全国7都市のPTA連合・PTA関係者が登壇した「京都PTAフォーラム」

2022年12月、国や都道府県、市区町村郡単位などで設置されるPTA連合会・協議会などPTAの「上部組織」のあり方について考える「京都PTAフォーラム」が京都市内で開催され、オンラインで配信された。

22年12月に行われた「京都PTAフォーラム」
(写真:大森氏提供)

神奈川県川崎市・横須賀市、静岡県静岡市、大阪府堺市、奈良県奈良市、愛媛県松山市、福岡県北九州市の全国7市のPTA関係者が登壇し、改革事例などを発表。参加者からの質疑応答の時間も設けられ、「学校単位のPTA(以下、単P)から求められる組織になるために必要なこととは」「都道府県や全国単位の“大きな”PTA組織に加盟する意義とは」などについて討論した。

この会の企画・コーディネートを務めたのが、京都市PTA連絡協議会(加盟校252/以下、京都市P連)前会長の大森勢津氏だ。大森氏は、ICTを用いた情報発信や単P同士の情報交換など京都市内の単Pの活動の底上げに注力しつつ、会費負担の重さや全国組織としての役割に疑問を感じ、これまで京都市P連が加盟していたPTAの最上部団体である「日本PTA全国協議会」(以下、日P)からの退会を提案したが、22年5月に理事投票で否決された。

大森勢津(おおもり・せつ)
21年度京都市PTA連絡協議会会長、20〜21年度京都市小学校PTA連絡協議会会長、19年度より小学校PTA会長。2人の子どもの母親
(写真:大森氏提供)

「不本意な結果となりましたが、日P退会の提案、決議、議決結果報告まで一連の過程をHPで詳細に公表していたことから、全国で同様の立場の方々から賛同や理解の声をたくさんいただきました。協議会会長職は退きましたが、これを機につながった全国のPTA関係者の方々と情報を共有しながらPTA連合や上部組織についてみんなで考えようと、オンラインで勉強会を始めたのです」

会を重ねるごとに勉強会のメンバーが増え、情報共有や意見交換が活発化していったという。

「全国のPTA連合で奮闘していらっしゃる皆さんから続々と情報が集まり、この場だけで完結しているのはもったいないと。当事者による課題解決に向けた方策や思いを、全国各地でこのような情報を求めている人たちに直接届けることができるようなムーブメントを起こすことが必要なのではないかと感じ、このフォーラムを企画しました」

「京都PTAフォーラム」の専用ホームページ

「京都PTAフォーラム」の専用ホームページを作成し、イベント終了後、登壇者の事例発表の動画や資料、参加者からのアンケート結果も掲載した。

「かねて、全国の都道府県が持ち回りで開催し、事例発表などを行う日P主催の『PTA全国研究大会』(通称:全国大会)には疑問を抱いていました。開催地となる都道府県P連やPTA役員さんたちの運営準備、当日の運営サポートの負担を考えると、今の時代にはそぐわないのではないかと。地域の垣根を越えた情報交換や共有を望む声は多く聞こえてきます。オンラインで全国から誰でも視聴可能な今回のフォーラム開催により、“新しい形の全国大会”を提案できたのではないかと思っています」

市P連として最も大切な役割は、単Pを支えること

フォーラム登壇者の一人、奈良市PTA連合会(以下、奈良市P連)事務局長の岡田由美子氏は、「奈良市P連として最も大切な役割は、市内の単Pを支えることだと思っています」と言う。

岡田由美子(おかだ・ゆみこ)
2008年度奈良市PTA連合会広報委員、09年度理事、10〜11年度副会長を経て、13年度より事務局長。小学校、中学校のPTA会長、高等学校PTA役員を経験。3人の子どもの母親
(写真:岡田氏提供)

奈良市P連は、市内の公私立幼稚園・こども園・小学校・中学校・高校、計87のPTAを束ねている。P連の事務局は教育委員会が兼ねているケースが多いが、奈良市P連では、P連役員経験者が「事務局スタッフとして会長より委嘱を受け業務にあたる」という独自の形を取っている。

岡田氏は、ほかの仕事もしながら週に4日市内の事務局に足を運び、2名のスタッフと共に事務処理、会計処理、部会や研修会の会場の確保や講師の手配、単Pからの問い合わせ対応、奈良市P連発行の広報紙の制作などを担っている。13年度から奈良市P連事務局長を務める岡田氏が、単Pを支えるために力を注いできたのが、「任意加入」の周知と入会申し込みの整備だ。

「PTAは任意の団体であり、その入退会は会員の意思で決められるべきものですが、入会申し込みを取っていた単Pは全体の4分の1でした。任意の周知はしていても、子どもの入学に合わせて自動(強制)加入の単Pが少なくないのが現状でした」

そこで、16年度から、市内の全単Pに、入会意思確認の有無と非会員の人数の調査を開始。任意加入の周知と入会申し込み整備に向けての学習会を開催しつつ、単Pの運営の指針となるよう、

・ PTAの目的と性格
・ PTAの活動内容
・ PTAと学校の関係
・ 自動(強制)加入問題、個人情報問題、会費の使途などPTAが抱える課題の改善策

奈良市P連の「PTA運営の手引き」を見る(PDF)

