IBMクラウドのプラットフォームに載せ、バリューを生むソリューションを提供

コスト削減や業務の効率化、さらには、ワークスタイルの多様化やBCP(事業継続計画)の観点などから、自前のシステムをクラウドに移行する企業が増えている。「クラウドというとどうしても費用やスピードなどが注目されがちです。ただし、本当に大切なのは、クラウドを使って、どのような価値を生み出し、どのようなトランスフォーム(変革)を起こすかです」と指摘するのは、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)取締役 専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏だ。

分散型台帳技術のブロックチェーンをはじめとする先進技術やITを金融の分野で組み合わせたフィンテック、あらゆるモノがネットにつながるIoT(モノのインターネット)、さらには人工知能(AI)やロボットなどに関連する新たなビジネスモデルも生まれようとしている。「といっても、企業のシステムが一足飛びにこれらのクラウドに転じるわけではありません。当面は、オンプレミスとクラウドが共存するハイブリッド環境が中心になります。従来型の業務システムであるSoR(System of Record)領域と、顧客との新たな接点となるSoE(System of Engagement)との連携も重要なポイントで、例えばSoRにあるデータ資産をSoEからAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介して安全に活用できるようになれば、新たなビジネス価値を生み出すことができます。IBMクラウドが多くのお客様に選ばれる理由もここにあると自負しています」

三澤 智光 氏

三澤 智光

日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役 専務執行役員 IBMクラウド事業本部長

改めて言うまでもなく、IBMは企業の基幹システムの構築などでは長年の実績がある。クラウドでは後発の分、オープンなテクノロジーをベースとしたクラウド環境でベンダーロックインを防ぐことができ、さらに、クラウド上の顧客専用環境や顧客設備として提供するなど、企業がセキュリティーを考慮しながらハイブリッド化を進めていくための選択肢を提示している。「アナリティクス(解析)やAIのワトソン、IoTなどをクラウドのプラットフォーム上に載せて、素早くソリューションとして提供できるのがIBMクラウドの最大のバリューです」と三澤氏は語る。

単にオンプレミスをクラウドに置き換えるだけでなく、企業のトランスフォームの実現を支援することを目指しているという。もちろん、世界に広がるネットワークにも定評がある。世界に活躍の場を求める日本企業にとって、導入時の負担軽減はもとより、そのマネジメントの質も向上するだろう。以下では、IBMクラウドを採用し、トランスフォームに取り組んでいる企業の事例を紹介しよう。ぜひ、参考にしてほしい。

図形

銀行APIを提携パートナーに安全に開放。
新たなビジネスを展開

住信SBIネット銀行
FinTech事業企画部長

吉本 憲文

支持されるネット専業銀行が、
さらに変わろうとしたこと

吉本 憲文 氏

住信SBIネット銀行は2007年9月の営業開始以来、「どこよりも使いやすく、魅力ある商品・サービスを24時間・365日提供するインターネットフルバンキング」の実現に努めてきた。口座数、預金総額ともに順調に拡大し、顧客からも高い評価を得ている。

たとえば「2016年オリコン日本顧客満足度ランキング」の「ネット銀行」において、3年連続(6度目)で第1位となっている。

同行は業界に先駆け、先進的なサービスの提供にも積極的に取り組んでいる。象徴的なのは、金融とITを組み合わせたフィンテックについても、まだその言葉が一般化していない2015年8月にすでに「FinTech事業企画部」を設立していることだ。同部部長の吉本憲文氏は、「当社はネット専業銀行ということもあり、金融とITとは切っても切れない関係があります。常にお客様の目線で、利便性の高いサービスを提供することを考えてきました」と語る。2016年3月から始まった、自動の家計簿アプリ「マネーフォワード」を提供するマネーフォワード社とのAPI連携もその一つだ。

住信SBIネット銀行のインターネットバンキング利用者は、マネーフォワードやビジネス向けサービス「MFクラウドシリーズ」で、住信SBIネット銀行の残高情報や入出金履歴などが確認可能になった。

