「文化をつくる」ため、「当たり前の見直し」をベースに

僕は2021年9月から、PBLの実践に取り組んでいます。

『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』(スージー・ボス+ジョン・ラーマー著/池田匡史・吉田新一郎訳/新評論)

参考にしているのが、『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』という本。同書に示されている「ゴールドスタンダード」というプロジェクト設計に不可欠な7つの要素と7つの「教師の役割」を指針とし、特別活動(学級活動)の中でPBLを行っています。

具体的には、「クラスプロジェクト」と題し、クラスの仲間のためにやってみたいことの実現に取り組んでいます。前編では小学2年生の学級におけるPBLの導入の様子に触れましたが、今回はその後どのようにゴールドスタンダードを活用してクラスプロジェクトを進めていったのかをご紹介したいと思います。

ゴールドスタンダードと教師の役割は以下のとおりです。まずはゴールドスタンダードの「挑戦的な問題や疑問」については、学校の中の「当たり前」に着目しました。

【PBL実践のゴールドスタンダードにおけるプロジェクト設計に不可欠な7つの要素】
1:挑戦的な問題や疑問
2:継続的な探究
3:「本物」を扱う
4:生徒の声と選択
5:振り返り
6:批評と修正・改訂
7:成果物を公にする

【ゴールドスタンダードにおける7つの教師の役割】
1:文化をつくる
2:学習をデザインし、計画する
3:スタンダードに合わせる
4:活動をうまく管理する
5:生徒の学びを支援する
6:生徒の学びを評価する
7:生徒は夢中で取り組み、教師はコーチングする

引用:『プロジェクト学習とは 地域や世界につながる教室』

例えば、「席に着いて授業を受けましょう」「宿題を忘れずにやりましょう」といったものや、最近広がっている「〇〇学校スタンダード」なんかもそうですね。よかれと思って大人の都合を押し付けてきた結果、子どもは「指示どおりにこなす力」が身に付くものの、「自分で考え判断し行動しなくてもよい」という意識が刷り込まれてしまいました。

だから僕は、PBLを通して学校の「当たり前」を一つひとつ子どもたちと見直しています。これにより、本当の意味で「文化をつくる」ことができるのではないかと考えています。

ここをベースに「継続的な探究」として取り組むことにしたのが、「クラスプロジェクト」です。子どもたちからは多くのアイデアが出て複数のプロジェクトが誕生しました。

例えばその1つであるお化け屋敷プロジェクトでは当初、数名の子が「お化け屋敷をやってみたい!」と言い出し、わいわいと相談が始まったのですが、「学校側が許してくれるかな?」なんて声が出てきました。

そこで僕は、「大人を納得させる必要を感じたなら、まずは企画書を書いてみよう!」と声をかけ、下記のようなフレームを提示して話し合いを促しました。その時に決まった方向性は次のとおりです。

・何のためのプロジェクト?(目的の明確化)
「みんながドキドキするお化け屋敷を作って、たくさんの人に楽しんでもらう」「最初はクラスの人に楽しんでもらう。その後、隣のクラスや下学年にも参加してもらう」

・週にどのくらい活動する? いつまでに?(時間、期日、頻度の明確化)
「クラスプロジェクトの時間に計画して作る。完成は〇月〇日を目指す」

・どこで活動する?(活動可能な場所の範囲の明確化)
「教室や特別教室で、仕掛けや小道具作りなどの準備を進める」「本番の前日に飾り付けなどをする」

・どんなツール、材料が使用できる?(利用可能な物の管理)
「学校の廃品をリストアップ」「いつからいつまで使用したいかをはっきりさせる」「工具など、使用したい道具が貸し出してもらえるかどうかを確認」

・誰と一緒に活動する?(共に活動するメンバーの明確化)
「やりたい人でチームをつくるだけではなく、プロジェクトを成功させるために必要なスキルを持っている人に声をかける」

