135年に及ぶ歴史の中で、数多くのタイトルを獲得し、6億5,900万人というファンを有するマンチェスター・ユナイテッド。名実共に世界を代表するサッカークラブだが、クラブとして安定した収益を上げ続ける優良企業でもある。また、本国イングランド以外に、欧州のクラブとして初めて香港にオフィスを構え、いち早く海外戦略に取り組むなど、グローバルなスポーツビジネスを進めてきたパイオニアとしても知られる。

 中でも日本を含めたアジアへ積極的に進出しているが、その理由について、マンチェスター・ユナイテッドのマーケティングヘッド、ジョナサン・リグビー氏は次のように語る。「マンチェスター・ユナイテッドの6億5,900万人のファンの内、3億人がアジアに存在します。そのため、我々のビジネスの成長にとって非常に重要な地域なのです。アジアのファンやパートナー企業と緊密な関係を築くために、今後、香港以外にもオフィスを開設することが決まっています」

 一方、グループスはグローバル展開を進め始めたところだ。同社の池田秀行社長は、その背景について、「スマホの時代になり、App StoreやGoogle Playなど、プラットホームは統一化されつつあり、ゲームの世界もグローバル化が進んでいます。元々、我々が提供しているサービスは、世界で通用するコンテンツだと思っているので、グローバル展開は必然の流れ。また、エンタテイメント企業として、人に喜ばれるサービスを広げていくという使命感もあります」と説明する。

 しかし、成功への道のりは、それほど簡単なことではない。

 「グローバルマーケットは、日本国内以上に厳しいものでしょう。例えば、国内で我々が提供しているのは男性向けのカードバトルゲームが主軸です。しかし、現在、スマホの普及でユーザー層が広がったことを背景に、ゲームに触れてこなかった層が楽しめるカジュアルなものが求められている。ですので、グローバルに向けては、新しいジャンルを切り開いていく必要もあると考えています」(池田社長)

 これを受け、リグビー氏は「サッカークラブとのパートナーシップは、グローバル展開する上ではとても有効な選択です。サッカーはグローバルなスポーツですので、企業がグローバル展開する上で様々な価値をもたらすと思います」と、この契約がグループスの海外進出にとって有益なものになると胸を張る。

 グループス側もこのパートナーシップに寄せる期待は大きい。「(今回の契約は)マンチェスター・ユナイテッドのサポーターの中から、我々のサービスに対するファンを獲得することを、最も期待するものですが、パートナーシップの意義は多岐に渡ります。マンチェスター・ユナイテッドと同様に『我々も世界に挑戦していく』ということの意思表明にもなりますし、実際にこの契約で社内の志気も上がっている。社外に対するイメージアップはもちろん、スタッフのモチベーションアップの効果もありますね」(池田社長)

 そして、「Jリーグという、アジアで最も成功したサッカーの国内リーグを持つ日本は、サッカービジネスにおいては、やはり重要な市場です。恐らく日本には400万人のマンチェスター・ユナイテッドファンがいると思いますが、その数を拡大させていきたい。その一翼を担うのが、グループスのようなパートナーシップ企業です。今回のパートナーシップでは、彼らが有するゲームやWebコンテンツ、ソーシャルメディアなどのユーザーの中からファンを獲得することを期待しています」とリグビー氏。マンチェスター・ユナイテッド側のメリットも大きいようだ。

 世界から日本のマーケットへの参入を進めたいマンチェスター・ユナイテッドと、日本から世界に展開したいグループス――お互いの思惑が一致し、様々なシナジーを生む可能性を秘めた、このパートナーシップ契約。マンチェスター・ユナイテッドがソーシャルゲーム企業と契約するのは今回が初めてだというが、以上の話を聞けば、その相手が日本企業のグループスだったということも納得がいく。

 さて、両者のパートナーシップから何が生まれるのか?
 今後の動向がますます気になるところである。