モンテッソーリ教育とは?

モンテッソーリ教育とは、イタリアで19世紀末から20世紀半ばに医師、教育者として活動したマリア・モンテッソーリ博士が提唱した教育法です。

「子どもには自分で自立・発達していこうとする力=自己教育力があり、その力が存分に発揮できる環境と自由が保障された中で、自発的に活動を繰り返しながら成長していく」という基本的な考え方を根底に考案されました。

将棋の藤井聡太棋士、元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏、イギリス王室のウィリアム王子、ヘンリー王子、Amazonの創設者のジェフ・ベゾス氏、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏などが、モンテッソーリ教育で育ったことで知られています。

モンテッソーリ教育の背景、歴史

モンテッソーリ教育は、モンテッソーリ氏が、ローマの病院で障害のある子どもたちが床に落ちたパンくずを熱心に広い集める姿からヒントを得たことが始まりといわれています。

子どもたちがパンくずを拾っているのは「おなかがすいているから」ではなく「手や指先を動かして感覚的な刺激を得ようとしているから」と気づき、指先を使って円柱を穴にさしたり抜いたりする教具「円柱さし」を考案。これで遊んだ知的障害児の知的水準が高まったことがわかりました。

この結果を踏まえ、1907年に保育施設「子どもの家」を設立し、独自の教育法を完成させました。「モンテッソーリ教育」と名付けられて以来世界中に広がり、100年以上経った今でも、世界110以上の国でモンテッソーリ教育が実践されているといわれています。

モンテッソーリ教育の内容

モンテッソーリ教育では、大人になるまでの24年間を、

・ 0〜6歳の乳幼児期
・ 6〜12歳の児童期
・ 12〜18歳の思春期
・ 18〜24歳の青年期

と6年ごとに分け、「発達の4段階」としています。

24年の中でも、0〜6歳は、「その後の長い人生を生きてくのに必要な能力の80%が備わる最も大切な時期」と位置づけられています。

この時期に、子どもが何かに強く興味を持ち集中して同じことを繰り返す「敏感期」が訪れ、子ども自らが興味を抱き、その子の発達に合わせた活動に夢中で取り組むことで、人生を力強く生きるための土台が備わっていくとされています。

モンテッソーリ教育では、0歳から6歳までの乳幼児期を、

・ 0〜3歳の前期
・ 3〜6歳の後期

の2つに分けて考えています。それぞれの発達段階に現れる敏感期を背景に、教育環境が用意されています。

0〜3歳

歩く、階段の上り下りなど「粗大運動の活動」、主に手や指を使い、握る、たたく、落とすなど「微細運動の活動」
体全体と指先の運動を組み合わせ、着衣脱やボタンの留め外しなど「日常生活の練習」自分の周囲で話されている母語を発達に合わせて獲得する「言語教育」
発達段階や興味に応じた教具に触れることにより感覚の洗練を促す「感覚教育」
音楽を聴いたり歌ったり踊ったりする「音楽」
クレヨンや絵筆、粘土などで表現を楽しむ「美術」

以上7つの教育環境が用意されています。

4~6歳

はさみで切る、コップに水を注ぐ、室内を掃くなど「日常生活の練習」
教具に触れながら言語・算数・文化教育という知的教育分野の基礎となる力を養う「感覚教育」
子どもの発達に合わせ語彙を豊かにする「言語教育」
数の敏感期を利用して数量を具体的に表し手で扱えるようにする「算数教育」
小学校の社会、理科に相当する「文化教育」

以上5つの教育環境が用意されています。

モンテッソーリ教育を受けるメリット

モンテッソーリ教育では、その子の発達段階や性質に即して子どもの「やりたい」「挑戦したい」という気持ちが尊重され、任されます。自主性が高まるだけでなく、「自分は今何がしたいのか」といった判断力、集中力が高まります。

