「日本企業の海外展開が進む一方で、子会社などグループ会社の資金管理を現地法人まかせにしているところが依然として少なくありません」と指摘するのは、REVAL JAPAN(株)代表取締役の長崎一男氏だ。
REVAL は、米国ニューヨークに本社を置く統合型財務・リスク管理(トレジャリー・リスク・マネジメント:TRM)ソリューションを提供する大手プロバイダーである。世界12カ所の事業所に500人以上のスタッフを擁しており、大手多国籍企業をはじめ600社以上が同社のソリューションを採用している。
日本企業には、グローバル資金を把握できていないところが多いという。そのデメリットはどのような点なのだろうか。
「大きく2つ挙げることができます。1つは、資金効率を最大化できないこと。もう1つは、財務リスクが増えることです」
長崎氏によれば、資金管理を事業部や現地法人任せにすると、どうしてもキャッシュフローが保守的に見積もられることが多くなり「無駄」が生じやすいという。さらに、資金余剰になっている企業と借入金がある企業とがバラバラに活動すれば、金利負担も発生する。BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)への影響も生じるだろう。
折しも、昨年には「日本版スチュワードシップ・コード」、「日本版コーポレートガバナンス・コード」も相次いで策定された。企業にとっては、ROE(自己資本利益率)向上など、さらなる資本効率改革が求められるようになる。
財務リスクについても、為替変動リスクのほか、不正リスクなども増大している。これらのリスクへの対応や最適化も重要だ。
「まずはグループ各社の資金情報を可視化することが必要不可欠です。ただし、単に可視化すればいいというわけではありません。大切なのは、それによって、資金や流動性の管理、財務リスク管理などをどのように戦略的に行っていくかです」と長崎氏は指摘する。
「トレジャリー・マネジメント」と、日本企業における一般的な「財務」との大きな違いがここにあるという。
一般的な財務の場合、どちらかと言えば、資金繰り、資金出納的なオペレーションのために、数字をまとめることが主たる業務になりがちだ。グループ会社からメールなどで送付されてきたスプレッドシート(表計算ソフトのシート)を手作業で集計する光景もよく見られる。M&Aにより、海外の子会社が数百もある企業では、銀行口座が数千にも上ることもあるだろう。シートの収集だけでなくその集計にも時間がかかっているに違いない。
「集計結果が出るまでに2カ月以上かかるというところもあります」(長崎氏)。ビジネス環境が変化するスピードが増す中で、このような古いデータをもとにして戦うことは、不利であるだけでなく危険だろう。
「単に過去の数字をまとめるだけでなく、将来を見越した資金管理のあり方や通貨・金利リスクを考えたグループ・ファイナンスや外部からの資金調達・運用などの計画を策定するのも『トレジャリー・マネジメント』の役割です。たとえば、『キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:仕入れから売上金回収までに必要な日数)』という言葉があります。ROE改善やBSの圧縮のためには、CCCをできるだけ短縮することが求められます。むろんそのためには、銀行口座の一元化などグローバル資金の可視化および、これらの分析、見直しなどを定期的に行うことが必要です」と長崎氏は話す。
長崎氏によれば、欧米企業では「トレジャリー・マネジメント」を実践するために、トレジャリー部門を設け、「トレジャラー」と呼ばれる専門職が最高財務責任者(CFO)をサポートしているという。
人材だけでなく、高機能な財務システムへの投資も積極的に行われているようだ。それと比較し、日本企業で導入が進んでいない理由はどこにあるのか。
REVAL JAPAN(株)シニア・ソリューション・コンサルタントの柴田健太郎氏は「日本の銀行の中には国際銀行間通信協会(SWIFT)に対応していないところがあるなど、グローバル資金の一元管理を進めるためには大きな壁があったのです」と説明する。
このため、日本国内銀行の資金の可視化を行おうとすると、各銀行の専用システムの導入や、日本国内で提供されている「ANSER®(金融機関と顧客の間の連絡をコンピュータ処理するバンキングサービス)」等を利用し、人手を介して自社システムとデータ連携を行うしかなかった。
うれしいニュースもある。NTTデータのマルチバンク接続型ASPサービス「eBAgent®」を通じ、各銀行の円口座取引結果データ等を提供するゲートウェイサービスとREVALが自動で連携するというのだ。
(株)NTTデータ第二金融事業本部e−ビジネス企画室課長の斉藤孝平氏は、「ANSER®やeBAgent®等のサービスを通じて、企業が利用するTRM等に円口座情報を人手を介さずに提供する事で、日本国内のあらゆる銀行との円滑な取引を実現し、日本国内の資金を含むグローバルな資金の一元管理に貢献できると期待しています」と語る。
REVALのシステムはクラウド型で導入も容易にできるのも特長だ。「トレジャリー・マネジメント」を進めようとする企業にとって、REVALは大いに頼りになる存在になりそうだ。
※「eBAgent」「ANSER」は日本国内における株式会社NTTデータの登録商標です。