練習時間のやりくりなど、タイムマネジメントが課題に
一般社団法人大学スポーツ協会(以下、UNIVAS) は、大学スポーツの振興や関係人口の拡大を目的として2019年に設立された団体だ。運動部学生のデュアルキャリア支援をはじめ、スポーツに安全・安心に打ち込める環境づくりを提供する事業なども展開している。

一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS) 広報部 部長
1992年に日本ノルディカに入社、セールス・マーケティング職としてキャリアをスタート。1997年にナイキジャパンへ入社し、新製品発表会のコーディネートや展示会企画・運営、マーケティング部門でバスケットボールのブランドマネージャーも歴任。2009年にPR部門へ異動し、フットボールをはじめとするさまざまなスポーツのPR活動を担当。2017年にはアダストリアでコーポレート広報としてブランディング構築や、スポーツチームとの連携を図る。2020年より一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)の広報部部長に就任
(写真は本人提供)
大学で体育会部活に打ち込む学生の数は、少子化の影響もあって、総じてやや減少傾向にある。また家庭の経済事情によって、「部活動を高校までで辞める学生もいるのでは」と山田氏は分析する。
「大学でも、奨学金を借りて通学している学生や、部費を工面するためにアルバイトをしている学生も多数おり、スポーツを続けるための経済的な負担は、学生個人に限らず各家庭でも課題の1つと考えられます」
運動部学生といえば、「部活動を最優先にしなければならない」というイメージがある人も多いだろう。スポーツ特待生のように、それまでの活動実績を評価されて入学した学生であれば、この環境も受け入れられるかもしれない。しかし多くの学生にとっては、学業との両立も悩ましいところではないだろうか。
「大学スポーツは、試合や大会が平日に実施されるなど、大学の講義のスケジュールまでは考慮されていないことも多かったです。競技ができる施設を確保するには日程も限られるため、主催者側も、どうしても平日に開催せざるをえないという事情があるのです」
一方で、一昔前は昼休みなどに部活動をするところもあったように思うが、これは昨今解消されつつある。代わりに、比較的時間が取りやすい朝や、グラウンドの使用が割り当てられた夕方から夜に練習時間を設ける部が多くなっているようだ。
「日々の部活動の時間帯については、学業への配慮が進んでいるほか、活動時間も短縮化しています。例えばサッカー部の練習時間は、実際の試合時間と同じ90分に設定しているところもあり、短時間でいかに効率よく練習するかが重視され始めています。全員が同じ練習メニューをこなすのではなく、一人ひとりが自分の課題に合ったトレーニングに打ち込むスタイルが主流になりつつあると思います」
自身の強みを適切に言語化・伝達するのが課題に
卒業後の進路はどうか。プロ選手の道に進む学生はごく一部で、ほとんどの運動部学生はそれ以外の選択をすることが多いはずだ。
「割合でいえば、プロの道に進む人は1割いるかいないか。残りの9割はいわゆる“就職”を選択することになります」
これまでスポーツに打ち込み、もしかしたらプロを目指していたかもしれないような学生が、スポーツとは関係ない分野も含めて卒業後のキャリアを考える――。体育会部活動の経験をどう社会に還元できるのか、悩んでしまう学生も多いそうだ。
「運動部学生は、部活動を通して得がたい経験をしていることが多いです。また、監督やコーチが毎日来るわけではないことも多く、自分で考えて練習に取り組む必要があります。その効果を客観的に評価する力も鍛えられるので、まさに、今企業が求める“主体性”が磨かれる環境にあるのです。
運動部学生にはすでに、社会で評価される能力が備わっているはずですが、それを強みとして自覚できていない学生もいるようです。その“気づき”を与えるきっかけが必要だと考えています。あとは、これをもう一歩進めて、『何にどのように取り組み、どのような結果を得たのか』を言語化して伝えられるかどうかでしょう」
体育会系出身者といえば、上司と部下の人間関係を重んじたり、体力的なタフさを評価される印象があるかもしれない。しかし、主体性や客観性をもった人材であることもアピールできれば、就活においてはさらなる強みになりそうだ。
「もちろん、言語化が苦手な学生や、なかには部活動における監督やコーチの権限が強く、大人の指導のもとで粛々と練習に打ち込んできたような運動部学生もいます。そうした学生たちに対しても、セミナーなどを通して自身の強みに気づき、言語化につなげられるようなサポートを行っています」

(画像はUNIVAS提供)

(画像はUNIVAS提供)
「マネージャー」の存在にも目を向けたい。日本でマネージャーというと、水分補給やユニフォームの洗濯、スコアの記録といったサポート的な役割が思い浮かぶ。しかし実際は、練習や試合での選手のサポート以外に、部費の管理やスケジュール管理、遠征時の宿泊先や交通機関の手配、広報活動など多岐にわたっており、高いマネジメントスキルが求められるポジションでもある。そのため海外では“優秀な人がやるもの”として認識されており、日本でも、マネージャー経験者は社会人として求められる相応のスキルが身についていることが非常に多いという。
「とある学生は、大学のバレー部でアナリストとして活躍しつつ、学生主体の大学スポーツの広報活動チーム『UNIVAS STUDENT LOUNGE』(UNIVAS主催)でも精力的に活動していました。就活ではこれらの経験が高く評価され、内定につながったそうです。また、大学バスケットボールを運営する団体『全日本大学バスケットボール連盟』で渉外部を担当していた学生が、この経験を活かして、『(公財)日本バスケットボール協会』に就職して活躍している例もあります」
指導者は、学生の多様な進路選択に寄り添う理解者に
では、こうした運動部学生を指導する監督やコーチには、どのような姿勢が求められるのだろう。山田氏は、「学生を第一に考えた指導をお願いしたい」と語る。

(画像はUNIVAS提供)
「昨今ではコンプライアンスの観点もあり、暴言や暴力に頼ったり、部活動への参加を強制したり……といった指導者は以前と比べて減少しています。大学側も、部活動に積極的に関与し、管理体制を整え始めるところが増えました。とはいえ、指導者の立場からすれば、部活動でよい成績を収めることも求められているため、『もっと練習してほしい』『学業より部活動を優先してほしい』とつい指導が過熱してしまうというジレンマもあります」
しかし現実として、部活動を最優先したとしても望む結果が得られるとは限らず、部員の中には入部当初から「プロは目指さず、スポーツは大学まで」と決めている学生も多い。
「大学生ではフィジカル面も成熟してきて、ある程度自分の“ピーク”が見えてきます。自分がプロ選手として通用するのか、将来にわたってプロの世界でキャリアを築けるのか、シビアに捉えて判断する学生がほとんどです。指導者には、学生個々人の希望をくみ取って、それぞれどのように部活動に取り組むのがよいか、一人ひとりに寄り添って考えてほしいと思っています」
後編では、実際にスポーツ競技者やマネージャーとして部活動に打ち込んできた学生3名へのインタビューを実施。部活動と学業の両立や、卒業後のキャリア選択、指導者や企業側に望む配慮などをヒアリングする。そこから、運動部学生を取り巻く環境の課題や改善の可能性について、さらに考えてみたい。
(文:藤堂真衣、注記のない写真:KANJI / PIXTA)

