シンガポール在住、ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。私は夫の転勤で、2015年6月から当時1歳だった娘を連れてシンガポールで暮らし始めました。移住した当初は、絶頂だった日本でのテレビの仕事を諦める苦難や葛藤も多くありました。しかし、今となっては失う物を超えるメリットが大きくシンガポールに来て本当によかったと思っています。

花輪陽子(はなわ・ようこ)
シンガポール在住、ファイナンシャルプランナー
青山学院大学国際政治経済学部卒業後、外資系の投資銀行に入社。米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻を引き金に起こった世界同時不況「リーマンショック」のあおりで、2009年夫婦同時失業を経験。投資銀行を退職し、猛勉強の末、ファイナンシャルプランナーに転身。15年に夫の海外転勤をきっかけにシンガポールへ。1児の母
(写真:花輪氏提供)

そのいちばんの理由が、子どもの教育環境です。まさしく「社会が子どもを育てる」という最高の環境がここにはあって、ダメダメの母親だった私が温かいシンガポールの周りの人に助けられて成長できました。ここシンガポールの教育環境を子どもに提供し続けたいという執着から家族で永住権まで取得しました。

インター校の多くは3歳から18歳までの一貫教育

PISA(ピサ:Programme for International Student Assessment)は、経済協力開発機構(OECD)が実施している国際的な学習到達度調査ですが、2018年では北京・上海・江蘇・浙江(中国)に次いでシンガポールは2位でした。

さらに国際教育到達度評価学会(IEA)が19年に実施した「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS 〈ティムズ:Trends in International Mathematics and Science Study〉)」では、シンガポールは全科目で1位になっています。

世界最高水準のシンガポールのローカル校は、初等学校の6年生の終わりごろに受ける卒業試験で将来が決まるともいわれています。外国人の場合はローカル校に入るのも難しく、入れたとしても学校を選ぶことができません。ローカルの子が優先され、空きがあれば入れるという仕組みだからです。

日本の中学受験も熾烈だという話は十分に聞いていますが、シンガポールの場合はその後の挽回がもっと難しい状況です。ローカル校に通わせていて途中からインターナショナルスクール (以下、インター校)に編入というパターンも聞きます。早熟タイプの子どもにとってはローカル校でも問題がないのかもしれませんが、わが子はそうではなさそうだったので受験時期を高校生まで遅らせることができるインター校を戦略的に選びました。

外国人の場合、シンガポールのローカル校に入るのは難しいため、多くがインター校を選択するが学費が高い。写真は花輪氏のお子さんが通うインター校
(写真:花輪氏提供)

シンガポールのインター校の多くは、3歳から18歳までの一貫教育です。日本人を含む多くの外国人が私立であるインター校を選択します(日本人学校も私立)。PISAで首位の中国からの留学生も多く、母子留学や安全な国なので子どもだけを渡航させる家庭も増えているようです。

インター校のデメリットは、何といっても教育費の高さです。年間の学費は200万〜450万円程度です。学校により、年間の学費が200万円前後のところと、400万円前後のところがあります。さらに年々インフレで数%ずつ授業料は上昇傾向です。学費の違いは教員の給料の差だと聞いたことがあります。欧米から先生を派遣する場合、駐在パッケージを支払う必要があります。これに対して、近隣諸国から英語ができる先生を雇う場合、節約ができるのだと推測されます。また、後述しますが、サポート面で学費の差が出ると推測されます。

シンガポール教育省によれば、ローカル校の小学校の費用は永住権保有者の学費で月2万5000円程度、外国人の場合は月8万5000円程度です。ローカル校は国民に対しては学費が安いのですが、外国人にとっては日本の私立くらいの学費の設定となっています。加えて、中国語やハイレベルの教育についていくためにチューターを雇うことは必須で、月に10万円以上を支払うこともザラにあります。そのために、割安料金のインター校と同じくらいの学費になることもあるのです。

入学したら全力で学校の資源を使ってサポートをしてくれる

わが家は1歳からシンガポールに住んでいたという利点を生かして、早期から御三家といわれるインター校に入れました。幼少期から入る場合、親が記入する書類だけを見る学校もあるからです。

