夜に勉強する理由を考えたことがありますか?

「ホ~タ~ルの光、窓の雪~♪」

これは、ホタルの光や雪に反射する月の光で苦学したという中国の故事にちなむ歌詞ですが、昔から人は夜に寝る時間を削って勉強をしていたようです。ではなぜ夜に勉強していたのでしょうか。みんなが寝静まって静かで集中できるから? いやいや、それならば早起きして勉強してもよかったはずです。

福田 一彦(ふくだ・かずひこ)
江戸川大学 社会学部人間心理学科 教授
江戸川大学睡眠研究所 所長
(写真:福田氏提供)

なぜみんなが夜更かしして勉強するのかに対する睡眠研究者の答えは、早起きよりも夜更かしのほうが容易だからということです。私たちの身体には時計機構が組み込まれています。細胞には時計遺伝子が存在し、時刻を制御していますが、その取りまとめ役が脳の中にある体内時計で、視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる1ミリメートルほどの小さな神経細胞の集まり(神経核)です。視交叉上核には目から入った光の情報が視神経から枝分かれする形で到達しています。また、網膜上にある、物を見ることとは関係のないブルーライトのみを検知する細胞からの出力が上乗せされているため、この時計は、光の影響、とくに青い光を含む白っぽい光の影響を受けています。朝に明るくなり、夜には世界が暗くなっていくという地球の自転周期に合わせて私たちは暮らしてきたわけですが、この光の影響を取り去ったり、時刻がわからない環境下に置かれたりすると、24時間の周期から少し外れて、この生物リズムが継続します。動物種によっては、早寝早起き方向にずれるものもありますが、人間の場合は、24時間よりも少し長い周期で後ろにずれていきます。つまり、私たちの体内時計は、夜更かしは容易ですが、早寝はあまり得意ではないのです。

普段23時に眠っている人を想像してみてください。この人が2時間夜更かしをして午前1時まで起きているのは、それほど難しいことではないと思われますが、では、2時間前の21時、つまり夜9時に簡単に寝付くことができるでしょうか。おそらくベッドに入ってもすぐには寝付けないと思われます。したがって、世界中の人たちが夜更かしをして勉強をしたり仕事をしたりしているというわけです。

夜更かしは効率的なのか

夜更かしが行われている理由をご説明しましたが、夜更かし自体に何の問題もないのであれば、ことさらそれを取り上げる必要はないでしょう。しかしながら、睡眠と覚醒のリズムが後退することには大きな問題があるのです。

図1は成績と睡眠の関係を表したもので、米国の中・高校生(13~19歳)を対象としたものです。成績が悪くなるほど就寝時刻は後退し、睡眠時間は短縮しています。睡眠時間の後退は、成績だけではなく精神状態にも悪影響を与えます。

図2は、約5000名の日本の中学生を対象にした結果ですが、夜更かしであればあるほど抑うつレベルは高くなります。また、同じ時刻に眠っていても夕方に仮眠をとっているほど抑うつレベルが高くなっています。

夜更かしや夜ではない時刻に眠ることは、私たちの身体のリズムを乱す行為です。わかりやすく言えば時差ボケのような状態です。このような状態では、認知能力は低下し、精神健康も悪化してネガティブな思考となり、よいことは一つもありません。それでも夜更かしして「勉強したつもり」を続けますか?

世界の若者は何時間眠っているのか

皆さんは、そもそも何時間眠っていますか? 日本の高校生や大学生の睡眠時間は、大体6時間程度といわれています。そして、それで「十分」だと思っているのではないでしょうか。しかし、米国の国立睡眠財団が推奨する年齢ごとの睡眠時間によると、6〜13歳で9~11時間、14〜17歳で8~9時間、18〜25歳では7〜9時間とされています。ビックリするかもしれませんが、日本以外の国では、これに近い睡眠時間を取っている生徒が多く、6時間台の睡眠が平均値である国は、世界広しといえども日本しかありません。

そんなに眠れないという人もいるかもしれませんが、北海道で地震の後、全道で停電となった夜には、普段8時間未満しか眠っていなかった中学生が、平均で9時間半眠っています。暗くすれば眠れるんですよ。

寝だめや長い昼寝は百害あって一利なし

夜に勉強して寝不足になった分は、昼寝や週末の寝だめで補える、と思っていませんか。それは、まったくの間違いです。初めに述べたように睡眠と覚醒は、脳の中の生物時計によってコントロールされており、人間の場合、夜に眠り、昼間は起きて活動するのが基本です。昼間に長い昼寝を取ったり、日によって眠る時刻を極端に変えることは、このリズムを乱すことにつながります。夕方の仮眠が多い人の調子が悪い(不安や抑うつのレベルが高く、眠気が強い)のは、このリズムの乱れが原因です。基本的に寝だめは不可能です。それをすることで生物リズムを乱すことにつながり、よいことは一つもありません。

週末に昼まで寝ているなどの人も多いのではないかと推察しますが、日によって生活のパターンを変えることは、いわば自ら時差ボケ状態をつくり出していることに等しい行為です。休みの日にたくさん眠るのであれば、それを普段の日に分けて、平日も週末もできれば同じ時刻に寝たり起きたりしてください。ずっと心身の調子は改善されるはずです。

朝型に変えられるのか?

また、夜更かしの状態を、試験の何日前から朝型に変えたらよいかという質問も、受験生からよく聞かれますが、そもそも、夜更かしの習慣自体がよくないのです。普段から夜更かしはしないで毎日同じ時間帯に眠るようにすることが大事です。

しかしながら、すでに夜更かしの習慣になってしまっている方に今から言っても遅いですよね。夜更かしの習慣を早起きの習慣に直す、つまり早寝早起きの方向に変化させるのは、非常に難しいということは最初にお話ししました。だから、まず、すごく難しいということを知ってください。それでも、不可能というわけではありません。例えば、毎日1時間早寝早起きにしていくのは大変かもしれませんが、30分くらいだったらもう少し楽だと思います。

そして、ではどのくらいで習慣を変えられるかですが、時差ボケが治るのにどのくらいかかるかという事を考えるとよいと思います。もちろん時差の程度にも寄りますが、まあ、大体1週間はかかると思ってください。それでもベストパフォーマンスを発揮できるかどうかは保証できません。夜中の受験はありえないことを考えて、なるべく早い段階で早寝早起きのパターンに変化させるようにしてください。

引用文献
Wolfson, A.R. & Carskadon, M.A. Sleep schedules and daytime functioning in adolescents. Child Development, 1998, 69: 875-887.
Fukuda, K. & Ishihara, K. Evening naps and delayed night-time sleep schedule typically found in Japanese adolescents is closely related with their daytime malfunctioning. Sleep and Biological Rhythms, 2004, 2: S45-S46.

(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)