世界で6億5,900万人と言われるファンを持つ、イングランド・プレミアリーグの名門サッカークラブ、マンチェスター・ユナイテッドの人気については、今さら語るまでもないだろう。

 一方、今回、マンチェスター・ユナイテッドとパートナーシップ契約を結んだグループスが運営するソーシャルゲームの会員数は延べ2,600万人以上。この数字、ソーシャルアプリ業界においては、トップクラスの業績である。

 まずは、それぞれが絶大な人気を保ち続ける秘訣は一体どのような点にあるのか?

 対談は、その疑問に答えるべくグループスの池田秀行社長の発言からスタート。「我々は、数多くのソーシャルゲームが配信されている中で、ユーザーの皆さまに喜んでいただけるよう、そして他社との差別化を図るためにも常に『新しいユーザー体験』を届けることを重要視してきました。また、ソーシャルゲームが従来のゲームと大きく異なるのが、ローンチ後もバージョンアップを重ねるということですが、そのプロセスにおいてユーザーの声を聞き、共に作り上げていくことを行ってきました。ユーザーと一緒に作っていくという、ライブ感を大切にしています」(池田社長)

 ファン目線のプロダクトが、ユーザーの心を掴むのは想像に難くない。この辺りにファンを魅了する秘密がありそうだが、規模や業界は異なるものの、マンチェスター・ユナイテッドも同様のスタンスを取っているという。「私がマーケティング戦略において、目標としているのは、単にファンの基盤を拡大するということだけではありません。ファンが『マンチェスター・ユナイテッドに密接に関わっている』と思ってくれることを目指しています。例えば、今回の日本での試合開催や、ソーシャルメディアなどを利用することでも、ファンとの密接な関係を築くことができるでしょう」(マンチェスター・ユナイテッド マーケティングヘッド ジョナサン・リグビー氏)

 そして、対談は、"チームづくり"についての話へ。「ユーザーに楽しんでもらうためには、作り手が楽しみながら、高い意識を持ってコンテンツを作る必要がある。ゲーム開発は約20人のチームで行いますが、メンバーが情熱を持ち続けられるような環境作りを心がけています。経営サイドが行うのは、チームが活躍できる場を作ること。トップダウンでなく、チームに任せることにこだわっています。さらに言えば、ゲーム業界は変化が激しいので、アイデアを生み出す様々な個性が必要。個性が発揮できる組織だからこそ、より良いものが作れるのです。そのため、在籍期間に関わらず、実力のある人はどんどんチャレンジする機会を与えるようにしています。それがモチベーションの維持にもつながっていくのです」(池田社長)

 経営側と開発チームのこの関係――、どこかしらサッカーの監督とプレーヤーの関係に似てはいないだろうか? 監督やチームスタッフも、選手がピッチで最高のパフォーマンスを発揮できるように心を砕くものだ。「池田社長のチームに対する考え方は、敬意を払うべきものだと思います。私たち、マンチェスター・ユナイテッドも、若い才能を伸ばすことを常に心がけています。具体的には、監督と経営陣が選手やメンバーに対して、ある程度のビジョンや目標値を決めます。ここでは、とにかく一番になることを目標に基準を高く設定する。その後は選手に任せて、彼らが花開くのを待つというやり方を実践しているのです」(リグビー氏)

 さらにリグビー氏は続ける。「我々のチーム名にある『ユナイテッド』という言葉には、選手とスタッフがひとつに団結するという意味が込められています。その言葉通り、個人の貢献、個人の責任をチームのために役立てることを重視しているのです。このことがマンチェスター・ユナイテッドを世界一のクラブにしている理由のひとつだと考えています」 これには、池田社長も大きく頷きながら、「個性が発揮され、統合され、集まることによって、新たな価値を生み出していくというところは、ゲーム制作にも通じるところですね」とコメント。

 パートナーシップに関しては、収益アップに寄与するということのみならず、それ以上の価値を重視することで知られるマンチェスター・ユナイテッドのことだ。今回の場合も、グループスの経営理念などへの共感なしには、契約は実現しなかっただろう。対談の途中でリグビー氏が発した次の言葉は、それを裏付けるかのような内容で、非常に印象的だ。「今のお話しで、お互いに一番大切にしているのは顧客であり、ファンであるということを再認識できました。そして、グループスはグローバル展開をしてナンバーワンを目指すという野心的な面がある一方で、ファンや従業員に対する人間的な面も持っている。このことは私たちのパートナーシップにおいて、必ず良い影響をもたらしてくれると思いますし、私を勇気付けてくれる事実でもあります」(リグビー氏)