ZENITH

 村松氏自身の社会人としてのキャリアの始まりは、意外なことに俳優だった。

 「当時はトレンディドラマの時代で、どうしてもそちらのオファーが多くなり、それがちょっと嫌だったんです。そんなときに、米国から今後コンピュータがくるらしい、という情報を得て独学で始めるんです」

 ネイキッドを立ち上げたのは1997年。映画をつくるための会社だったが、コンピュータを使っているうちにデザインが面白くなり、映画編集をするつもりが、先にモーショングラフィックを始めることになってしまったという。

 「自主映画を撮って、格好いいタイトルバックを作りたかったからデザインを始めたら、それが新しかったのでテレビ局のプロデューサーに見せたんです。そうしたら、新しいねってことになり、タイトルバックの仕事が増えていきました。当時は、日本一を争うぐらいタイトルバックをつくっていたと思います」

 それから、その視線はやりたかった映画の方へ。まずショートフィルムから始めたのだが、当時はショートフィルムすらあまり知られてなかった時代。まだ、あの「ショートフィルム・フェスティバル」が立ち上がる前のことで、日本でフェスティバルが始まった際には、主催者から「パイオニア」と称されたという。

 そして、その流れは当然長編映画へと向かう。2006年から10年にかけて、フルデジタルの長編映画4作品が劇場公開されている。村松氏の当初の念願が叶ったわけだが、最後の作品が公開されたあたりから、DVDマーケットが崩壊し、インディペンデントが映画を撮れる状況ではなくなっていく。

写真1 写真2
村松 亮太郎

NAKED
Creative Director

村松 亮太郎

「本物であること」を真髄にするマニュファクチュール、ゼニスの時計はハートに触れるものでないと納得できない村松氏によく似合う

好きな言葉は?

たゆたう

革新への教訓は?

含んで超える

印象に残った言葉や旅は?

Touch my heart

愛用しているものは?

iPad pro, Macintosh のアンプ

ゼニスの中で好きな(気になる)時計は?

機械が好きなので「クロノマスター エル・プリメロ トゥールビヨン」

 そこで始めたのがプロジェクションマッピングだった。

 「東京駅がほぼ初めての作品でした。それ以前からプロジェクションマッピング自体は存在していたんです。ただ、お客さんへの見せ物としては辛いという状態だった。うちは、それに映画的な世界観などを合わせたので、注目されたのだと思います。演出家はテクノロジーがわからない、テクノロジーの人間は演出がわからないという中で、ぼくはバイリンガルだった。仕事をするうちに、そうならざるを得なかったのですが、それが功を奏した感じですね」

 このプロジェクションマッピングで、思いも寄らなかった注目を集めたわけだが、村松さんにとっては、新しい発見もあったのだという。

 「ありがたいことではあるんですが、突然、東京駅で注目されて困ってる部分もあります。ただ、このプロジェクションマッピングによって、四角いフレームの中から出られた。映像表現が枠にはまらなくてできたことが、ぼくには面白くて、すごい可能性を感じたんですよ」

 その自由な発想から、ネイキッドはつねに新しい試みを行っている。最近で特筆すべきは『FLOWERS BY NAKED』である。これは花を五感で楽しむ体験型イベントで、コンテンツ内で楽しむ花をモチーフとしたオリジナルカクテルや花関連のワークショップ、会場内を自由に撮影しSNSで自分が加工した画像をアップできるなど、鑑賞だけではなく、体験を持ち帰ることができるようになっている。

 「これはゼロの空間から世界をつくりだしたいというもの。リアルな花とデジタルとでニオイも作りますし、全部をまぜあわせて、どこからどこまでがデジタルなのかリアルなのかわからない世界なんです。テクノロジーの応用とかを全部使った、現代の人が楽しめるフラワーパークですね」

 そんな高品質なデジタル作品を次々につくり出す村松氏だが、ご本人は「ぼくはアナログ思考なんです」という。そして、「何でも仕事に結びつけて考えている」という村松さんが仕事抜きで好きなものとして挙げたのがクルマである。

 「クルマを運転するのが好きなんです。オーディオも好きなので、そういったアナログなサウンドが好きなんだと思います」

 また、世界の映画祭に参加した際に、印象に残った言葉が「Touch My Heart」だと。映画の中味がハートに触れるかどうかということだ。ちゃんとハートに触れるものでないと納得できない。だからこそ「ゼニスの時計が好き」なのだという。時計における“Heart”はムーブメント。人の手で丹念に組み上げられたゼニスのOpen Heartで見られる精巧な動きは、村松さんのハートにしっかりと触れたようである。