企業経営者の重要な役割の一つは、刻々と変化する市場環境に対応し意思決定を下すことだ。こうした中、注目されているのがサプライチェーンマネジメントの手法の一つである「S&OP(セールス&オペレーションズプランニング)」という考え方だ。概念自体は新しくないが、最近になって、特に生産拠点や販売拠点をグローバル展開する企業の経営層に支持されているという。その理由はどこにあるのか。
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「S&OP」はSCM(サプライチェーンマネジメント)から発展した概念の一つである。こう言うと、「当社はSCMには何年も前から取り組んでいる」さらには「SCMは生産部門のテーマではないか」と考える経営層もいるかもしれない。
確かにSCMは、販売部門からの需要予測(販売目標)に基づき、生産部門が製品製造の計画などを立て実行するものだ。ITを活用したSCMシステムを導入している企業も少なくない。
だが、現場の声を聞くと、それが必ずしも成果につながっていないようだ。生産部門では「販売部門から需要予測のデータが来るのが遅い」「強気の目標ばかりで実際の需要と異なる」という悩むがある一方で、販売部門からは「納期の回答に時間がかかり顧客に伝えられない」、「欠品が多く、機会を逸することが多い」といった不満もある。
いくら高額なITシステムを導入しても、情報の共有や計画の同期化がなければ宝の持ち腐れである。
「S&OP」は前述したようなSCMの課題を解決する概念として登場した。大きな特長は、SCMが「販売部門の受注予測に基づく製品の在庫数や製造数」に主眼を置いているのに対して、「S&OP」が事業の需給計画から調達、生産、販売、配送までのトータルな「収益」を重視している点だ。
「S&OP」の考え方が米国で誕生してから25年以上になるが、最近になって注目されるようになった理由は何か。それは、経営を取り巻く環境が急速に複雑化しているためだ。グローバル化の進展により、企業によっては、海外での調達や生産はもとより、マーケットもワールドワイドに広がるところが増えている。これらに伴い、スピードを確保しつつ、多様化したリスクに対応することが求められている。たとえば、需給のバランス最適化についても、これまではベテランの社員が経験と勘で行っていれば間に合っていたが、それではすまなくなっているのだ。
かつてのように縦割りのSCMではなく、複数の部門を横串にする「S&OP」が求められている理由はそこにある。「S&OP」は、各部門だけでなく、経営層が率先して取り組むべきテーマになっているのである。
SCMが複雑化するのに伴い、欧米ではすでに「S&OP」の仕組みを採り入れようとする企業が増えており、実際に、グローバルに展開する家電メーカーや消費財メーカーなどでは成功事例も生まれているという声も聞く。
しかし、その実態はどうなのだろうか。ここで注目したいのが、「S&OP」ソリューションの提供で実績のある米JDAソフトウェア・グループが世界各国の大手企業のサプライチェーン責任者(経営者を含む)を対象に実施した「JDA Vision 2015 世界のサプライチェーン運用実態調査」だ。
たとえば下の図をみてほしい。日本企業は欧米企業に比べて「S&OP」の導入が遅れていると指摘する声があるが、同調査の結果を見ると、その課題は依然として世界共通であることがわかる。「計画策定に表計算ソフトを使っている」と答えた製造業が62%もあったという結果に「わが社も同じ」と感じる人も多いのではないだろうか。
「S&OP」に関心のある人はもちろんのこと、現在のSCMに課題を感じている責任者や経営層も、同調査の結果からは新たな発見を得るに違いない。