ただし、その実現のためにはさまざまな課題があった。たとえば、顧客のユーザーIDやパスワードの管理である。これはサービスの根幹に関わる要素だ。

Cloud導入後にトランスフォームする

「コミュニケーション・イノベーター」を目指しトランスフォームを続ける

株式会社イセトー
取締役専務執行役員

松川 穣

時代のニーズを先取りした
サービスを生み出し成長

松川 穣 氏

「当社の沿革そのものがトランスフォーム(変革)の歴史と言えるかもしれません」と語るのは、イセトー取締役 専務執行役員の松川穣氏だ。

同社は江戸時代末の1855年、和洋紙の卸小売を行う「伊勢屋商店」として京都に創業した。文庫紙と呼ばれる反物などを包む厚紙の製造販売の量産化に成功し、大正期には日本初の呉服用文庫紙専用工場を設立している。

同社にとって大きな転機になったのが、1950年代に国産初のビジネスフォーム(コンピュータ用連続用紙)の製造に成功したことだ。さらに1970年代には、ビジネスフォームから情報処理サービスへ進出。銀行や証券会社から顧客のデータを預かり、帳票などを出力して発送するビジネスを手がけた。まだBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といった言葉もなかった時代である。

同社は以後、情報セキュリティ、環境保護などの流れを先取りし、金融機関から信頼される質の高いサービスを提供してきた。個人情報保護法の施行などにともない、同社の事業はさらに拡大する。

「さらに、インターネットバンキングの普及などにともない、当社への引き合いも増えてきました」と松川氏は説明する。たとえば、帳票類の出力である。インターネットバンキングであっても、取引の記録である帳票は必要だ。「当社であれば、お客様のデータをアウトプットするノウハウやシステムがすでにあります。金融機関の要望にも比較的容易に応えることができると考えました」(松川氏)。

だが、そこには課題もあった。金融機関では当然、セキュアなシステムを求める。そのため、多くの金融機関が、オンプレミスな環境でサービスを提供するように要望されたのだ。

Cloud導入後にトランスフォームする

クラウドがIT部門の存在感を高め、
業務プロセス全体の最適化を進める

株式会社LIXIL
理事 Chief Information Officer (CIO) 兼
情報システム本部 本部長

小和瀬 浩之

グローバル統一を見据えた
ITの標準化が急務

小和瀬 浩之 氏

LIXILは2011年4月、トステム、INAX、サンウエーブ工業、新日軽、東洋エクステリアの5社が統合して誕生した。海外企業のM&Aなどにより、売上高約1兆9000億円、住宅設備業界最大手のグローバル企業となった。

統合にともない、まず取り組まなければならなかったのが、グローバル統一を見据えたITの標準化だ。同社には、国内はもとより、欧州、アジア、米国に旧事業会社の拠点があり、それぞれの業務プロセス、アプリ、インフラがまさにサイロ化していた。

そこで、「グローバルONE LIXIL」を目指して、全世界で業務システムを統一する「L-One」プロジェクトがスタートした。その指揮を執るのが、CIO兼情報システム本部長の小和瀬浩之氏だ。

「LIXILのITビジョンは、グローバルレベルでのビジネスモデルの変更にも柔軟に対応できるインフラを構築することです」と説明する。

具体的には、世界統一アーキテクチャー/オペレーションによるグローバル統一を見据えた標準化、そして柔軟性・汎用性・拡張性のある変化に強いIT基盤、可用性・セキュリティに優れ基幹業務を支える堅牢なIT基盤などの確立などを掲げている。

実現は容易ではない。世界中のシステムが個別最適化されており、「サーバーだけでも世界に5000台以上が点在していた」(小和瀬氏)という。

Cloud導入後にトランスフォームする

銀行APIを提携パートナーに安全に開放。新たなビジネスを展開 住信SBIネット銀行 Fin Tech 事業企画部長 吉本 憲文 氏

変革し続けるためのバックグラウンド〜API連携により、生み出されるコラボレーション〜

吉本 憲文 氏

フィンテックは顧客の利便性の向上など大きな可能性を秘めている一方で、ユーザーIDやパスワードなどセキュリティ面では細心の注意が必要になる。マネーフォワード側としても、ユーザーIDやパスワードを預かって管理することは避けたいと考えるのももっともだ。

