データを武器にするために何が求められているのか SAS Institute Japan 対談

今の企業戦略において重要な要素になりつつあるビッグデータ。その活用によって、従来の経験や勘に頼った経営スタイルが大きく変わっていく。『統計学が最強の学問である』という著書がビジネス書籍ランキングで上位になっていることもその表れだろう。確かに各企業はビッグデータの時代に対応するために、マーケティングや顧客データ管理を始め、さまざまな領域でIT投資を行っているが、企業としての利活用の目的が明確になっていないケースも多い。統計分析や定量分析を行い、その結果をビジネスに活かすアナリティクスを実現するには何が必要になるのか。
 『統計学が最強の学問である』の著者・西内啓氏と、 ビジネス・アナリティクスソフトウェアとサービスのリーディング・カンパニーであるSASインスティチュート・ジャパンの高橋昌樹氏が対談した。

確実に成果を上げた先進的な事例も出てきた

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統計家
西内啓(にしうちひろむ)

1981年生まれ。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、ダナファーバー/ ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、現在はさまざまなプロジェクトにおいて調査、分析等をコンサルティングする。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)など。

―最初に、経営にデータを活用している実例はどのようなものがあるか教えて頂けますか。

西内 たとえば、小売業のダイレクトメールの送り方をデータに基づいて最適化すれば売上を6%程度上げられるという分析結果が得られたことがあります。顧客属性と送付履歴、購買履歴を分析して、効果が期待できる顧客とできない特徴がわかれば、無駄なコストを削減しながらも売上をあげることができます。この方法は一見地味ですが、確実に利益を上げることができました。

高橋 当社にも成果を得た事例は数えきれないほどあります。たとえばある装置メーカーでは工場の機械の稼働履歴から故障発生時期を予測し、メンテナンスのリソースや交換部品調達の最適化のお手伝いをさせていただきました。
 また、自動車メーカーでは、ソーシャルメディアに上がる顧客の声や整備工場のサービス履歴の分析を通じてトラブルを早期に発見し対策することに役立てたりしています。 これらは実際のデータからアナリティクスで未来を導き出し、具体的な施策を実行して、成果を挙げている先進的な事例です。

西内 データを多角的に分析して活用すればビジネスをさまざまな形で効率化できるはず、ということでビッグデータが注目されているわけですよね。
 しかし、その一方でさまざまなデータを取得したものの状況の把握だけに留まって効率化まで至らないケースも少なくありません。何のために何を分析するのかを具体化し、その分析から得られた結果を見てアクションを起こせる領域を対象とすることが大切です。

統計を理解することで次のステップが見えてくる

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SAS Institute Japan株式会社
マーケティング&ビジネス推進本部
CIプラクティス部長
高橋昌樹(たかはしまさき)

東京工業大学大学院理工学研究科卒、アクセンチュア(旧アンダーセンコンサルティング)にてサービス業、流通業、製造業を中心とし、システムインテグレーションおよび戦略コンサルティングに従事。2001年よりSAS Institute Japan株式会社にて、分析コンサルティング、営業戦略策定、事業開発などを推進し、現職に至る。現在は、企業が最高の顧客エクスペリエンスを提供するためのテクノロジー活用戦略を提案し、顧客を中心としたビジネスモデルへのトランスフォーメーションを支援している

─先進的な事例は増えてきているようですが、実際に多くの企業で情報活用が進んでいるのでしょうか。

西内 ビッグデータは、ビジネスで今最も注目されています。ただ、それは同時に企業活動に本当に役に立つのかという厳しい評価の局面にさらされている状態だともいえます。役に立たなければ、すぐに「ビッグデータって効果ないよね」というレッテルを貼られてしまいます。

高橋 現実には、せっかくのビッグデータが効果的に活用されていないケースのほうが多いかもしれませんね。一方で、先進的な企業ではビッグデータを高速に処理して、お金や時間の価値に変えています。

西内 ビッグデータはPDCAサイクルでいう、P(計画)とC(評価)のフェーズで活用されることが多いと思いますが、この部分でのビッグデータの扱いを誤ってしまうとD(実行)やA(改善)が正しく導けません。“PDCA”と書いて“右往左往”と読む、といった状態になってしまっているケースも少なくないように思います。
 私は、ビッグデータが効果的に正しく分析されて戦略に活かせないという背景には、日本の組織が「数字」より「人間の頑張り」を重んじる傾向がまだ多いからではと考えています。

高橋 今感じているのは、日本では、ビッグデータ活用のベースになる統計やアナリティクスが理解されていないということです。たとえば、利益率20%アップを目標に、どこの工場にどれだけ生産を割り振るのかを考える際には、いろいろな計算をしていきます。そこでは数字の積み上げが発生するため誤差がでてきます。通常、誤差率を出しますが、その意味をまだ理解されていないように思います。

西内 誤差を理解できるかどうかが、統計学のひとつの壁です。統計学的なアプローチをするには、2つの数字を見ることが求められます。同じ確率が70%でも、50%から90%の幅と69%から71%の幅があるのとでは、数字の意味がぜんぜん違います。この誤差率を理解したうえで、経営的な判断をすることが大事ですね。
 日本人は江戸時代に発展した和算からも分かるように、数字を理解する素養は十分にあるはずなので、次のステップとしてさらに統計を採り入れることで、結果は違ってくるのではないでしょうか。

高橋 従来からも統計解析、最適化、フォーキャスティングなどを使ったアナリティクスが必要な領域では盛んに活用され、効果を生み出してきているわけですが、ビッグデータが手に入ったことでその領域や可能性が広がってきています。これまでアナリティクスを適用できなかった分野でもそれを活用し、他社を出し抜く術を手に入れられるようになったことに経営テーマの一つとして取り上げられる意味がありますね。

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