専門家に聞く 時間活用テクニック

専門家プロフィール

水口和彦

ピズアーク時間管理術研究所取締役社長。時間管理コンサルタント。住友電気工業にて研究開発・生産技術・品質管理エンジニアとして勤務するなか、時間管理により残業を大幅削減。その経験を生かし独立。一部上場企業や中小企業、官庁や地方自治体などにおいて研修や指導を行っている。新聞雑誌の取材・執筆、ラジオ・テレビへの出演実績多数。近著に『部下を持つ人の時間術』(実務教育出版)がある。

時間マネジメント術1:業務を分類・見える化する

次々と業務が積み重なり忙殺されてしまうのは、時間管理ができていない証拠だ。「やらなければならない業務を分類した上で、スケジュールを書き込んで見える化すること」が時間マネジメントの大前提になると、水口さんは話す。

「業務は、『アポイントメント』『タスク』『予定外』の3タイプに分類してください」。

「アポイントメント」は、①開始時間が決まっていて、②自分だけの都合によらない業務のこと。取引先への商談や社内会議などが当てはまる。移動が必要な場合は、前後に移動時間を割り当てておくようにする。

「タスク」は、①比較的自分だけの裁量で進行でき、②期日までに一定の猶予がある業務のこと。「ToDo」ともいわれるもので、プレゼンの資料作りや顧客開拓といったものから、メールチェック、会議室の予約といったものまで幅広い。

「予定外」は、言葉通り①予定しておくことが難しい突発的なもので、②すぐに対応しなくてはならない業務のこと。これに対応するための時間をあらかじめ割り当てないと業務が詰まり、残業につながってしまう。

3タイプの割合は、職種や立場によって変わる。新入社員や異動したばかりの社員は「タスク」が多い代わりに「アポイントメント」「予定外」が少ないが、立場が上がるにつれて逆転していく。

「最初に『アポイントメント』を書き込んでいくケースが多いと思います。次に、1.5~2.5時間の『予定外』を確保。その上で、余裕のある時間帯で『タスク』をこなしましょう。その日、その時刻に取り組むべき業務が見え、無駄な時間を生みません」

時間マネジメント術2:やりくりするコツを学ぶ

大前提を学んだあとは、実践だ。いくつかのルールやテクニックを身につけることで、時間マネジメント術を体得できる。

即座にアウトプットするクセをつける

とある業務を遂行中、別の「タスク」として管理すべき事象が発生した場合は、間髪入れずにスケジュールに追加記載する。「今は目の前の業務に集中したい」と追加を後回しにすると、その「タスク」を忘れてしまう危険があるからだ。あとからまた思い出して、また忘れて……という愚を犯してはならない。

「即座にアウトプットできない状況を避けるべき、ともいえます。たとえば業務遂行中にポップアップしたメールを目にして、今は手が離せないからあとで返信しようとなれば、それは『あとで返信する』タスクが追加されたということ。タスクの項目が増えれば、手間や負担が増えるのも事実です。それを避けるなら、メールを逐一確認するのはやめ、返信というアウトプットを行える時間帯にまとめてメールチェックをしましょう」

時間予測の確度を高める

すべての「タスク」は、完遂に必要な時間を予測して記載しておく。たとえば「課長に相談 15分」「メール返信 20分」「プレゼン資料作成 150分」といった具合だ。そして、とりかかる際は時間を計測し、実際にどれだけかかったのかも書き留めておく。予測には自身の能力や職場環境などの分析が不可欠であり、予測と結果のギャップがあるほど、これらの分析が甘かったことになる。

「とかく人間はあまく見積もりがち。これくらいだろうと考えた、1.5倍の時間に設定するのが間違いありません」 時間予測の確度が高まれば、より効率よく仕事でき、未経験の業務でも予測が立てられるようになる。 相手のいる「アポイントメント」の場合、時間を正確に読むことは困難だが、スケジュールには開始時間とともに終わり時間も記載しよう。そうすることで、残りの時間に何の業務ができるのか、目処がつく。

タスクは一覧化せず実行日に落とし込む

やるべき「タスク」を一覧にまとめている人は多い。しかしそれだと、いざスキマ時間が生まれたときに、どのタスクをやろうかと悩む時間が発生してしまう。一覧にまとめるのではなく実行日ごとに落とし込むと、そうした無駄を省くことができる。多くのスケジュール帳には、時間軸以外に自由に書き込めるスペースも用意されている。「アポイントメント」や「予想外」の業務がどれだけの時間を占めているのか、個々のタスクにどれだけ時間が必要かを見立てた上で、その日に行いたい「タスク」を一日単位で記入していく。

「ポイントは、『タスク』の締め切り日にフォーカスせず、前倒しで予定を組むこと。それと、その日に履行できなくても苦にせず、翌日以降に繰り越すこと。こうすることで『タスク』が順調にこなせるようになります」

時間マネジメント術3:時間管理の本質を理解する

「時間」には、①時の流れのある1点を指し示した時刻と、②一定の量を示した積算時間の2つがある。時間管理はそのどちらも重要で、開始時間、終了時間、作業時間、すべてを把握しておくことが望ましい。デスクワークなら、パソコン画面にあるデジタル時計も使えるが、積算時間を視覚的にとらえるにはアナログの腕時計のほうが適切だ。

また、時間管理という言葉に潜む罠にも気をつけなければならない。

「時間を管理するというと、時間をコントロールする必要があるように思えてしまいますが、それは誤りです。時間を操れるのは神様だけの話。今日だけでなく、何年、何十年先という広い視野の下、時間という限られたリソースを有効に使うことが真の目的です」

スケジュール通りに活動できなかったことは、時間管理ができていないわけではない。現実と向い合って柔軟にやりくりし、できるだけ無駄なく効率的に時間を活用する道を目指したい。