データの取得にあたっては、Webスクレイピングという手法もある。残高や入出金明細などの照会データをWebのコンテンツの中にある数値などから自動的にデータ化する技術である。

「ただ、スクレイピングの場合、サイトをリニューアルするとデータを取れなくなってしまいます。また、数字にカンマが入っていたり、マイナス表示が三角であったりしても、読み間違いになることがあります」と、吉本氏は問題点を認識。これらの課題を解決するのが、「API経由でのデータの提供です」。

API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)とは、あるソフトウエアが別のソフトウエアの機能やデータにアクセスできる仕組みである。安全性を高め正しいデータを取得できるのが大きな特長で、昨今は大きなムーブメントとなっている。

「当初は、自らAPI基盤を作ることを考えたこともありましたが、IBMのサービスが使い勝手がよいとわかり、採用しました」。そのAPI基盤がIBM API Connectと、IBM DataPower Gatewayである。

IBM API Connectは、APIの作成、実行、管理、保護が簡単にできるソリューションである。IBM DataPower Gatewayは、APIへのセキュリティ適用などを行う。その堅牢性には定評があり、さらに、OAuthと呼ばれる権限基準に準拠したアクセス制御も採用し組み込まれた。

「API経由で複数のパートナーに口座情報へのアクセスを許可した後も、認証後のアクセスを管理することができます。つまり、万一の際には銀行側でアクセスを止めることができます。また、OAuthの採用により、ユーザーIDやパスワードを銀行以外の第三者に開示しなくても済むようになったこともお客様に大変好評でした」

2015年12月、同行はブロックチェーン技術の利活用に向けた実証実験を開始、16年8月には、「ブロックチェーン技術などを活用した国内外為替一元化検討に関するコンソーシアム」への参加を発表するなど、ネット専業銀行としての進化がとどまる気配はない。

「新たなサービスの創出のためには、フィンテックベンチャーをはじめ、さまざまな企業とのコラボレーションが不可欠です。安全で安心できるAPI連携によりそれが可能になると考えています」と吉本氏は語る。

IBMのソリューションにもさらに期待がかかるところだ。

「コミュニケーション・イノベーター」を目指しトランスフォームを続ける 株式会社イセトー 取締役専務執行役員 松川 穣氏

「コミュニケーション・イノベーター」を支えるIBMクラウド

松川 穣 氏

インターネットバンキング事業に潤沢な予算を確保している金融機関は少ない。このため、オンプレミスでシステムを構築することは現実的ではない。さらに、オンプレミスは、イセトー自身のビジネスモデルとしても問題があった。執行役員の和田英久氏は「金融機関ごとにどれだけの業務が発生するか読めない中で、大規模なシステムを用意するのはリスクになります」と話す。

和田 英久 氏

執行役員
事業企画室室長

和田 英久

その課題の解決のために、同社が選んだのがIBMクラウドだった。松川氏は「IBMクラウドであれば、ハイブリッドクラウドの形で、データの重要度に応じてセキュリティのレベルを分けることができます」と理由を語る。

営業統括本部の大塚啓史氏は「IBMは金融機関のレガシーシステムを長年にわたり構築してきた実績があります。オンプレミスとクラウドの両方に精通しているため、金融機関のお客様にも自信をもってお勧めすることができました」と振り返る。

第1号の事例が生まれるまでには1年ほどがかかったが、その後は金融庁の方針などもあり、金融機関へのクラウドサービスの導入は一気に進んだ。イセトーはまさに、その先陣を切ったわけである。

和田 英久 氏

営業統括本部 営業企画部
部長

大塚 啓史

同社では、さらに一歩前を見越した取り組みも進めている。松川氏は「その一つが、フィデューシャリー・デューティーに対応する動画コンテンツの提供です」と紹介する。

フィデューシャリー・デューティーは受託者責任とも呼ばれる。金融機関には顧客本位の業務運営が求められるが、その一環として情報提供も重視されている。松川氏によれば欧米では書面によるもののほか、動画による情報提供も広く行われているという。そこでは、顧客一人ひとりの口座残高、保有する金融商品、関心のあるサービスなどについて、個別の動画が配信されるという。