また、異年齢交流により、年上の子への憧れや尊敬、年下の子への慈しみの心を育み、他者を思いやる気持ちを養うことができるのもメリットといわれています。

実際にモンテッソーリ教育を実践した保護者の良かった声と悪かった声

東洋経済education×ICTが2022年12月に調査した「海外教育について実践、経験された方へのアンケート」で、その内モンテッソーリ教育を実践、経験された184人の調査結果については下記になります。

「感性豊かになった」「自分で考えて行動できるようになった」など、全体的に「良かった」という声が多い結果になりましたが、一方で「目に見える変化が感じられない」「子どもが興味をもたなかった」という声も。

保護者の教育観によりわが子の成長の捉え方は異なるものですが、“向き不向き”を感じる声が聞かれました。

海外教育の184人の上記の詳細なデータに加えて、「良かった」「ほどほどに良かった」と「あまり他の教育方法と変わらなかった」「良くなかった」「あまり良くなかった」と回答いただいた自由記述については、こちらから無料DLいただけます。

モンテッソーリ教育と学校

モンテッソーリ教育は、日本では1960年代に導入されましたが、義務教育課程に含まれていないため公立小・中学校での導入は難しく、幼稚園・保育園での導入が徐々に増えてきています。

海外ではモンテッソーリ教育は日本よりも盛んで、アメリカでは幼稚園・保育園に加え小学校から大学まで、幅広い年代で取り入れられています。

モンテッソーリ教育と幼稚園・保育園

日本では、モンテッソーリ教育が紹介されて以来、教育プログラムを導入する幼稚園・保育園が続々と設立されました。現在、その数は定かではありませんが、日本全国にモンテッソーリ教育を提供する幼稚園・保育園が存在します。モンテッソーリ教育の取り入れ方は、幼稚園・保育園により異なります。

モンテッソーリ教育と小学校

モンテッソーリ教育を取り入れている小学校は、日本には3校しかありません。いずれも首都圏に位置し、少人数制、複数の学年による合同クラスで教育を行っています。一般的な公立小学校とは異なり、決められた時間割、宿題、テストがなく、教具を使った学び、探究学習・体験学習等を重視した教育が行われています。

マリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクール
The Montessori School of Tokyo
東京モンテッソーリスクール

モンテッソーリ教育で参考にしたい本

モンテッソーリ教育を詳しく知るうえで参考にしたい本を紹介します。

『子どもから始まる新しい教育』(マリア・モンテッソーリ著、AMI友の会NIPPON監修、翻訳/風鳴社)

モンテッソーリ自身による文章や講演をまとめた日本で唯一の書。モンテッソーリ教育の原点を知ることができます。

『自分でできる子に育つほめ方叱り方』(島村華子著/ディスカヴァー・トゥエンティーワン)

モンテッソーリ教育を知り尽くした児童発達学の専門家である著者が、理論とデータに基づき記した子育て指南書です。

モンテッソーリ教具

モンテッソーリ教育では、子どもが自由に選んだ活動を「お仕事」と呼び、この仕事を助ける道具を「教具」と呼びます。円柱さし、積み木、パズル、鏡などさまざまな教具があり、敏感期に合わせた教具を上手に活用することで、子どもはその教具から必要な能力を学び取っていきます。

おもちゃは、「子どもを楽しませること」を目的としているのに対し、教具は「子どもの成長を援助すること」を目的としています。

まとめ

教具や独特の教育環境、カリキュラムなど、日本の学校教育にはない取り組みを行うモンテッソーリ教育は、子どもの自ら成長する力を引き出す教育として、今もなお注目を集めています。その実践の中から、世界をリードする人々が数多く育ってきています。

長島ともこ  肩書:フリーライター、エディター

明治大学卒業後、出版社、制作会社勤務を経てフリーに。教育、子育て、PTAなどの分野で取材、執筆、企画、編集を行う。教育分野では、ICT教育、教職員の働き方、授業実践事例や学校づくり等をテーマに取材。著書に『PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本』『卒対を楽しくラクに乗り切る本』(共に厚有出版)、執筆協力に『学校ってなんだろう』(学事出版)などがある。