こんなふうに、教師はファシリテーター(活動の促進者)として、「教師の役割」である「学習をデザインし、計画する」をつねに意識しながら、子どもたちをサポートします。

企画書ができたら、校長先生など許可を出してくれる人に提出です。僕は、事前の根回しはしますが、交渉は子どもたち。無事に許可が出ると、早速子どもたちは具体化に向けて話し合いを始めます。

お化け屋敷プロジェクトでアイデアを出し合う子どもたち
(イラスト:田中氏提供)

僕は日頃から、「お掃除のプロはどんなふうに掃除をしているのかな?」など、「『本物』を扱う」ことを意識していますが、PBLも同じです。子どもたちに内在する「やってみたい」「学びたい」を引き出して継続的な探究を目指すためにも、「本物にこだわろう」と言い続けました。

実際、単なる「ごっこ遊び」ではなく「本物」を目指そうという雰囲気は、「よりよいものを」という姿勢を促します。

「この中で、お化け屋敷に行ったことのある人っている?」「僕、この前行ったよ。怖すぎて泣いちゃった」「怖い音楽が流れてた」「去年の6年生が学校のお祭りでお化け屋敷やってたよな」「真っ暗にするのに新聞で窓をふさいだって言ってたよ」「じゃあ試しにやってみよう!」

こうして本物に近づけようと盛り上がり、試行錯誤がスタート。やがてほかのプロジェクトメンバーも手伝い始め、みんなで力を合わせて成功させようという前向きな空気が生まれました。

プロジェクトを「自分事」にするため「部門長制」を採用

お化け屋敷プロジェクトに限らず、どのプロジェクトも真剣に話し合い、企画書を書き、準備を進めていきました。それはすべて「自分事」だからです。

ツリーハウスプロジェクトのメンバーは、企画の差し戻しがあっても粘り強く対応し、学校の許可を得てツリーハウス作りに取り組んだ
(イラスト:田中氏提供)

僕は、トライアル&エラーと振り返りを通して生まれる実感や「気づき」が子どもたちを本当の意味で成長させると考えていますが、その土台になるのが「自分事」です。自ら「これをしたい」と声を上げ、選択して決める「自己選択・自己決定」が自分事のカギ。だから僕は、「生徒(児童)の声と選択」を尊重し、プロジェクト内の役割分担も一工夫しています。

「部門長制」にして、メンバー全員の当事者意識の醸成を目指しているのです。例えば「スケジュール部門長」は、報告会から逆算して「いつまでに何をするか」などスケジュールを示し、各活動を促します。美術部門長であれば、チラシやポスターなどを作製する際のコンセプトの提示や依頼を担います。お化け屋敷プロジェクトでは、次のような会話が見られました。

スケジュール部門長:「この調子だと間に合わないから、今日の休み時間に集まってね。ポスター作りはどう?」

美術部門長:「怖いイラストが描ける人にお願いしています。明日にはできそうだって」

交渉部門長:「本番に流すBGMを放送委員会の先生に借りたいんだけど、誰か一緒に交渉に行ってくれる人いる?」

発表部門長:「いいよ~。このことも報告会の時に伝えるから、〇〇くん記録お願いね」

このように互いに仕事を担い合うことで、全体の進行具合を全員が把握し、ゴールに向けて進み続けます。

総括的評価だけではなく、形成的評価も重視

振り返り」も重要です。子どもは実感を伴った「気づき」を得たときに大きく変わりますが、その気づきを生むために僕は毎回、時間内に小さな振り返りの機会をつくっています。

例えば、冒頭の5分間では前回の振り返りと取り組み予定の確認を促し、活動の間にも「順調に進んでいますか? 困ったことがあれば相談しに来てください」と声がけをします。最後もその日の活動を振り返り、各自の気づきや悩みを全体にシェアして学び合えるようにしています。