学年が進むと子どもの英語力を含めた学力を見る学校もあり、人気校は入ることが難しくなります。下から入った場合は学力が芳しくなくとも、学校は決して子どもたちを見捨てることはありません。それどころか涙が出るくらいのサポートを子どもに対しても親に対しても施してくれます。

例えば、EAL(English as an Additional Language)プログラムです。インター校に通うほとんどの子どもが多言語話者で、家庭では2つ以上の言語でコミュニケーションを取っていると回答しています。このプログラムは社会的・学問的な目的で英語を学んでいる子どもを支援するものです。

子どものレベルに合わせて、EALの教師がクラスに入る、子どもをクラスから出して別教室で学ばせるなどサポートが分かれます。メインのクラスから子どもができる限り分離されない形でサポートを提供する体制が取られているんです。EALの授業風景を見てもインドや中国やスペイン語圏の子どもたちと学んでいるなど日本人で固まっているというのは見られません。クラスで日本人の子どもがいる場合も英語で会話をしているようです。これに加えて、算数などのラーニングサポート、スピーチセラピー、大勢の前で話すことが苦手な子どもに対するプレゼンテーションのクラス、などさまざまなサポートがあります。

日本だと特別支援学級として別にされがちなメンタルヘルスに軽度な問題を抱えた子どもへの支援も手厚いです。セラピーを紹介してくれたり、学校のカウンセラーがサポートをします。また、トップクラスの子どもに対する特別教室もあって、算数などが著しくできる子どもは別教室で授業を受けることができるなどがあります。

まさに一度、入学したら全力で学校の資源を使ってサポートをしてくれる体制なのです。このあたりの差で学費が違うのではないかなと感じています。反対に子どもが平均的にそつなくできるのであれば、学費が安いインター校でも問題がないと感じます。

わが家は、子どもが幼稚園の頃に夫婦ともに仕事が忙しすぎて、またコロナ禍も重なって子どもの語学教育が非常に遅れたと反省をしています。しかし、「英語に関しては学校がサポートをしっかりします。チューターなどはつける必要はありません。家庭では母国語である日本語をしっかりと学ばせてください」という学校の温かい言葉に支えられ、アルファベットすら家で教えていなかったのですが、英語で文章を書き、思考ができるようになっています。

花輪氏のお子さんは現在小学3年生。今は英語で文章を書き、思考ができるようになっているという
(写真:花輪氏提供)

インター校から海外大がほとんど、驚愕の学費におびえる親も

さて、多くのインター校で学んだ子どもたちの最終進路は欧米の大学がほとんどです。私もインター校を選ぶ際、生徒の進路実績を熟読して学校を選びました。シンガポールに長くいたいと思っていたので、できたばかりの学校ではなくて実績が十分にある学校を選びたかったからです。

そういう環境に身を置くことによって、周りがバックアップをしてくれます。進路相談ができるカウンセラー、周りの先輩の保護者や同級生の親の知識レベルが高ければ自ずと自分も引き上げられ、情報がたくさん入るからです。

現在のインター校からは米国の大学への進学率が高いのですが、懸念点として学費の高騰があります。米メディアによれば私立大学の授業料と諸費用の平均は約4万米ドル(日本円で約600万円)、州立大学(州民以外)の場合は約2.3万米ドル(約350万円)という報道もあります。

これに加えて、米国の大学に現在子どもを通わせている知人の声を聞いても、学費に加えて数百万円を仕送りしているといいます。住居費や食費などの高騰もあるからです。米国に子どもを留学させる場合、年間1000万円前後の費用が必要になりそうです。もちろん、英国やシンガポールの大学に進学させれば学費の節約は可能です。しかし、その場合は受験制度も違いますし、また別のハードルもあるのだろうと感じています。

私も夫も日本での仕事が多く、将来的に日本円の価値が減り続けていくならば、米国の学費の上昇に追いつくだけの稼ぎが維持できるのか非常に不安に感じます。また、米国の大学に入るために勉強以外にもスポーツや音楽などの秀でた才能を身に付けさせ、子どもに多様な経験をさせる必要があるともいわれています。そんな中、超富裕層と戦っていくことが共働き家庭にできるのか不安に感じるのです。次回は、富裕層が子どもたちに施している習い事の事情などをお伝えしたいと思います。

(注記のない写真:rasinona / PIXTA)