男子の場合は(父親の身長+母親の身長+13)÷2±9cm
「身長は遺伝で決まるから」と思ってあきらめていませんか? それが本当なら、日本人の平均身長はいつの時代も大きくは変わらないはずです。
縄文時代の男性の平均身長は約160cm、現代の男性は約170cm。縄文時代と比べると、約10cmも平均身長が高くなっています。このような平均身長の変化の背景にあるのは、間違いなく栄養状態です。
縄文時代に比べてその後の古墳時代のほうが約4cmも背が高くなったのは、稲作が普及して食糧の供給が安定したからだと考えられています。
その後、仏教の影響で肉食を避ける時代が続き、さらに江戸時代には急激な人口増加、たびかさなる飢饉(ききん)の影響で栄養状況は悪化。古墳時代の平均身長を上回ることはありませんでした。
日本人の平均身長が再び高くなりはじめたのは明治時代に入ってから。文明開化によって肉食が広まり、栄養状態が改善され、次第に平均身長が高くなっていったのです。
身長は遺伝だけでは決まらない。このことは、最新の研究でもわかってきています。
もうひとつ、お伝えしておきたいのが、遺伝身長には大きな誤差があるということです。遺伝身長とは親の身長から導き出す子どもの最終身長の予想値です。
女子の場合 : 遺伝身長=(父親の身長+母親の身長-13)÷2±8cm
(現・浜松医科大学特命研究教授の緒方勤先生が2007年に発表した計算式)
たとえば、父親が170cm、母親が155cmなら、男子の場合は(170+155+13)÷2=169cm±9cmの幅があるので、子どもの遺伝身長は160 〜178cmとなります。男子の遺伝身長の振れ幅は18cmで、高いほうに振れた場合、父親より8cm高くなります。
もちろん、これはあくまで予想値ですから、このとおりになるとは限りません。栄養状態がよければさらに高いほうに振れ、遺伝身長より高くなる可能性もあるのです。
「身長は遺伝だけでは決まらない」。そして、身長は栄養で伸びることも数々の研究で判明しています。
「成長ホルモンと栄養」で子どもの体は成長していく
にも関わらず、栄養不足の子どもがとても多い! しかも、みなさん子どもの身長を伸ばすことに対して熱心に取り組む気持ちがあるのに、子どもの栄養状態を把握できている親は、ほとんどいません。
「お子さんは昨日、何キロカロリー摂取しましたか?」「お子さんの体脂肪率は?」「たんぱく質の摂取量は?」という問いに答えられる親は、ほぼゼロです。成長期の子どもは想像以上のエネルギーを必要としています!

出所:『身長先生式 子どもの身長が伸びる食事のルール30: 体・心・脳が育つ!「成長食」』(Gakken)
身長は子どものうちにしか手に入りません。とくに思春期が始まるときの身長が最終身長に影響するため、それまでに身長を伸ばしておかなければいけません。思春期は第二次性徴期と呼ばれ、人生の中で最も身長が伸びるタイミングのひとつ。たった数年しかないこの時期は、身長を伸ばすラストチャンスなのです。
だから、身長を伸ばすための食事に今すぐ取り組んでほしい! 身長を伸ばすためには、次の2つが重要です。
・脳から成長ホルモンが十分に分泌されること
・骨の成長に必要な栄養を十分に摂ること
成長ホルモンと栄養。この2つが連携して子どもの体は成長していくということを、まずは覚えておいてください。そして成長食は、大人の健康管理のための食事とは異なります。子どもの成長に必要な栄養素を十分摂り、肥満ややせを防ぎながら健康的に身長を伸ばし、体・心・脳を育てるのが、成長食の基本的な考え方です。
健康的に身長を伸ばし、体・心・脳を育てる「成長食」のルール
30ある「成長食」のルールのいくつかをここで紹介しましょう。