振り返りのシェアをすると、互いに「批評」し合う機会も生まれます。批評にさらされると新たな気づきを得ることができ、プロジェクトをよりよいものへと高めていくことになるので、クリティカルシンキングの力が養われます。例えば、お化け屋敷プロジェクトのメンバーの振り返りでは、子どもたちの間でこんなやり取りが見られました。

Aさん:「暗幕を借りるために理科の先生のところに交渉に行きましたが断られてしまいました。残念です」

Bさん:「いつからいつまで借りたいか伝えたら貸してくれるんじゃないかな」

Aさん:「あ、伝えてない! 確かにそうかも」

Cさん:「うちのプロジェクトも倉庫の移動黒板を借りる交渉をするので参考にするね」

自分では気づけないことも、第三者の視点からよいアイデアが生まれることはよくあるということを子どもたちは学んだのではないかと思います。多くの場合、作品や最終的な発表会での「総括的評価」のみが行われがちですが、PBLでは、こうした「批評と修正・改訂」を繰り返し、活動のプロセスを相互に評価し合う「形成的評価」も大切にしています。

子どもたちの「自立した学び手」への成長を見て今思うこと

PBLの集大成は、「成果物を公にする」こと。僕はプロジェクトを2カ月単位とし、発表会を行っています。

例えば、前述のお化け屋敷プロジェクトは大盛り上がりの中、終了。本番後、参加者は「ファンレター」という形で感想をプロジェクトメンバーに送ります。「生まれて初めてお化け屋敷に入ったけど、めちゃめちゃ怖くて面白かったよ!」といったファンレターをもらったプロジェクトメンバーは、みんな大喜びでした。

翌日の1年生を招いてのお化け屋敷も大成功。廊下には長蛇の列ができ、怖くて途中でギブアップする子や大興奮で「もう一回入りたい!」という子なども続出し、プロジェクトメンバーはその反応を受けてさらに大きな手応えを感じていたようです。

その後、お化け屋敷プロジェクトを含む全プロジェクトがクラスの仲間の前で2カ月間の取り組みについて報告する「報告会」では、仲間からの批評に満足するプロジェクトもあれば、準備が足らず悔しい思いをするプロジェクトも。しかし、「思うようにいかなかった経験」が大きな糧になることも少なくありません。

報告会終了後には、次のプロジェクトのアイデアを出し合いましたが、新たなプロジェクトを企画する子もいれば、「もう一度同じプロジェクトを頑張る」というグループもあり、みんなクラスプロジェクトの面白さに目覚めた様子が見られました。

昨年度は1学期の間に学級づくりができていたこともあり、2学期からのPBLがうまくいった部分は大きいのですが、半年間に「ツリーハウスを作る」「リサイクルマーケットでお買い物」「クラス紹介映画を作る」などいろいろなプロジェクトを実現できました。その中で子どもたちがどんどん「自立した学び手」に近づいていくのを目の当たりにし、「ほかの教科においてもPBLのゴールドスタンダードを組み込んで学習を進めることができるだろう」という確信も得ることができました。

今年度は1年生の担任をしています。現在、PBLスタートに向けた下地づくりの真っ最中! 学級内に「文化をつくる」ため、4月当初から安心して学習に取り組むための「詩集音読タイム」「10ます計算」「百人一首」といった「お決まりの活動」の継続や、掃除などの教室内の活動における「子どもの声や選択」の機会の保障、コミュニケーションゲームを用いた「子ども同士の日常的な協働」などに取り組んでいます。僕も含め、毎日わくわくが生まれる学校生活を過ごしています。

さて、この定期連載は今回で一区切りとなります。今後PBLがどう進んでいくのか、子どもたちがどう成長していくのか、機会があればまたお伝えしたいと思います。常日頃より「教師以上にエキサイティングな仕事はない!」と感じています。よりよい未来を子どもたちと共につくるため、引き続き一緒に学び続けていきましょう。ありがとうございました。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(注記のない写真:Fast&Slow/PIXTA)