などを記した「奈良市PTA連合会 PTA運営の手引き」を作成。作成にあたっては、教育委員会の先生方にも協力を仰いだ。20年度より、各単Pに配布しHP上にも公表、自由にダウンロードできるようにした。また、校長会会長の先生を訪ね、校長会で先生方への周知もお願いした。一連の取り組みにより、入会意思確認を行う単Pの割合は、16年度の23%から22年度には85%と、大幅に増加した。

さらに、「年度始めに、単Pの役員さん向けに部会を開催し、『PTAの手引き』を“教本”に、PTAのあり方や運営方法などについて改めて知っていただく機会を設け、会計さんには別途、会計の学習会を開催しています。また、リーダー研修会(コロナ禍は休止中)では、奈良市で行われている教育内容や子育てに関連した学習を行っています」と言う岡田氏。

「初めてPTA会長になり、何から手をつけてよいかわからない」「PTA役員になったものの、どんな心持ちで何をしたらよいのかイメージできない」など、“PTA役員初心者”の保護者の不安を払拭する非常に有意義な取り組みなのではないだろうか。

年度始めに単Pの役員向けに行っているリーダー研修会
(写真:岡田氏提供)

運営方針の違いから、上部団体である県Pを退会

奈良市P連は、発足以来、その上部団体である奈良県PTA協議会(以下、奈良県P)から休会、復会を繰り返してきたが、17年に分担金の算出方法や活動の運営方針の違いから、奈良県Pを休会。2年間の休会中に、奈良県Pに対し話し合いの場を設けてもらえるよう打診を続けてきたが回答がなく、19年に退会した。

「財政難の中、奈良県Pから提示される分担金の負担が重いことに加え、いちばん大きかったのは、PTAの任意加入に対する意識の違いです。当時私たちは、先ほど申し上げたように、一時的に退会者が増えても任意加入の周知や入会意思確認が必要だと考えていましたが、当時の奈良県Pの会長さんは『PTAは全員が入っていることに意味がある』とのお考えでした。そこに大きな齟齬(そご)がありました」

市内の会員であれば誰でも無料で参加できる「みんなで学べる研修会」の様子
(写真:岡田氏提供)

奈良県P退会により、これまで奈良県Pに納めていた分担金を奈良市P連の活動の活発化につなげようと、市内の会員であれば誰でも無料で参加できる「みんなで学べる研修会」を開催しているという。

「コロナ禍で開催できない年もありましたが、これまでに、教育経済学者の中室牧子さん、教育評論家の親野智可等さんなどにお越しいただき、教育や子育てをテーマにお話ししていただきました。今年は先生の働き方改革について、奈良市P連として考えようということで、取り組み事例発表、パネルディスカッションに加え、教育研究家の妹尾昌俊さんに講演いただきました」

市P連というとどうしても、単Pの会長、副会長などの集まりのようなイメージを抱きがちだが、「このような研修会を通し、単Pの会員さんにも私たちの活動をもっと知ってもらいたいと思っています。市内の全家庭に年3回配布する広報紙も、いわゆる“学校新聞”ではなく、PTAとはどんな組織なのか、時代の流れを受け、今どんな活動が必要なのかなどについて取り上げ、丁寧に発信していきたいですね。PTA本来の目的を忘れず、連合組織として話し合いを深め、関係機関と協力体制を取りながら単Pの支えとなるよう、さまざまな問題解決に当たっていきたいと思います」と、岡田氏は話す。

県P連など「大きなP連」を退会する地域のP連が増加

「京都PTAフォーラム」では、“理想とするP連とは?”の問いに、登壇者からは「単Pから必要とされるP連」「単Pが運営上困ったときに、指針を示せるP連」「単Pの困り事の“相談先”としてのP連」などの声が上がった。先の大森氏も、こう続けた。

「単Pの基本的な運営は単Pに任せつつ、時代とともに変わり続けてよい組織であることを周知していくこと、変えていく途中で何かつまずいたとき、解決に向けて動いてあげられる組織であることが求められていると思います」

地域の単Pを束ねる市区町村郡のP連がこのような役割を果たすことで、単P、学校、地域が元気になっていくことだろう。一方で、都道府県P連や日Pといった上部団体について、岡田氏はこう述べる。

「市区町村郡のP連の集合体としてより広い視野を持ち、市区町村郡のP連を支える組織であってほしいものですが、活動内容や運営方法に目を向けると、市区町村郡のP連と同様の活動に終始しているように感じます。うちのようにある程度独自性や主体性を持って運営している市P連からすると、分担金を払ってまで上部団体に加盟する意義が感じられない、というのが正直なところです」

近年、奈良市と同様の理由で、県P連など「大きなP連」を退会する自治体が相次いでいる。22年には松山市P連が愛媛県P連を、高知市P連が高知県P連を退会。これ以前にも、岡山市P連、倉敷市P連が岡山県P連を、徳島市・名東郡PTA連合会(徳東P連)が徳島県P連を退会している。

県P連や日Pといった上部団体は、その目的を改めて見直し、今の時代に合った運営方法を模索する視座が求められているといえる。P連も、単Pと同様、地域の保護者が関わる活動だ。だからこそ、PTAや地域のP連はもちろん、都道府県P連や日Pといった上部団体が、どのような目的でどのような活動を行っているのか関心を持つことが大切だ。

(企画・文:長島ともこ、注記のない写真:S.N / PIXTA)