大学受験の学習量は「中学受験の9倍」にもなる
「明日から1日の学習時間を3倍に増やしてください」

1998年生まれ。中学生のときに東大を目指すことを決め、定時制高校にも塾にも通わず、通信制のNHK学園を経て、独学で2018年東京大学文科Ⅰ類合格。東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、“独学3カ月コーチング”の「オーバーフォーカス」や“東大生が作る国語に特化した個別指導”の「ヨミサマ。」を立ち上げる。著書に自分自身の独学ノウハウを詰め込んだ『成績アップは「国語」で決まる!』がある(X:@Kanda_Overfocus)
(写真は本人提供)
そう言われたとき、あなたは笑顔で「できます」と答えられるだろうか。
多くの受験生、あるいは社会人が突き当たるのは、「時間が足りない」という問題だ。しかし私は、中学3年生まで「1日30分以上勉強してはいけない」という家庭内ルールで育ち、その後完全独学で東京大学文科Ⅰ類にトップクラスで合格した。
本稿では、この奇妙に聞こえるルールがなぜ学習効率を飛躍的に高めるのかを解き明かす。
ICTを活用した学習管理が普及するいまこそ、「量より質」の本質を再確認していこう。
増進会ホールディングスのグループ会社であるZ会が、2021年12月に中学受験を経験したZ会の通信教育中学生向けコースを受講中の保護者に向けて実施した「お子さまの中学受験に関する調査」によれば、中学受験を控えた小学6年生の夏においては、半分程度の生徒が平日に3時間以上、休日には5時間以上の家庭学習を行っているという。


だが、大学受験で必要とされる学習量は、一説によると中学受験の9倍程度にもなると言われている。時間を積み増すだけの戦略を、睡眠・部活動・SNSなどさまざまな要素が絡む思春期でも続けることは、現実的でないだろう。
我が家の《神田ルール》がもたらした5つの変化
そこで登場するのが、私の家庭にあった《神田ルール》だ。
このルールは非常にシンプルで、「1日あたりの総勉強時間は30分を超えてはならない」というものだ。
ゲーム時間などに「上限」を設定する家庭はあれど、勉強時間に「下限ではなく上限」を設ける家庭は珍しいだろう。このルール、30分以下であればいいので、究極を言えば勉強時間が0分でもいいのである。
意図は明快だ。「量」を封じることで、否応なく「質」を上げることに頭を使わせるのだ。この制限が、のちに私の学習法を劇的に進化させることになる。元々は平凡な成績であった私が東大への上位合格を果たせたのも、ひとえにこの《神田ルール》によるものだと思っている。
小学生の私が最初にこのルールを聞いたとき、「勉強時間が0分でもいいんだし、楽勝だ!」と思い、すんなりと受け入れた。子ども本人が納得してスタートできてしまうことが、この《神田ルール》の妙味である。
しかし、この《神田ルール》、やればやるほど、巧妙に作り込まれたルールであることに気付かされていく。以下に、私に起こった5つの変化を記そう。
毎日自然に勉強をするようになった
1日に30分以下しか勉強できないということは、テストの1週間前に勉強を開始しても、合計3時間程度しか準備ができないということだ。
そのため、一夜漬けなどはもってのほか。毎日計画的に学習を進めていかないと、1日30分以下では何もできない。「毎日やらないと間に合わない」という状況が作られることにより、自然と学習を習慣化することができた。
誰かに勉強をやらされ続けたのではなく、自ら必要だと判断し、主体的に学習を習慣化することができたため、この効果は大学合格まで続くことになる。また、1回の勉強時間も最大で30分程度であるため、行動科学で言う“スモールステップ”として取り組みやすく、習慣の定着に役立った。
読む学習にシフトし、速度が向上した
拙著『成績アップは「国語」で決まる! 偏差値45からの東大合格「完全独学★勉強法」』(ダイヤモンド社)でも記したが、「読む」速度は「書く」速度より約19倍速い。

