生徒会経験者らがサポートする「生徒会活動支援協会」

荒井翔平(あらい・しょうへい)
生徒会活動支援協会代表理事
2009年に生徒会活動支援協会を立ち上げ、生徒会活動に関わるさまざまな支援に取り組む。日本シティズンシップ教育学会広報担当理事、国際交流機構理事、私立大学環境保全協議会運営委員などを務める
(写真:本人提供)

2009年に設立された「生徒会活動支援協会」。その立ち上げメンバーで現在は代表理事を務める荒井翔平氏は、当時の生徒会に「引き継ぎの難しさ」という問題意識を抱えていたという。

「生徒会役員など個人に蓄積されていたノウハウや人脈は、彼らの卒業と同時に失われてしまいます。いかに生徒会活動の質を高め続けるか、と考えたとき、生徒会の後方支援チームが必要だろうという結論に至りました」(荒井氏)

吉水隆太郎(よしみず・りゅうたろう)
生徒会活動支援協会事務局
会社員。高校在学時(早稲田大学高等学院)は、中央幹事会(生徒会)の幹事長として活動、全国高校生徒会大会実行委員なども務めた​
(写真:本人提供)

同協会は、大学生、社会人、教員、生徒会で役員を務める現役の高校生など、多様なメンバーで構成されている。かつて生徒会役員を務めたメンバーも多く、当時の経験と大学生活・社会人生活での知見を生かしながら、生徒会活動の支援を行う。主な内容は、生徒会活動の表彰、地域での生徒会ネットワークの構築や交流活動のサポート、インターネット上で生徒会活動に関する情報提供を行う「生徒会.jp」の運営などだ。表彰事業で代表的なのが、年に1回の「日本生徒会大賞」。全国各地の学校生徒会・生徒会団体・生徒会役員を対象に、活動内容や組織体制などを評価している。

「日本生徒会大賞」の審査基準について、同協会事務局の吉水隆太郎氏は「活動成果の多寡や話題性よりは、達成までのプロセスが民主的であるかという点に着目しています」と話す。

「私たちは、生徒会活動の価値とは『何かを成し遂げるための民主的なプロセス』自体にあると考えています。一部の熱心な生徒だけが活動するのではなく、全校生徒の意見を吸い上げるシステムをつくり、総意としてまとめていく点が重要なのです」(吉水氏)

「ブラック校則」問題に見る「主権者教育」の重要性

日本では戦後、民主主義の浸透を目指して各学校に生徒会がつくられた。同協会が民主的なプロセスを重視する理由もここにある。しかし現在では多くの学校が、国や教育委員会の方針を、教員から生徒へ伝えるトップダウン型の意思決定をしており、生徒自身の意見や希望が反映される組織体制はとられていない。これをもって、「学校内民主主義」の形骸化を指摘する声もある。その象徴が、学校側が一方的に理不尽なルールを課す「ブラック校則」だろう。

ブラック校則については、近年、あまりに行き過ぎたものを見直す動きも広まっている。一例として、福岡市教育委員会は2023年2月1日の会見で、男女別の制服規定や髪型のツーブロックやポニーテールの禁止、下着の色の指定といった5項目の校則を、23年度より市内の公立中学校で撤廃すると発表した。実現に当たり、福岡市は21年より各学校に教師・生徒・保護者などからなる「校則検討委員会」を設置して、校則の見直しについて検討を重ねていた。こうしたプロセスを踏まえ、福岡市教育委員会は会見の場で、生徒自らが作ったルールを自分たちで守る「主権者教育」の重要性にも言及している。

猪股大輝(いのまた・だいき)
生徒会活動支援協会理事
東京大学大学院教育学研究科在学。高校在学時(私立桐朋高等学校)は総務委員長(生徒会長)として活動、生徒会大会(首都圏)を立ち上げ、首都圏高等学校生徒会連盟代表、生徒シンポジウム実行委員なども務めた​
(写真:本人提供)

