不登校への対応、「日本とアメリカ」何が違う?
文科省は不登校の子の支援について、「登校するという結果のみを目標としない」ことを明言しており、教育現場では登校を目標としない対応が主流となっています。
しかし私は、登校を目標としないケースというのは、明白であると考えます。例えば、同級生等からのいじめや、教員からの身体的・精神的・性的虐待等、発達障害で適切な支援がまったく受けられないなどの原因に苦しんでいて不登校になるケース。このように学校側に問題がある場合は、心身を守るために一刻も早く学校に行かない選択をすべきです。
一方、そうした被害経験による不登校ではない場合は、“心の病”が背景にある可能性が高いと捉えることが重要です。登校が自殺のトリガーになるなどの危険性がない限り、基本的には学校復帰を前提とし、心の病を治療するというアプローチが大切になります。精神医療・心理学の先進国であるアメリカではこの方針が徹底されていて、不登校の子の保護者には学校が面談を行って原因や対策を話し合い、心理カウンセリングにつないで学校復帰を目指します。

カリフォルニア州公認心理カウンセラー
富山生まれ、名古屋育ち。小学校高学年頃からいじめなどが原因で心の病を患う。中学時には教師からの体罰に苦しみ、いじめが原因で不登校に。16歳で高校中退。2年間のカウンセリングを受けた後、夜間高校に入学。話を聞くことにより下級生の高校中退を何度も防いだことを通じて、話を聞くことの力を知る。アメリカに短期留学した後、心理カウンセラーを目指して渡米。カリフォルニア州立フラトン校大学卒業、同校大学院カウンセリング専攻卒業。カリフォルニア州公認心理カウンセラーの資格を取得し、現在はロサンゼルス近郊で開業して心理カウンセリングを提供。専門は、子どもとその家族、不安とうつ病、アダルトチルドレン
(写真:本人提供)
実際に、心理カウンセラーとして今まで数多くの不登校の子を診てきましたが、そのすべての子が心の病を発症していました。また、不登校の原因はさまざまで複合的であることも多いですが、心の病の治療がうまくいけば、子どもたちは再び在籍校に戻っていきます。
日本の心理カウンセラーと精神科医の対応は、「様子を見る」「好きなことをさせる」が主流となっているようです。私は日本の不登校の子も診てきましたが、多くの親御さんが「この2点を守るように言われたけれど、不登校の解消には至らなかった」とおっしゃいます。
「様子を見る」方針は「学校に行く恐怖とまったく向き合わなくてもいい」、「好きなことをさせる」方針は「ゲーム等に興じてもいい」というメッセージを与えることになります。これでは、自発的に学校に行こうとは思いません。この状況が長引き社会との関りも薄ければ、うつ病等の心の病は悪化し、学校復帰や社会との接続は遠のくばかりです。
アメリカでは、このような対処法はまったく推奨していません。アメリカの精神医療・心理学の専門家は子どもへの治療だけではなく、家庭への介入を積極的に行うことで、不登校の解消につなげていくのです。
日本では、不登校の子らにフリースクールなどの「居場所」につなぐことが推奨されていますが、学びが保障されていない限り、一時的に希望を持つことはできても、問題の先送りになることが多いでしょう。ある程度の学歴がなければ経済的に自立することが難しいのは日本も同じはず。学びの場の選択肢が少ない現状では、なおさら学校へ通うことの意義から目をそらしてはいけないのではないでしょうか。
今まで日本人だけではなくさまざまな人種の心の病の治療をしてきましたが、とくに日本人は、問題と向き合わないようにして自分を守ろうとする文化が強いと感じます。不登校児童生徒数が過去最多となる今こそ、心の病や社会で生きていくという現実に向き合った対応が必要ではないでしょうか。
保護者と教員は不登校にどう向き合えばよいのか?
以前の記事でもお話ししましたが、日本の精神医療・心理学は遅れており、その影響の1つとして学校現場での専門人材の配置や体制も整っていません。それでも、多くの不登校の背景には心の病の可能性があると考え、保護者や教員は、子どもをスクールカウンセラー、心理カウンセラー、精神科医などの精神医療につなげていくことが重要になります。
治療については専門家に任せるべきですが、保護者や教員が接し方を改善していくことで、子どもの状態をよくして学校復帰につなげていくことは可能です。
まず大前提として「どうすれば登校できるか」というスタンスで接するべきですが、一方的に大人の考えを子どもに押し付けてはいけません。保護者や教員が、「なぜ登校すべきか」と子どもに理詰めで説明することが多々ありますが、それは「悪いのは学校に行っていないこの子だ」というスローガンを掲げているようなもの。これでは子どもの信頼を失うだけで、不登校の解消にはつながりにくいでしょう。
実は私も、小学校時代はいじめが原因で校長先生に学校を辞めたいと相談したことがあります。さらに、そのいじめが原因で絵が描けなくなり、美術教員も理解のある先生ではなかったため、中学2年生のときは美術の授業を休んでいました。そんな私に、母親や教員はさまざまなアプローチで授業に行くよう詰めてきましたが、「授業に行け」と言うだけで、私の話はまったく聞いてくれず、大切にされているとは到底思えなかったので授業に行く気にはなれませんでした。
周囲の大人たちは、その子がどういう子で、なぜ行きたくないのか、どのような家庭環境かなどについて理解をし、その理解を示してあげることが重要です。私の場合も、しっかり時間を取りゆっくり話を聞き、時には共感し、時には間違いを正しつつ、私の意見や気持ちを尊重してくれる大人がいました。彼らのおかげで、中学3年生からは美術の授業も登校できるようになりました。その人たちのために頑張りたいと思えたからです。
「保護者の子どもへの接し方」の改善点
