「Girls Meet STEM in TOKYO〜女子中高生向けオフィスツアー〜」
東京都は、STEM分野における女性活躍を推進するため、今年度から公益財団法人山田進太郎D&I財団(以下、山田進太郎D&I財団)と連携して「Girls Meet STEM in TOKYO〜女子中高生向けオフィスツアー〜」を実施する。

STEMとは、「科学:Science」「技術:Technology」「工学:Engineering」「数学:Mathematics」の頭文字を取ったもの。東京都は、この取り組みを通じて、女子中高生がSTEM分野で働く女性の職場を訪れて先輩たちの話を聞いたり仕事を体験したりする機会を設け、自分がやりたいことや関心のあることを見つけて幅広い進路選択ができるようにしたいという。
企業も採用に意欲、教育現場に「女性理工系人材の育成」期待
なぜ、STEM分野なのか。日本では、企業の採用意欲が高いにもかかわらず、女性理工系人材が不足しているという現状がある。
経団連が行った調査によれば、2022年度における大卒・大学院卒の採用人数全体に占める理工系女性の採用割合は、新卒採用で89%、経験者採用で96%の企業が3割未満だった。さらに今後5年程度先を見通した理工系女性の採用方針について「拡大する方向」と64%の企業が答えている。
そのため、理工系女性のロールモデルやキャリアパスに関する発信を行っている企業も多いが、同時に教育現場に対しても「理工系分野の魅力がわかる授業の実施」や「理工系に進学・活躍しているOGのロールモデル・キャリアパスの提示」を期待している(一般社団法人 日本経済団体連合会「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に 関するアンケート結果」2024年2月20日)。
というのも、そもそもSTEM分野に進む女性が少ないという事情がある。日本において、大学のSTEM分野を卒業した女性は全体の17.5%と、OECD38カ国平均の32.56%より低く、しかも最下位(OECD「Education at a Glance 2023」)。STEM分野に進む女性を抜本的に増やすには、文理選択が行われる高校段階、あるいはそれよりも前に興味関心を持ってもらう必要があるというわけだ。
それぞれに興味関心があるから、わざわざ女性比率を上げなくてもいいのではないかと考える人もいるかもしれないが、先に紹介した経団連の調査では、イノベーションの創出や事業を進めるために多様性が必要と考える企業が多いことがわかっている。
一方で「女性は理系科目が苦手」というイメージがある人も多いだろう。それもOECDが3年おきに15歳を対象に実施している学習到達度調査(PISA)を見れば、日本の女子の科学的リテラシー、数学的リテラシーはともにOECD平均より高く、適性がないわけではないとわかる。
では、なぜSTEM分野に進む女性が少ないのか。そこにはアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)があるといわれる。
実際、東京都が行った調査でも「理系科目は男性のほうが得意だと思う」と答えた女子高生は33.2%、「文系科目は女性のほうが得意だと思う」と答えた女子高生は34.6%もいた(「令和5年度性別による無意識の思い込み実態調査」)。またSTEM分野に進む女性が少ないためにロールモデルが少なく、将来のイメージがしにくいことも影響していると考えられる。
参画企業は50社以上、今夏から大幅にブラッシュアップ
こうした問題意識のもと、東京都も山田進太郎D&I財団も、これまではそれぞれで女子中高生向けオフィスツアーを行っていた。
だが、東京都は受け入れ企業の開拓で、山田進太郎D&I財団は中高生に情報を届けるという点に課題を感じていた。そこで今年から、東京都は学校や市区町村への広報全般、山田進太郎D&I財団は企業への参画提案、実施サポートを担うかたちでオフィスツアーを大幅にブラッシュアップさせる。


今夏に行うツアーでは、花王やサッポロ、サントリー、ホンダ、スバル、ロッテ、リクシルなどのメーカー、NTTデータやエヌビディア、サイバーエージェントなどのIT企業のほか、デロイトトーマツやテレビ朝日といった幅広い業種から50社以上の企業が参画。オフィスや研究所の見学、最新技術の体験、ワークショップを実施するほかSTEM分野で活躍する社員との座談会で働き方やキャリアについても聞くことができるという。
第1弾は2025年7月19日(土)から8月17日(日)まで(募集締め切りは6月24日〈火〉)。第2弾は2025年8月18日(月)から8月31日(日)まで(募集締め切りは7月25日〈金〉)。参加対象は都内在住または在学の女子中高生で、申し込みは下記ホームページから。
https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/danjo/jokatsu/25summer-office
今回行われたイベントで、文理選択についてアドバイスを求めた品川女子学院の生徒に対し、小池百合子都知事はこう答えている。
「文系、理系とはっきり決めてしまうのが日本の空気だと思いますが、私は文系だから、私は理系だからとガチっと決めないで、それぞれがフュージョンというのか……お互いに響き合って答えを出すことが多いので、これからもしっかり悩みながら幅広く勉強していただきたい。
入りたい大学の入試科目によって何を勉強するかを決めるのは現実的な話だと思うが、大学生活だけではなくそのあとのことを考えると、結局残るのは自分が好きなことは何なのかということ。それが、一番の選択肢になると思う。好きこそものの上手なれと言うが、自分の好きなことを中途半端ではなく極めてほしい」

まだ16、17歳という時期に将来につながる選択をするというのは、あらためて考えると本当に難しいことだ。
核家族化や地域との関わりが希薄化する中で、子どもが日常的に関わる大人の数が減っているといわれる。ロールモデルの少なさは、進路選択の幅にも影響するだけに教育現場に求められることも多いが、学校ももはや手一杯だ。そうした中で、社会との接点を自治体や企業主導で増やしていくというのは、今後も期待したいところだろう。イベントの最後に、小池都知事はこう締めくくった。
「東京の最大のポテンシャルは人であり、その半分の女性のポテンシャルを生かすことが東京のプラスにつながっていく。女性活躍の場をより広げて、企業の皆さんにも参加していただき、より女性が活躍する場を確保できる企業と連携を進めている。いくつものロールモデルを作ることが重要で、あちこちで先輩が頑張っている、子育てもやっている、というモデルを増やしていくことが大事だと考えている」
少子高齢化が進む中で、もはや女性の活躍は国全体の課題でもある。人口はもちろん、企業も多い東京で、こうした取り組みが進むことは大きな力になるに違いない。山田進太郎D&I財団も東京を皮切りに、大阪府や愛知県などほかの自治体とも同様の取り組みを進めていくという。
(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:すべて東京都生活文化局)

