企業も大学も変わり始めた
❖ 幅広いフィールドでご活躍されていますが、日本の大学生と接する機会はありますか。
フクシマ 最近、よく大学から講演を依頼されます。演題は、女性のキャリアやグローバル人材が多いですが、質疑応答では質問も活発で、将来を心配している学生が多いことが分かります。ここ数年、政府も企業もグローバル人材の育成に真剣に取り組むようになりました。ただ私の目から見ると、韓国や中国と比べて10年遅い。韓国も以前はグローバル人材の不足を嘆いていましたが、10年前から力を入れ始めました。子どものころから海外で英語教育をしたり、政府も欧米の大学への合格を目的にした英語で授業する高校を設置したりして力を入れています。
❖ 日本の企業にはグローバル人材を受け入れる土壌がなかったとも言われます。
フクシマ 2008年ごろの新卒採用に関する経済同友会の調査では、7割くらいの企業が海外経験の有無は新卒採用の際に考慮しないと答えたのに対し、昨年は8割の企業が日本人留学生や海外留学生を採用の対象にしていると答えています。実際にどれだけ採用しているかはともかく、意識が大きく変化したことは間違いありません。
❖ なぜ15年も前からグローバル人材ということを指摘されていたのですか。
フクシマ 当時は欧米企業の依頼に応じ、トップマネジメントになり得る日本人を探す仕事を主にしていました。将来は日本だけでなくアジアも見ることができ、いずれは欧米の本社でも活躍できる人材です。その際に求められる要件は、もちろん企業や業界による違いもありましたが、ほぼ共通していました。財務にしても人事にしても戦略的な思考ができることとか、与えられたことだけをこなすのではなく、創造的に問題解決をし、自己完結型に自分ですべてこなせること、といったような要件です。その後、アジアの企業でも同様の要件を持つ人が求められていて、グローバルに必要とされている要件だと感じたのです。
人財としての市場価値をいかに高めるか
❖ 著書などでは、人材ではなく「人財」という表現をされていますね。
フクシマ 人には金銭に換えられる価値があります。つまり、市場価値や、企業の財産としての価値がある。そういう意味で「人財」と表現しています。企業は市場価値の高い人をどう活用するかが課題になりますし、個々人にとってはいかに自分の市場価値を高めるかということが課題になります。ただ、残念ながら日本人の市場価値は近年、低下しています。 私が学んだスタンフォード大学のビジネススクールには当時日本人が1学年に5~6人、多いときは15人くらいいました。でも今は中国や韓国の人が圧倒的に多く、日本人は少なくなっています。これは、応募しても合格する日本人が少なくなったからだそうです。
❖ 今は海外に留学する学生が減っているといわれます。
フクシマ 若い人の人口が減少しているので、それと同じ比率で留学生も減っているという見方もあるようですが、実際には減っています。ただ、本人が留学を希望しても、親が反対することがあるようです。「就職が大事。留学で一年間も無駄にするな」と言う親が多いのですね。最近は日本企業も、海外経験のある学生を優先的に採用するというメッセージを出し始めていますので、親のほうも現実的ですから(笑)、ある統計では留学をさせたいと言う親が増えているとの結果がでています。
❖ 日本人の市場価値を上げるためには、大学教育が重要になりますか。
フクシマ 大学も変わり始めています。今は積極的に海外の留学生を受け入れたり、グローバルな教育を提供している大学もあります。そういう大学の中には、就職率が100%というところもあり、そういう成功例が増えれば、状況は変わってくると思います。グローバルな教育が提供可能な歴史や背景を持つ大学は、決して少なくありません。幼稚園や小中学校からの一貫教育のなかでグローバルな人材を育てることが出来る大学もあります。「我が校に入ればこういう人材になれる」とアピールしたり、それぞれの大学がもっと特徴や個性を出していくといいのではないでしょうか。
グローバル人材の要件とは
❖ グローバル人材の要件とはどのようなものでしょうか。
フクシマ 私は、「個人的資質」と「専門的資質」という二つのフレームワークで考えています。個人的資質には、主に大学を卒業するまでに培われる「基礎的能力」と、前向きであるとか決断力があるといった「性格」の二つがあります。基礎的能力は、戦略的思考とか論理性、「二つのジリツ」と呼んでいる自立・自律・実行力、あるいは多様性に対する感性などがありますが、学生や若い方はこれらについてはまだ十分に育っていない部分があっても大丈夫です。
❖ 専門的資質というのは。
フクシマ これも「職務経験」と「職務能力」の二つがあります。職務経験とは、海外で仕事をしたとか、マーケティングの仕事をしたことがあるという経験で、職務能力はそうした経験を通して培われる能力のことです。人は、二つの個人的資質(基礎的能力と性格)を持って会社に入り、そこで職務経験を積んで職務能力を身につけ、その中の一部が基礎的能力として定着していき、さらに経験を積んでいく。そういうサイクルでキャリアを築いていきます。個人的資質が職務経験を積んで職務能力になったときは、たとえば「実行力」が「実現力」になります。言われたことをやるだけなら実行力の段階で、新卒で入ったばかりならその程度でも構いません。でも経験を積んでいくと、どうやればベストなのかと自分で考えながら、実際に結果を出す力が育ちます。それが実現力ということです。したがって多様な経験させるということがとても大事になってきます。
❖ グローバル人材を目指すとき、大学生のうちにしておくべきことは。
フクシマ やはり海外に行くことです。が、それができない事情があるのでしたら、想定外の状況に身を置くことです。異なる環境にいって、予測しない「想定外」の問題に直面したとき、何とかしようと努力することで創造的に解決する能力が養えます。そこで私がお勧めするのは、シミュレーションです。こういうことが起きたらどうすればいいか、あるいは自分がこの人の立場だったらどう動くか、ということを常にシミュレーションするのです。どんな環境にいてもこの訓練を行うことは可能です。私自身、この方法を実践したことがとてもいい訓練になったと感じています。