そもそも、不登校の背景にある子どもの心の病の原因は何なのか。その多くは家庭にあります。不登校は家庭の問題が具現化しているケースが多く、その問題に目を向けなければ不登校の解消は難しいです。夫婦仲、保護者の心の病など抱える問題はさまざまですが、その1つに「保護者の子どもへの接し方」があります。
不登校の子の保護者が改善すべきポイントとして、「ここまでは子どもの責任だが、それ以上は保護者がやってあげる」といった「線引き」があります。子どもが何をすべきで何をしなくていいかなどを可能な限り明確にすることです。問題だと感じる対応でよくあるのが、宿題などのやるべきことをやらず、ゲーム等の好きなことはやり放題という状態。
これでは子どもは「自分がルールを作れる」と勘違いします。家庭での「当たり前」を家庭外での「当たり前」と考えるように子どもの脳はできています。家庭で何でも自分の思い通りになっていると、学校ではそうはいかず、不登校の原因や長期化につながることが少なくありません。
もう1つのポイントは、「年齢に合った接し方」です。不登校の子の保護者はわが子を実年齢以上に扱うことが多いですが、それでは責任を果たせないことが増え、自信喪失するなど健全な心の成長を妨げられます。例えば、過剰に習い事や通塾を強いられ、その課題をこなすためにスケジュールが詰まっている子は、子どもらしくいられる時間が皆無で、燃え尽きて心の病に罹患することが多々あります。「ゲームは一切禁止」といった極端に子どもの楽しみを奪うことも心の病の回復を妨げます。
また、子どもを実年齢よりも下に扱うケースもよく見ます。例えば、中学生であれば自分で着替えられて当然ですが、効率的だからと手伝う保護者もいます。これでは子どもは「面倒なことは親がやる」と考え、やるべきことをやらなくなり、登校の放棄にもつながります。
よくある子どもの心の病について解説した以前の記事では、心の病に罹患した子どもに対しての接し方として、話を聞くこととコントロールのバランス改善を紹介していますので、そちらもご参照ください。
教員はどう対応?そもそも不登校を防ぐには?
教員は精神医療従事者ではないので、子どもが少しでも休みがちになったら、早めに精神科医と心理カウンセラーといった専門家につなげることが望ましいです。また、子どもによって対応を変えるべきですので、子どもと保護者への接し方はそうした専門家にアドバイスを仰ぐことが重要です。
日本の不登校問題は、いじめの被害者が救われない、発達障害の子が適切に支援されないといった学校側の対応の問題も大きな要因となっており、現場は「誰もが通いやすい学校づくり」に取り組む必要があります。
一方で、増え続ける不登校の責任を大人たちがなすりつけ合う状況にも見える中、教員が必要以上に責められている面もあると感じます。学校が保護者と生徒をお客様扱いしてしまう風潮の中で、不登校の主な原因が家庭であるケースも、学校側の責任にされてしまっていることがあるのではないでしょうか。
教員もしっかり線引きすることで、不登校問題は自分だけの責任ではないことを受容して自身を守り、不登校の子以外の教室の大勢の子どもたちとも向き合えるのです。教員も人間ですので、できないことがあって当然です。できないことはできないと線引きをし、任せるべき人に任せることで教員自身がパンクすることを防いでほしいと思います。
また、「すぐに解決しようとしない心持ち」も欠かせません。さまざまなファクターが長期間子どもに影響を与え続けた結果として不登校が起こるので、長い時間が必要だと理解しましょう。教員が慌てれば、その感情は子どもに伝わるので、登校自体に恐怖を覚えている子どもは余計怖くなってしまい、問題の解決が遠のいてしまいます。
さらに、「様子を見る」という対処法ではなく、教員も積極的に家庭に関わっていくことが大切です。その際、「どうすれば子どもと保護者の信頼を得られるか」が重要です。不登校の子が大人を信頼することは非常に難しいですが、前述の私のケースのように、話を聞いて理解してくれる大人がいると、子どもはこの人のためなら頑張ろうと力が湧いてくるものです。
保護者との連絡は密に行うようにしたいです。子どもの様子によってはどんな勉強をしているかなどの学校の情報は保護者を通じて子どもに伝えてもいいでしょう。学校の情報が負担になるかもしれませんが、自殺願望が強い子どもなどよほど危険な状態でない限り、学校の情報で刺激を与えることは絶対悪ではありません。しかし、子どもによって対応は変えるべきなので、どれくらいの刺激なら大丈夫なのかは精神医療従事者と相談しましょう。
子どもが不登校になった場合の対応について述べてきましたが、そもそも不登校を防ぐには「他者とのつながり」が重要です。昨今の日本は核家族化が進むだけでなく、近所付き合いも希薄です。しかし、「子どもを育てるには村全体の協力が必要」というアフリカのことわざがアメリカなどでも使われているように、子どもの心は他者との関係性があり初めて健全に育ちます。
よって、保護者は積極的に他者との関りを持ち、思いやりを持ってほかの保護者と助け合うことが理想です。文科省も不登校の子の保護者の孤立解消に向けて徐々に強化を進めているように、保護者が外部とつながることは重要な視点となります。人間関係は面倒なものですが、保護者には日頃から地域社会に関わったり、近所付き合いを増やしたり、習い事先との人間関係を進んで持ったりしてほしいです。当然のことのようで難しい、この「当たり前」に今一度立ち返ることが、子どもの心を守ることにつながるのではないでしょうか。
教員も、積極的に保護者に対して手を差し伸べていくことが望ましいでしょう。例えば、成績が突然落ちるなどの心の病のサインを出している子どもの保護者には、スクールカウンセラーを紹介することで、子どもの心の病の重篤化、そして不登校を未然に防ぐことにつながります。
(注記のない写真:Ushico/PIXTA)