松川氏は「これを従来の仕組みで行うと数万種類もの動画を用意しなければならなくなりますが、当社ではIBMクラウドを利用し、動画のストリーミングでこれを実現しました。さらに、開発についてもIBMクラウドのMobileFirst Platformでアジャイルに行いました」と話す。

為沢 浩一 氏

営業統括本部 営業企画部
営業企画グループ 主任

為沢 浩一

プロジェクトメンバーとして参加した営業統括本部の為沢浩一氏は「若手のスタッフが、自分の意見やアイデアをトライ&エラーで形にすることができました。これもクラウドならではと感じています」と語る。

プロジェクトが始まってから、わずか4か月後にはプロジェクトが完成し、サービスをリリースしたというから驚く。

松川氏は「AIの活用なども視野に入れています。今後もさらに『コミュニケーション・イノベーター』として、お客様を支援していきたいと考えています」と話す。同社のさらなるトランスフォームが実現しつつある。

クラウドがIT部門の存在感を高め、業務プロセス全体の最適化を進める 株式会社LIXIL 執行役員 CIO(兼)情報システム本部 本部長 小和瀬 浩之

もはやオンプレミスを選択する合理的な理由はない 所有から利用への移行が重要である

小和瀬 浩之 氏

L-Oneプロジェクトの柱は、世界標準の業務システムを構築することだ。SAP製ERP(統合基幹業務システム)をベースに、「いくつかのパッケージも活用しています。SFAのところではSalesforce、旅費精算ではConcur(コンカー)なども使っています」と小和瀬氏は紹介する。

一方で、工務店や販売店が利用するオーダーメイドのアプリもある。「徹底的に差別化すべき業務についてはオーダーメイド中心、効率性を追求すべき業務についてはパッケージ活用中心と、コアとノンコアを区別しています」ときめ細かい対応と効率性追求の最適なバランスの実現を目指している。

小和瀬氏はさらに「LIXILのIT基盤の求める姿は所有から利用への移行です」と話す。

アプリケーションの特性に応じて、最適なデプロイメント(配置・配備)を選択し、現在世界に9つあるデータセンターも、欧州とアジアの2極に集約する計画だ。「これらを実現するためには、オンプレミスでは無理です。さらに言えば、もはやオンプレミスを選択する合理的な理由はないとも感じています」

LIXILが選んだのが、Bluemix Infrastructureを中心とするIBMクラウドだった。「Bluemix InfrastructureのベアメタルサーバーでVMwareで仮想化した数千の仮想マシンからなる既存システム群をクラウド移行し、Bluemix PrivateでOpenStackベースのクラウド基盤を構築しています。オンプレミスと同等の可用性とパブリッククラウドと同等の拡張性・縮退性があるとともに、OpenStackをはじめとするオープンテクノロジーを活用して属人性を排除し、ベンダーロックインの心配もないと判断しました」

スピードやコストの点でもIBMクラウドは優れている。同社の試算によれば、オンプレミスと比較し、IBMクラウドなら5年間で約10億円のコスト削減が実現するという。

その一方で小和瀬氏は、「システムは導入すれば効果が出るというものではありません。大切なのは、システムの刷新を機に、業務そのものを見直すことです」と指摘する。

同社ではたとえば旅費精算についても、ICカードを活用した自動精算を実現することにより、従来6段階あった承認プロセスを1段階にまで削減したという。

「業務プロセスを全体最適化できるのは、やはりIT部門です。インフラチームはどちらかと言えば、縁の下の力持ちといった印象があります。私はそうではなく、攻めの姿勢で取り組んでほしいと考えています。私は『プロ化宣言』と呼んでいるのですが、一人ひとりがプロフェッショナルになり、市場価値を上げてほしいですね」

小和瀬氏は加えて、「サーバーを作る人材は社内には要らない」とも語る。IBMクラウドを導入することで、IT部門の人材についても、付加価値を生むコア業務に特化することが可能になるわけだ。IT部門の存在感も高まるだろう。