探究に必要な「頭の使い方」を教える東大生の授業とは

僕たちは今、「アカデミックマインド養成講座」という事業を全国4校で行っています。これは、東大生講師たちが、中学生や高校生たちに「勉強」ではなく「頭の使い方」や「『なぜ?』と問う勉強の仕方」を伝えるというものです。英語や国語といった教科を教えるのではなく、一緒に「探究」を行うお手伝いをしています。

確かに題材は、理科や社会、英語、国語、数学を使っています。でも、従来のものとは大きく異なった「問い」を出しています。例えば、こんな問いです。

「なぜ、朝焼けがきれいだと明日は雨になりやすいのか?」
「江戸時代から明治時代で、日本の平均身長が10cmも伸びたのはなぜか?」
「なぜ青信号は緑色なのか?」

このように「身の回りにあふれる問い」と、机の上の勉強とを結び付けるような問いの仕方をしています。そして、答えをただ教えることはしません。ワークシートを用意し、数人のグループをつくって、友達と一緒に考えて自分たちで答えを出すことを支援しています。勉強ではなく、「問いを立てて、その問いにどう答えを出していくのか」を支援する授業なのです。

よく多くの人からこんなことを言われます。

「え? 東大生が講師をやっているのに、勉強を教えるわけじゃないの? そっちのほうが需要がありそうだけど」と。確かに、東大生といえば勉強というイメージがありますよね。

しかしこの「頭の使い方」というのは、これからの大学入試において、「知識」よりも重視される可能性のあるものであり、そして東大生たちが伝える価値のあるものなのです。

昔から東大では「思考力を問う」入試問題が出題されていた

今年も共通テストが行われました。「センター試験」から「共通テスト」に変わって、今回で3回目の入試です。

「共通テスト」は、従来実施されていたセンター試験とはかなり違うものになっています。センター試験が「知識があれば解ける問題」だったのに対して、共通テストは知識を重視するのではなく「思考力・判断力・表現力」を重視した問題が出題されています。

ただ知識を問う問題ではなく、資料を読み取ったり、その資料から考察を深めたり、きちんと頭を使わなければ解けない問題ばかりであり、多くの人が「これは、どうやって対策したらいいんだろう?」「ただ勉強して知識を暗記しても、こんな問題は解けないじゃないか」と嘆くものばかりでした。

この傾向は、今後の大学入試に色濃く反映されていくものだと考えられます。大学入試がそうだとしたら、今後の高校教育もその対策が求められるということであり、高校受験や中学校の教育にも影響していくといえるのではないでしょうか。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

実は東大では、昔から「知識ではなく思考力を問う」入試問題を出題していました。「カボチャはなぜニュージーランドから輸入されているのか答えなさい」とか「カードゲームのブラックジャックで勝つ確率は?」とか、そういう問題が出題されていたのです。

実は先ほどの「なぜ、朝焼けがきれいだと明日は雨になりやすいのか?」という問いは東大の入試問題でもあります。こういった「本質的な思考力を問う問題」を、東大の入試問題も使いながら、東大生や東大の入試問題に詳しい予備校講師の人などからもお話を伺って、授業のコンテンツを開発しているのです。

こうした問いに早い段階から触れていれば、今後の「思考力を重視する」傾向の中でもしっかり戦っていける能力が身に付けられるのではないかと考えています。

この事業を本格始動したのは今年からなので、まだ実績はありませんが、試験的に授業を受けてもらっていた何人かの生徒は、今年の共通テストでもかなりの高得点(全科目を通して80〜85%)を取っていて、手応えを感じています。

問いに対する答え方の「型」をしっかり教える

僕が実践してみて感じたのは、「生徒は、誰かからきちんと教わらないと、なかなか思考力を身に付けることは難しいんだな」ということでした。

例えば、「新宿駅は、世界一乗降客数の多い駅なのはなぜか?」という問いを投げかけたときに、中学2年生の生徒の中には、「日本の人口が多いからじゃないですか?」と答える生徒もいました。

これって、いろいろ甘いポイントのある答えですよね。しかし、誰からもこの解答が甘いということを教わっていない、また指摘された経験がないと、どこがおかしいのか認識できないと思います。

だからこそ、この講座ではこういう問いに対する答え方の「型」をしっかり教えていきます。そこでまずは、「事実」と「意見」を切り分けて考えてもらいます。

「アカデミックマインド養成講座」の様子。東大の入試問題など「本質的な思考力を問う問題」を使いながら、問いに対する答え方の「型」をしっかり教える

「人口が多い」という言葉は、物事を深く考えるうえではあまり適切なものではありません。なぜならそれは「意見」だからです。「事実」は、誰の目から見ても明らかなデータのことです。それ自体には何の色もなく、ただの数字でしかないもののことを指します。

対して「意見」は、その事実から一歩進んだ主観的なものです。ただのデータ・客観的なものとは異なります。そして「事実」としての言葉と「意見」としての言葉は異なります。

そして、「多い」というのは、「意見」です。例えば、「多くの人が」と僕が言ったときに、「100人くらい」を想像する人もいれば、「2~3人くらい」でも「多くの人」だと考える人もいるでしょう。

「どれくらい多いのか?」という数字や、「世界の中でどれくらいなのか?」という比較をしていかないと、物事を深く考察していくときに使える「事実」にはならないのです。

そう考えると、「日本の人口が多い」というのは、「日本は、世界で11番目に人口が多い」と言えます。こう考えることができると、「あれ? 日本よりも人口が多い国があるのに、なぜ世界一が日本にあるんだろう?」と新たな問いを立てることができ、もっと深く考えることができるようになります。

ちなみに、この「事実」と「意見」の違いを問う問題は、共通テストの英語でも毎年出題されています。

このように、「事実を選びなさい」という問いが出ており、これは長文を読まなくても、「これは事実じゃないな」というものを消去できるようになっているのです。

自分で作った問いを考えて「勉強って、やっぱり大事なんだな」と

ということで、共通テストの問題も解けるような「頭の使い方」を鍛える問題をたくさん考えてもらい、それを生かす講座を実施しています。また、自分たちで問いを作ってもらって、その解答を出していくお手伝いをする、という時間もつくっています。中高生ならではの面白い問いを作っている人が多く、

・なぜギンナンは独特なにおいを発するのか?
・なぜ黒板は緑なのか?
・なぜ雑巾の色は汚れが目立つ白なのか?

こんな問いを作って考えるグループがありました。とくに面白かったのは、「なぜ炭酸水のペットボトルの形は、3つ足のものばかりなのか?」という問いを作ったグループで、僕らが何も言っていないのに、「じゃあ炭酸水に含まれる二酸化炭素濃度はどれくらいだろう? 内容量がこれくらいで、そこに含まれる成分はこういうので……」とみんなで計算して検証していたのが印象的でした。

自分たちで問いを作ってもらって、その解答を出していく支援をする時間もつくっている

話を聞いてみると、やはり自分たちで作った問いというのはモチベーションを持って考えられるようで、さらにその過程で今まで習った数学や社会の知識を使うというのは新鮮な感触だったそうです。「勉強って、やっぱり大事なんだな」と言っていた生徒がいたのが、個人的にはうれしかったです。

このように、身の回りのことから学べるような講座から、多くの生徒がいろんな学びをしてくれていることを、とても楽しく感じています。もう少し詳しい内容は、また次回の記事でご紹介します!

(注記のない写真:西岡氏提供)