たっぷり時間があった頃は、ノートを清書したり、ワークを一つひとつ丁寧に解いていくような学習をしていたが、それでは時間がかかりすぎてしまう。結果として、テスト前までにテスト範囲が終わらないこともしばしばであった。
時間に制限ができてからは、「書く」勉強をほとんど捨て、教科書を精読→高速多読のサイクルを回すことにした。具体的には、同じ教科書を何十回とスピードを高めながら読むことで、テスト前には範囲を何十周もした。記憶は反復がものをいう分野であるため、1回だけ書くよりも、19回読んだほうが定着度も高いという実感を得ている。
さらに、「読むスピード」は「書くスピード」と比較して、鍛えることができる。高3の時には歴史の教科書などを“1周13分”で読破できるようになるなど、スピードが格段に向上した。
「ノートを取る」から「教科書や参考書に書き込む」へ
このように周回の速度が上がると、ノートを取る行為の効率の悪さに気付く。ノートをきれいに取ろうとすると、教科書や参考書にすでに書かれたものを写すだけの“作業”となってしまう。
しかし、そもそも教科書や参考書には“正解”が載っているわけであり、これらはそのまま活かしたほうが時間の節約にもなるうえ、情報が断片化しない。
そう考えた結果、ノートの整理に時間を割くのではなく、0.3mmペンを使って教科書や参考書の余白を拡張ノート化した。教科書や参考書にすべての情報を集め、たったこれさえ読み続ければOKという状態にすることで、毎日取り組むべき教材をスリム化させることができた。

(筆者撮影)
授業への集中度が劇的に向上
自宅学習が30分に制限されると、授業内容を“理解”するには時間が短く、せいぜい授業内容の“確認”程度にしか使うことができない。そのため、「授業内ですべてを理解しなければいけない」という強い意識が芽生えるようになった。
今までは、消極的になんとなく板書を写していただけの授業だったが、時間内にすべてを理解するために、積極的に質問をしたり、工夫しながらメモを取るような受け方に変化していったのだ。
学びが“楽しいチャレンジ”に変質
また、30分という短距離走的な学習をしたことで、集中力が切れて学習や工夫もないままダラダラと問題を解く“作業沼”を回避することができた。毎回「どうすれば30分で最大の成果を出せるのか」を考え続けるようになり、ゲームのような感覚で、工夫しながら勉強を楽しむようになったのだ。
勉強に取り組む子どもたちの中には、「勉強がつらい」という感覚すら麻痺してしまい、なるべく頭を使わずに作業をして時間を使うことで「勉強している風」を装うようになってしまう場合もあるだろう。このような生徒にこそ、《神田ルール》は最大の効果を発揮するのだ。
「これだけ勉強したのに伸びない」の裏にある幻想
これまで述べてきたように、私は《神田ルール》のおかげで、主体的に自分の学習をデザインすることができた。私の両親がどこまでを想定していたのかは分からないのだが、少なくとも、私には勉強を楽しみながら工夫をし続ける能力が身に付き、それが最終的には、定時制高校にも塾にも通わず、東大に独学合格を果たすための土台となった。

ハーバード・ビジネス・スクールの研究によると、資源が限られた状況ほど人は問題解決に創造性を発揮しやすい。「これだけ勉強したのに伸びない」の裏には、しばしば量の幻想が潜んでいる。“時間”という資源をあえて絞り込むことで、人は学び方そのものをデザインし直す。ICTが発達した今日、短く・深く・楽しく学ぶ仕組みを作るハードルは劇的に下がったと言える。
そうして「学びを学んだ」その先に、成績向上のみならず、勉強を主体的に楽しみ、勉強以外の様々なものごとに対しても工夫しながらチャレンジできる知識や、時間的な余裕が生まれてくるだろう。
私の学習経験を1冊に凝縮した書籍『成績アップは「国語」で決まる!』には、《神田ルール》をはじめ、一見非合理にも思えるが実は合理的な私の独学法が多数詰まっている。あなたの「1日30分」の勉強が、未来の可能性を無限に広げる。その第一歩を、ともに踏み出してもらえれば嬉しい。
(注記のない写真:colors / PIXTA)