まずは牛乳は1日3杯飲む。骨の材料となるたんぱく質&カルシウムを含み、成長に欠かせない亜鉛を一度に補給できます。なぜ、1日3杯なの? と思われたかもしれませんが、アメリカで5000人あまりの女子を対象にして行われた、牛乳が成長に及ぼす影響を調べた研究結果で、伸び率が高かったのは1日に牛乳を3杯飲んだ女子でした。
つまり、1日3杯飲んだほうが身長が伸びる可能性が高いのです。1日に3杯を飲むタイミングは、朝、昼、夜に分けてください。体が一度の食事で吸収できるたんぱく質の量は限られています。そのため、一度にたくさん飲むのではなく、分けて飲んだほうが効率よく吸収できるのです。
子どもの成長を促す成長ホルモンは、睡眠中や運動後にたくさん分泌されます。特に睡眠中に分泌される成長ホルモンは重要。しっかりと分泌させて成長につなげたいものです。そこで重要となるのが栄養です。牛乳に含まれるトリプトファンというアミノ酸は、睡眠のリズムを整えるメラトニンというホルモン産生に欠かせません。
つまり、トリプトファンを含む牛乳を飲むことで睡眠のリズムが整い、成長ホルモンの分泌がスムーズになり、身長の伸びが促進されやすくなるというわけです。
そして卵を1日2個食べる。卵はMサイズ1個(50g)に約6gのたんぱく質が含まれています。人体を構成するアミノ酸は20種類。そのうちの9種類が必須アミノ酸です。必須アミノ酸は人体で合成できないため、食事で摂る必要があり、卵はこの必須アミノ酸をすべて含む優秀なたんぱく源。さらに、ビタミンC 、食物繊維以外の栄養素をすべて含むことから、「完全栄養食」と呼ばれています。
卵も1 日1 個じゃダメなの?と思われる方がいるでしょう。卵を食べない、または1日1個食べるより、2個を毎日食べることで身長が伸びる可能性が確認された研究結果があります。
身長を伸ばすためにはたんぱく質を十分摂ることが大切。そこで、日々の食事で目安にしていただきたいのが「たんぱく質おかず2品ルール」。主食1品に対して、動物性のたんぱく質を含むおかず2品を食べるというルールです。
この割合をおすすめする理由は、動物性のたんぱく質をしっかり摂るためです。主食の米、小麦粉(パンや麺)に含まれている植物性たんぱく質は、肉や魚などの動物性たんぱく質に比べて、含まれるアミノ酸のバランスが悪く、成長に必要な9種類の必須アミノ酸を十分に摂ることができません。
そのため、栄養計算上でたんぱく質量が十分だったとしても、植物性たんぱく質の比率が多いと必須アミノ酸が十分ではなく骨になる材料が不足し、身長が伸びにくくなるのです。
家でつくる料理は、主菜は大皿に、サラダも大きいボウルに盛り、各自が自由に取って食べるというご家庭もあるでしょう。しかし、これでは誰が何をどれくらい食べたかわかりません。そこでおすすめしたいのが、1人分をワンプレートに盛る作戦です。1人分ずつの盛り合わせにすれば食事量を把握しやすく、食、おかずのバランスが一目でわかるので、栄養バランスを整えやすいです。

『子どもの身長が伸びる食事のルール』では、ルールにそった具体的なレシピもたくさん紹介しています。「子どもの身長を伸ばす」という目標は、実はとてもシンプルです。
「やせたい」「体脂肪を減らしたい」という目標に向かって脂質や糖質の摂取量を減らしたり、脂肪の燃焼を高めようと運動をしたりするのと同じように、身長を伸ばすという目標に向かって具体的に取り組むことができます。
これは、大人が健康のために食事に気を遣うのと同じことです。それなのに、身長となると途端に「どうすればいいかわからない」「無理でしょ」とあきらめてしまいがちです。
『子どもの身長が伸びる食事のルール』で紹介している「成長食」30のルールは、日々の食事、生活習慣の道標(みちしるべ)です。難しいルールはなく、手の込んだ献立を考える必要もありません。必要なことを実践しやすい形で提案していますので、今すぐできることからスタートしてみてはいかがでしょうか。
(注記のない写真:pearlinheart / PIXTA)
