千葉県内の公立中学校教員を経て、今秋から米スタンフォード大学の教育大学院で学ぶことが決まった中村柾(まさき)さん。ほかにも、ハーバード大学、コロンビア大学など6大学に合格し、フルブライト奨学金も取得したという、まだ20代の若手教員だ。大学時代は各国で教員の実習や教育ボランティアの経験を積み、教員時代にはコロナ禍の中、子どもたちに無償で授業を教える「オンライン寺小屋」を立ち上げるなど新たな試みも行った。今回は中村さんが日本の公教育の現場から米国の教育大学院を目指した理由、そして、若い世代の教員という視点から、現在の教育現場の課題について語ってもらった。

なぜ公立中学の教員が、米国名門大学院を目指したか

現在、米国に留学するまでの間はリモートで働きつつ、全国の学校を視察しながら放浪しているという中村柾(まさき)さん。インタビュー当日は京都に滞在中ということで、リモートで取材が行われたが、「取材の前に教え子がこちらに来ていたので会っていたんです」と笑顔で教えてくれた。その笑顔はまさに、やさしい先生の笑顔だ。この後は大阪の中学校を訪問する予定だと話す。

教え子の話になると、笑顔がこぼれる中村さん

そんな中村さんは今春、米国のハーバード、スタンフォード、コロンビアを含む、教育大学院に軒並み合格。フルブライト奨学金も取得し、今秋からスタンフォードの教育大学院の修士課程で学ぶ予定だ。だが、公立教員として充実した日々を送りながら、なぜ米国の教育大学院を目指すに至ったのだろうか。

中村さんは早稲田大学国際教養学部を卒業後、千葉の松戸市立中学校の英語科教員として社会人生活をスタートさせた。教員を目指したのは、中学時代に友達に勉強を教えて、テストの点数が上がったと感謝されたことで、自分も教えていて楽しかったという原体験がきっかけだという。

「自分が相手に貢献できることがうれしかったんです。そこから高等学校、大学に進むにつれ教育に対する関心は高まっていきました。社会的にも、教育に対してさまざまな批判や課題が出ていたこともあり、実際に教育現場のど真ん中で経験しなければ何もわからないのではないかと考え、公立中学校の教員になることにしました。そこで4年間教壇に立ち、他校への転勤を含め自分の進路を考え始めたとき、日頃から生徒たちに言っているように自分も何かにチャレンジしてみたくなりました。1回、外から日本の教育を見つめ直してみたいと思ったんです」

現在27歳。中村さんは大学時代に米国に留学していた経験もあり、いつかもう一度米国で学んでみたいという思いもあった。大学時代にはアフリカやインドの学校で教育ボランティアも経験し、教員時代にはコロナ禍の中、無償で子どもたちに教えるオンライン寺小屋を立ち上げるなど、自分でチャレンジできることは片っ端から行ってきたという自負もあった。

アフリカ・エスワティニの学校での授業の様子(左)、エスワティニの学校の子どもたちと(中)、インドの学校での授業の様子(右)

コロナ禍で立ち上げた「オンライン寺子屋」

「自分は一人の教員にすぎませんが、目の前に何か課題があれば、自分で行動を起こして社会的なインパクトを与えたい。そんな思いがありました。オンライン寺小屋も知り合いの教員たちに声をかけ、35人程度で始めたのですが、3~4日で100人ほどの生徒が集まり、結局、1年間で1000件以上の個別授業を行うことになりました。その経験から『教育×テクノロジー』の可能性を見いだしたのです。テクノロジーを利用して、いかに教育の質を高めていくのか。そうした関心が高まり、そこから先端分野を研究している米国の教育大学院を志すことにしたのです」

オンライン寺子屋での授業の様子