生徒が、学校内での話し合いや生徒会活動を通じ「主権者教育」や「学校内民主主義」を経験するメリットについて、生徒会活動支援協会理事の猪股大輝氏はこう話す。

「日本の学校では長きにわたって『ルールは守るもの』という指導がなされてきました。一方で、主権者教育や学校内民主主義が実践される場では、『自分たちでルールを作る』という経験ができます。ルール作りに主体的に関われば、『ここは自分の学校だ』と当事者意識が生まれ、校内自治に積極的に参加したいという意識の変化も期待できます。また、自分が動けばルールを変えることができ、自分たちの手でより過ごしやすい社会をつくれるのだ、という成功体験は政治参加への意欲を高めることにもつながります」

生徒会が教員の「お手伝い屋」では意味がない

「ブラック校則」や制服などに関する「ジェンダー平等」の議論が活発になったことを受け、最近では生徒会が中心となり校則改正を目指す学校も出てきた。しかし猪股氏は、「校則改正のプロセスが真に民主的なものであるかは、しっかり検証する必要があります」と指摘する。

「学校によっては、教員によってあらかじめ『このような方向性に校則を改正する』と決められており、生徒会はその“お手伝い屋”として使われるケースもあります。校則改正が実現しても、これでは生徒の意見が反映されていません。学校内民主主義を実行するなら、校則改正の方向性を決める段階からボトムアップで議論される仕組みづくりが不可欠です。生徒自身が『この学校をどうしていきたいか』『そのために校則をどう変える必要があるか』と十分に議論する必要があります」

実際に、校則改正の仕組みづくりそのものを生徒会が主導する例もある。静岡県立富士高等学校は、ある生徒から校則改正が提案された際は、生徒総会で全生徒の3分の2以上の賛同を得れば学校側に提起するというルールを新設した。これにより、生徒全員が校則改正のプロセスに関わるほか、どのような提案をどれくらいの生徒が支持しているのかも明確になる。

全校アンケートはQRコードで、他校との交流も活発

全校生徒の意見を集める手段として、デジタルツールの活用が進んでいることも令和の生徒会の特色だ。

「かつては目安箱を置いたり、生徒全員に紙のアンケートを配布するなどの手段しかありませんでした。しかし現在は、GoogleフォームなどでWebアンケートを作成して、URLやQRコードから簡単に配布・回答してもらうことができます。デジタルツールとしては、Google Classroom以外にClassi、Slackなどを活用しているようです」(猪股氏)

また最近の傾向として、「学校間の生徒会交流も活発になってきている」と荒井氏は語る。コロナ禍以前はリアルな交流が重視されていたが、ポストコロナに入ってからは「オンラインを含めてさらに幅広い連携・コミュニケーションを取る傾向が顕著になってきた印象がある」ようだ。

例えば、東京都の多摩地域を中心とする約25校が参加する「多摩生徒会協議会」では、約2カ月に1回のペースで各校の生徒会役員を中心に意見交換会を実施している。また、東京都の私立・桐朋学園の生徒会では、他校の生徒会とZoomなどを用いて意見交換を行う「二校間交流」を実施。これまでに意見交換を行った学校は約20校に上り、二校間交流で築いた関係を発展させ、複数の学校の生徒会メンバーが一堂に会して話し合う交流会も実施している。

教育委員会ありきの公立校、予算1000万円超の私立校

ここで気になるのが、公立校と私立校による生徒会のあり方の違いだ。猪股氏は次のように述べる。

「まず大きな違いが、予算規模です。私立校は生徒会の予算が1000万円近くになることもあり、生徒がその差配を考える経験ができます。校則改正に関しても、公立校は原則として各都道府県の教育委員会の判断を仰ぐ必要がありますが、私立校は学校単位で認められれば改正できます。また、私立校の教員には異動がないため、年度をまたいでも活動内容を引き継ぎやすい環境にあります。生徒側も、とくに中高一貫校は4~5年にわたり役員を務める人もいるので、豊富な経験を糧に質の高い活動につなげやすいのです。一方で、公立校は3年経つとすべての生徒が卒業してしまうほか、担当教員も異動によって頻繁に変わるなど、ノウハウの継承が課題になっています」

