「スピード」と「個別最適化生産」を生む3Dプリンタ
ストラタシス・ジャパン 代表取締役社長 片山 浩晶氏

 現在、3Dプリンタは「FDM®方式(熱溶解積層法)」と「PolyJetTM方式」という二つの技術がメインとなっている。FDM方式は、実際のプラスチックを使って、造形ができるという特徴がある。すでにアメリカでは一般的な製品だけでなく、航空機部品の一部が3Dプリンタによってつくられた製品に置き換わっている。その理由を片山氏は次のように解説する。
 「一つは、スピードです。航空宇宙業界では、特に仕様変更が多い。通常、部品を作り直す際には金型が必要ですが、それでは数か月を要してしまう。その間、機体をそのままにしておくことはできません。3Dプリンタは変化に対応できるスピードがあるのです。もう一つが、製品を軽量化できること。3Dプリンタなら、強度を高めながら約40%も重量を削減することができます。しかも小ロットでの製造が可能です。我々は『マスカスタマイゼーション』と呼んでいますが付加価値を高めながら、少ない生産数量でやっていくマーケットには、3Dプリンタによる製品製造は非常に適していると言えます」

コミュニケーションツールに変貌する試作品

 一方、PolyJet方式は、商品開発の試作部門で使われることが多い。この試作の分野でも新しい動きが起きている。一つはカラー化の実現だ。
 「従来の試作では、バイアスになるためカラー化を嫌う傾向がありました。ところが最近では、試作品が開発部門だけでなく、経営会議でのプレゼンやクライアントチェックなどで使われるようになってきたのです。いわば、試作のツールから、コミュニケーションツールとしても使われるようになったのです」(片山氏、以下同)
 さらに、驚くべき動きは3Dプリンタで、金型もつくれるようになったことだ。
 「売れるかどうかわからない小ロットの業務用部品は、金型をつくっても償却できるかどうかわかりません。どんな金型でも完成まで2~3カ月かかりますが、3Dプリンタなら1日でできてしまう。しかもコストは少なくとも数十分の一。それだけ競争力を持つことができるのです。樹脂でつくった金型は溶けやすく、破損しやすいと思われるかもしれませんが、実際はそうでもない。アメリカでは、3Dプリンタによる最終製品用の金型を含む部品、もしくは治具など最終製品用途の比率は、2009年段階で12%だったものが、13年以降は30%以上にまで上昇しています」

2020年には市場規模11兆円という予測も
photo1
photo1
photo1
photo1

実際に稼動する3Dプリンタや製造物を見ることができる、ストラタシス・ジャパン本社内にあるショールーム。新たなビジネスを生む、未来のものづくりの最前線だ。

 世界の3Dプリンタ市場が活況しているにもかかわらず、肝心の日本の動きはまだ鈍い。なぜ日本のマーケットは、ブレイクスルーしないのだろうか。
 「一つは、スピードに対する感覚。アメリカでは、1日でも早く出せ、という考え方です。市場に投入するスピードこそが、勝敗を分ける。日本はまだ品質至上主義で、むろん大事なことですが、スピードで比べると後手に回っているように見えます。もう一つは、チャレンジ精神。アメリカは失敗を恐れません。日本は失敗すれば終わりだという感覚がある。これをまず払拭すべきでしょう」
 3Dプリンタの進化はまだ始まったばかりだ。現在、世界の市場規模は約3000億円に過ぎない。しかし成長スピードは速く、試作部門から本格的な製造部門に使われるようになるであろう2020年には11兆円の市場規模になると予想されている。
 「日本のマーケットは、まだ世界の10分の1ですが、日本はものづくり大国であり品質に対する要求は高く、技術力も世界最高峰です。世界にとっても、日本市場に進出することは非常に敷居が高いと考えられています。我々も、日本のクライアントに対する距離を日々縮めるため、毎年お客様アンケートを行っており、その返答率は6割という驚異的な数字です。それだけ3Dプリンタに対する技術的期待度が高いと言える証左でしょう」

3Dプリンタでつくることを前提にした製品設計が進行中

 では、日本企業は今後どうすればいいのだろうか。
 「キーワードはスピードです。これから3~5年で業界地図は決まってきます。3Dプリンタを中心にした“アディティブ・マニファクチャリング”(積層して造形する工法)は日本の産業をもう一度変えていく力を持っていると思います」
 3Dプリンタという概念を超えて、アディティブ・マニュファクチャリングという観点から見れば、まだ市場は緒に就いたばかり。片山氏は、3Dプリンタ市場でトップを走るストラタシスの強みは、技術レンジの広さとスピードにあると言う。
 「我々の使命は、日本のものづくりに貢献していくことです。そのために何ができるのか。実は今、アメリカでは3Dプリンタでつくることを前提にした製品設計が進められています。設計思想自体を変えようとしているのです。さらにクラウドベースの動きも活発に動いています。クラウドソーシング、クラウドファンディングによって、いかに世界中の人を味方に付けるか。我々はすでに世界150万人の設計者が参加するクラウドベースのプラットフォームを持っており、クラウド上でCAD設計をシェアできるようになっています。そこには52万ファイルのCADデータがあり、フリーでダウンロードが可能です。我々は3Dプリンタを届けるだけでなく、日本のものづくりを変えていくことに、日々、真面目に取り組んでいるのです」