁で編んだすまきが日光を遮る。お茶の葉も手摘みのため整形はされていない。野趣あふれる雰囲気だ。取材に訪れた5月中旬はちょうどお茶摘みが始まったばかりのタイミング。例年よりも遅めの茶摘みスタートだ

生産者が切磋琢磨する環境で
品評会受賞の常連に

久保 薫

JAふくおか八女
代表理事組合長

久保さんは、「日本の文化として継承していく必要があるとの思いが根底にある」と続ける。伝統的な手法によって栽培している玉露は全国的に見ても生産量が少ないという。そもそも伝統本玉露という呼称は、本来の玉露づくりの伝統を維持しつつ、八女茶全体のブランド力向上を目指す目的で1997年から始まった。2016年度の八女茶全体の生産量は1870トンで、その中でも玉露は11トンしかなく、GIに認定された八女伝統本玉露となると3368kgの数量に過ぎない。それほど希少なものなのだ。厳選された品質ゆえ、「八女伝統本玉露」は全国茶品評会において12年連続で農林水産大臣賞を受賞するなど、受賞の常連ともなっている。

「中には5年連続で受賞された生産者の方もいます。そうした全国レベルで高く評価されるスター生産者が同じ地域で栽培している意義は少なくありません。多くの生産者に大きな刺激を与えているのではないでしょうか。こうした約1200戸の生産者の思いが、品質の高い玉露を栽培する動機づけになっており、八女茶全体の品質向上やブランド力を高めているのです」

17年3月には米国ニューヨークでレストランのシェフやジャーナリストなどを対象とした試飲会のPRイベントを開催。ほかにも「水出し玉露」など新しい飲み方を提案するなど、さらなるブランド力強化の取り組みを続けている。

魚住りえさん 八女伝統本玉露のお茶摘みに挑戦

お茶摘みに挑戦する魚住さん。八女伝統本玉露はすべて手摘み。生産者の野中さんに教わって、新芽を摘んでいく。下の写真は、手摘みから製茶工場へ運び、荒茶にまで仕上げるプロセスの一部。ここでも鮮度に気を使う。摘んだその日のうちに製茶工場へ運び込み、一気に荒茶まで仕上げる

JAグループでは「みんなのよい食プロジェクト」を展開している。上のキャラクターはシンボルマークの「笑味ちゃん」。「心と体を支える食の大切さ、国産・地元産の豊かさ、それを生み出す農業の価値を伝え、国産・地元産と日本の農業のファン」を増やすため、さまざまなイベントなどを実施している

「八女市にはお茶のほかにも、イチゴ、ぶどう、桃、キウイといった豊富な農産物があり、八女伝統本玉露のGI登録をきっかけに八女全体のブランド力を高めることにつながりました。これからも世界に向けて八女茶を飲むシーンを提案しながら、さらなる市場拡大にチャレンジしていきたいと思っています」と久保さんは締めくくった。

朝霧の立つ場所に
良いお茶が育つ

野中 常二

こちらは、かぶせ茶の茶園。収穫に近づいたタイミングで覆いをかぶせる。覆いは化学繊維を使用し、機械摘み。さまざまなバリエーションの八女茶を生産している

魚住さんが次に訪れたのが、八女伝統本玉露のお茶畑だ。八女・黒木地区の山間部で約100年続くお茶畑を切り盛りする野中常二さんは3代目。現在47歳のベテランだ。「玉露は標高の高い山間部で栽培します。寒暖差があり、朝霧の立つところで品質の良いお茶ができると言われています」。

「摘採時期を前にした4月中旬から一番気をつけるのは、すまきで茶園全体を覆うタイミングです。茶葉に当たる日差しを抑制することで、アミノ酸の生成を促し、それが茶のうま味となるのです。そのため、天候、とくに湿度と気温に非常に注意を払いますね。すまきで覆うタイミングも多少変わってきます。目安は新芽が0.5~1葉ほど開きかけている時。すまきをかけるのは一日がかりです。自然の藁なので、陽光を浴びても覆われた空間は涼しく、ゆっくりと成長する特徴があります」と野中さん。

栽培で最も苦労するのが、手摘みだ。とくに八女伝統本玉露は自然の樹姿を生かした「自然仕立て」のため、すべてを手摘みで行わなければならないのだ。野中さんが続ける。

「手摘みでは先端から二つ目までの若い葉を摘む一芯二葉というとても手間のかかる手順で進めていきます。昔は私の家でも、泊まり込みで手摘みを手伝ってくれる女性の方々がいたのですが、今は経験者も少なくなっており、摘む人の確保が大変なんです。私のところでも今では、家族総出で対応しています」

海外の方々にも
八女茶を味わってほしい

熟練した経験者なら1日に10kg以上を摘む。摘んだ生葉は、鮮度を保つためにその日のうちに製茶工場に運び込む。加工をする基本単位は60kg。それから、製茶工場で生葉を蒸して、もんで、乾燥させ、「荒茶」という出荷形態にするまでに約5時間をかける。ピーク時、加工場は24時間のフル稼働になることも少なくない。さまざまな関係者が、八女茶のブランド力を高めたいという気持ちを共有している。

「生産者同士で勉強会も行っています。自分だけが良くても、皆で良くなければ地域の生産向上につながりません。良い知恵があれば、隠すことなく、皆で共有しています。しかも、GI認証していただいたので、責任も重くなっていると気を引き締めてもいます。もっともっと努力していかなくてはなりません。これからは、ニューヨークでもロンドンでも世界中で八女伝統本玉露を飲んでほしいですね。それだけ手の込んだお茶ですから」

最後に、野中さんは魚住さんにこんな話を聞かせてくれた。「例年、お茶の摘採時期になると、なぜか去年のお茶の味がおいしくなるんです。それを昔の人は"お茶が戻る"と表現しました。お茶には不思議な力があるのかもしれません」。

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