不利な条件が多いように思える公立校の生徒会だが、何もできないわけではない。2022年5月、埼玉県立春日部高等学校の生徒会は、新型コロナ感染防止対策のため保護者などまでにとどめていた文化祭の一般開放を求めて、陳情書とオンラインサイトで集めた約1万7000筆の署名を埼玉県教育委員会に提出した。その後、埼玉県教育委員会は22年度版の「新型コロナウイルス感染防止対策ガイドライン」を緩和し、文化祭の一般公開を認めた。同年6月に開催された春日部高校の文化祭は、ガイドラインの緩和を受けて、事前予約制かつ全体の入場者数を制限したうえで一般公開されたという。

川名悟史(かわな・さとし)
生徒会活動支援協会理事
上智大学総合人間科学部教育学科在学。高校在学時(埼玉県立春日部高等学校)は、生徒会会計、文化祭実行委員会会計局・ホームページ局長として活動。第8回全国高校生徒会大会経理部長も務めた
​(写真:本人提供)

春日部高校の生徒会OBで、現在は大学で教育学を専攻しながら生徒会活動支援協会の理事を務める川名悟史氏は、後輩の活動を見てこう語る。

「公立校での改革は、やはり教育委員会の判断を仰がなければいけない点が壁となります。しかし裏を返せば、どこか1校のアクションをきっかけに教育委員会の判断が変われば、その影響が県内のほかの公立校にも伝播するということでもあります。現在はSNSなどを活用して学校間の連携もしやすいので、横のつながりを生かしながら1校も取りこぼさない形で改革ができる可能性がある。これは公立校ならではの強みでしょう」

生徒自身が学校のあり方を考える「学校内民主主義」へ

かつて生徒会といえば、学校推薦型選抜(旧推薦入試)の自己アピールになるからという理由で取り組む生徒も少なくなかった印象がある。しかし、令和の時代の生徒会は様相が異なるという。

「大学入試の公募制推薦では、『大学で何を学びたいか』が問われる傾向が強くなっていると感じます。生徒会の経験を通じて身に付いたスキルやコミュニケーション能力は入試でも役立ちますが、生徒会役員をやっていたという経歴だけではアピール材料にはなりにくい印象です。生徒たちも、入試のためというより、生徒会活動そのものに魅力を感じて関わるケースが増えているのではないでしょうか」

こう話す川名氏に、吉水氏も続く。

「今の時代、留学や起業など生徒が活躍できるフィールドは学校外にも広がっています。生徒会で中心的役割を担う生徒たちは、そうした多様な選択肢の中で、生徒会を自身の活動の場として選んだわけです。その分、『自分は生徒会でこれをしたい』『学校のここを変えたい』という明確な意思を持っている人が多いように感じています」

一方で、猪股氏は最近の生徒たちを見て、「正解を求め、行儀よくまとまっている“いい子”が増えたと感じる」とも話す。それは生徒会で役員を務める生徒に関しても例外ではないという。

「『学校が決めたルールだから守らなければ』は、民主主義ではありません。現状の生徒会は、教員の意向を生徒たちに周知する役割を担わされている面も否めませんが、本来それは教員がやるべきこと。生徒会の本職ではありません。一人ひとりの生徒自身が、『自分の学校はどうあるべきか』という根本の問題と向き合い、その意見を集約しながら課題解決の方法を探っていく。生徒会が『学校内民主主義』を堂々と象徴する未来を願っています」(猪股氏)

生徒会活動支援協会は、3月26日(日)に全国生徒会大会2023を開催する(リアル・オンラインのハイブリッド開催)。全国の生徒会役員が一堂に集結し、生徒会について考えるイベントだ。また現在、日本全国の生徒会役員個人や生徒会、顧問の先生のうち先進的な活動事例を表彰する日本生徒会大賞2023の応募を受け付けている(4月30日〈日〉24時締め切り)。

生徒自らが学校のあり方を考える「生徒会」は、本来の役割を果たせているのか。学校内外の情報も収集しつつ、一度見直してみる必要がありそうだ。

(文:安永美穂、 注記のない写真: EKAKI / PIXTA)