不足が生じた場合に雇用する「臨時的任用教員」も減っている

全国にある公立学校の5.8%に当たる1897校で、「先生が足りない状況にある」ことが明らかになった。文部科学省が初めて行った調査で、昨年4月時点の数字だが、この結果が今年1月に公表されるやいなや「もっと不足していると思う」といった声が現場からは相次いだ。

教員不足の理由としては、産休や育休取得者、病休者、退職者が見込みより増えたこと、特別支援学級が増加している一方で、再任用を希望する退職者や再任用の継続を希望する人が減っていることがある。また不足が生じた場合に雇用する臨時的任用教員の講師登録名簿登載希望者数も減っており、補充したくてもできない状況が多くあるようだ。

まずは臨時的任用教員の講師登録者を増やすことが急務となるが、併せて考えるべきは新規採用を含めた教員のなり手不足を解消していくことにある。臨時的任用教員は、教員採用試験に不合格だった人が登録することが多いからだ。文科省も、新規採用者数と講師登録者数を管理しながら複数年を見越した計画的な採用を教育委員会に求めている。

止まらない教員採用試験の倍率低下、小学校は過去最低を更新

だが、新規採用につながる教員採用試験の倍率低下も止まらない。

今年1月、文科省から公表された「2021年度(20年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況」によると、全体の倍率は3.8倍で、前年度の4.0倍からさらに落ちた。小学校は前年度の2.7倍から2.6倍と過去最低、中学校は前年度の5.1倍から0.7ポイントも落ちて4.4倍、かろうじて高等学校だけは前年度の6.1倍から6.6倍へと改善した。

いったい何が起きているのか。1つには、退職者数の増加に伴う採用者数の増加がある。公立学校の年齢別教員数を見てみると、50代教員が占める割合が高く、数年のうちに多くが退職を迎えることがわかる。

 

さらに近年の採用者数増により既卒者の受験者数が減少、つまり臨時的任用教員や非常勤講師などを続けながら教員採用試験に再チャレンジしてきた層が正規採用されたことで、全体の受験者数の減少が続いているとみられる。

倍率は3倍を切ると、教員の質の維持が難しくなるといわれているが、小学校では3倍どころか2倍を切る自治体もある。

佐賀県は一歩踏み込んだ施策を打ち出す

その中の1つである佐賀県は先月、夏に加えて秋に2回目の採用試験(小学校のみ)を実施することを公表した。佐賀県教育庁教職員課の人事主幹 田中克三氏は、こう話す。

「令和に入った2019年を境にして倍率が1倍台になった。21(令和3)年度、20(令和2)年度は小学校の倍率が1.4倍と、2年続けて全国的に最も低い数字となり、教育長はじめ危機感を持って人材確保に当たらなければならなくなった。大量に採用したいのに受験者数が減っているというのが最大のネックになっており、新たな一手が必要だと考えました」

これまでも佐賀県では、受験年齢の制限撤廃や現職教員の1次試験免除などにも取り組んできたが、受験者数が伸び悩んでいたという。確かに採用試験の年2回実施は、全国的にも珍しい一歩踏み込んだ施策だ。とくに小学校の人材確保は大きな課題である。夏に実施される試験の合格発表が終わる9月下旬から再度募集を行い11月中旬に試験を実施する予定である。

「夏の採用試験をベースに人材を確保することに変わりはないが、何らかの理由で夏に受験ができなかった方や、調子を落として1回目の試験に合格できなかった方が1年待つことなくチャレンジする機会を設けたい。とにかく、佐賀県で教員として働くことを希望する人材、意欲に燃えている人材を1人でも多く確保していけたら」(田中氏)という。

さらに、これまで既卒者に対してのみ行ってきた1次試験の免除を新卒にも拡大する。佐賀大学、西九州大学のほか九州・沖縄・中国地方にある大学、大学院の中から15校程度指定し、それらの大学・大学院から推薦を受けた人に対して1次試験、いわゆるペーパーテストを免除。受験実績の高い大学に対して推薦枠を示し、優秀な人材に少しでも佐賀に残ってもらいたい考えだ。

また特別選考として「さがUJIターン現職特別選考」と「さが離島特別選考」も新設する。「佐賀県出身」「佐賀の高校に通っていた」など佐賀にゆかりがある、また移住を予定する現職教員に対する1次試験を免除し、面接のみの特別枠で選考を行う。「『佐賀UJIターン現職特別選考』は、佐賀に戻りたいが、現職が忙しくて試験勉強ができないなど、二の足を踏んでいる方の背中を押したい」(田中氏)という狙いがあり、佐賀に加えて東京にも会場を設けて面接を実施する。

一方「さが離島特別選考」は、採用後8年間の間に離島への配置、勤務を約束するもので、佐賀ならではの豊かな自然環境、地域そのものの魅力に触れたいと考える教育関係者に興味を持ってもらおうと考えたものだ。

では、こうした施策による効果をどの程度見込んでいるのか。初めてのことでまったく予想がつかないが、受験者が集まらず改善すべきことが出てくれば引き続き次年度で対応していくという。

「佐賀は、電子黒板やタブレットなどのデジタル活用にも先駆的に取り組み、現在も県教委で県立高校のノウハウを中学校に伝えるプロジェクトを進めている。デジタルが得意な方に活躍の場があり、そうした先進性に魅力を感じて来る人もいます。地域的にも県的にもコンパクトで施策も一気に進むし、歴史もあって魅力のある県。多くの人に佐賀に関心を持ってほしい」と田中氏は話す。

退職者の増加や臨時的任用教員の不足に加えて、35人学級や教科担任制の導入で必要な教員数は今後も膨らむことが予想される。全国的に定員割れや人材の奪い合いが本格化する懸念もある中、教育委員会は複数年を見越して計画的に採用を進めていかなければならない。

もちろん、なり手不足解消のため、働き方改革による環境改善は引き続き求められるが、全国一律ではなくその地域ならではの魅力や、こうした選考で特色を打ち出していくことも一考に値するだろう。

(文:編集部 細川めぐみ、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)