バイリンガル教育の1つの形態で、学校の教科を母語ともう1つの言語で指導する「イマージョン教育」。愛知県豊橋市立八町小学校(児童数:302名、通常7学級、イマージョン6学級、特別支援2学級)は、2020年度より、国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶ「イマージョン教育コース」を開設した。公立小学校では全国初の取り組みであり、開始から3年目を迎える。八町小学校教頭の稲田恒久氏に、イマージョン教育を取り入れた背景、授業の様子や児童の成長について取材。そしてイマージョン教育の研究を行い、21年から同校の授業視察や意見交換を続けてきた早稲田大学教育総合科学学術院教授でワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所学術アドバイザーの原田哲男氏に、公教育でイマージョン教育に取り組む意義と可能性などについて聞いた。

2020年に公立小初「イマージョン教育コース」を開設

――八町小学校でイマージョン教育を取り入れることになった経緯を教えてください。

稲田恒久(いなだ・つねひさ)
豊橋市立八町小学校教頭
1993年度より愛知県中学校英語科教員として採用される。18年度より2年間、豊橋市教育委員会学校教育課指導主事として、3年生算数豊橋版イマージョン授業の研究実践や夏休み小学生イマージョン体験講座などを企画、運営し、八町小学校イマージョン教育コース開設準備に携わる。20年度4月より現職として、イマージョン教育コースの英語を用いて行う4年、6年の社会科や日本語で行う3年、6年の国語の授業を担当し、豊橋版イマージョン教育の実践に取り組んでいる
(写真:稲田氏提供)

稲田 愛知県豊橋市では、1990年代から「臆することなく英語でコミュニケーションを図れる児童の育成を」を市の教育施策として掲げ、英語教育に力を入れてきました。

2005年に「『国際共生都市・豊橋』英語教育特区」に認定され、全国に先駆けコミュニケーションを中心とした英語の授業や小学校からの英語教育の推進、小中一貫英会話活動の推進と支援体制の整備に着手する中、17年に学習指導要領が改訂。「小学3年生から『外国語活動』として英語を学ぶ」ことになり、これまでの活動を生かして英語をもっと取り入れた学習や授業スタイルを構築すべく、市内の小学校で、「英語で学ぶモデル授業」の研究実践を始めることになりました。

市から研究実践校の募集があり、名乗りを上げたのが本校です。学習指導要領に示された学習内容の定着が確実に行われることを大前提に、最初は図工や体育など視覚的支援が比較的しやすい教科から、英語を使って学ぶ授業を始めました。

19年に、小学3年生で、1年を通して算数の授業を英語で進めたところ、一定の学習成果が得られることがわかり、20年度から正式にイマージョン教育を導入。国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶ「イマージョン教育コース」を開設しました。

英語を用いて学校生活や授業を行い、「英語のコミュニケーション能力を自分の長所として生かし、グローバル社会で活躍することができる子どもを育成する」ことを狙いとしています。

――「イマージョン教育コース」の募集はどのように行ったのでしょうか。児童の人数、構成について教えてください。

稲田 19年6月くらいから、市内の各学校を通じて広報を始めました。同年の夏休みにイマージョン授業の体験講座を開催し、9月に入学説明会、10月から募集を開始。各学年の最大定員26名(一般枠20名:帰国生、外国籍など特別枠6名※募集が定員を超えた場合は抽選)で募集し、初年度は1〜4年生がそれぞれ20名、5年生が11名、6年生が8名でスタートしました。

3年目を迎える22年度の児童在籍数は、1年生25名、2年生26名、3・4年生各25名、5年生24名、6年生21名になります。

――学区外の児童も入学できるのでしょうか。

豊橋市立八町小学校

稲田 豊橋市内在住、もしくは豊橋市内の通学区域内への転居が確実であれば入学は可能です。入学を機に校区に転居されてくるご家庭もありますが、半分以上の児童が校区外から通学しています。