不満の声が絶えない教員免許更新制が廃止へ

教員免許更新制とは、小中高校の教員などを対象に10年ごとの講習を義務づけ、講習を受けなければ教員免許状が失効してしまう制度。定期的に講習を通じて最新の知識技能を身に付けることで教員として必要な資質能力を保つために、2007年の改正教育職員免許法の成立を経て、09年から実施されている。

09年4月1日以降に授与された教員免許状には10年間の有効期間があり、原則として有効期間満了日の2年2カ月から2カ月前までの2年間のうちに、大学などが開設する30時間以上の免許状更新講習を受講しなければならない(09年3月31日以前に授与された旧免許状に有効期間はないが、生年月日によって割り振られた期限までに講習を受講しなければならない)。費用の約3万円は自己負担で、休日や夏休みなどを利用して受講する必要があることなどから、不満の声が絶えなかった。

「多忙な教員にとって30時間確保するのは負担が大きい」「ただでさえ勤務時間内に仕事を終わらせることができないのに、外部に研修に行くのは大変」「講習の内容が今の時代に合わない」「実践的ではなく現場で役立っていない」「教員免許制度そのものが複雑でわかりにくい」「弁護士も医師も免許は終身制なのに、なぜ教員だけが更新制なのか」など。学校現場の負担感に加えて、グローバル化や情報化の進展で目まぐるしく変化する社会との乖離も、制度導入から10年以上が経って目立ち始めていた。

さらに更新期限を忘れて失職する「うっかり失効」が相次いだり、休職中の教員が復帰する足かせになったり、定年間近の教員が更新のタイミングで早期退職したりするなど、学校現場の人手不足に拍車をかける要因にもなっていた。

そんな教員免許更新制が22年度にも、廃止になりそうだ。廃止するには法改正が必要だが、文部科学省は今年の通常国会で法改正を成立させ、22年度の早期に廃止し、23年度からは新しい制度を始める方針。現状では未定だが、22年度末に期限を迎える教員は、更新が不要となる可能性がある。

「発展的解消」の中身、新たな教師の学びのあり方とは

ただ、文科省は教員免許更新制の「廃止」ではなく、あくまで「発展的解消」と表現している。教員免許更新時の講習に代わる新たな教師の学びのあり方を検討しているからだ。いったいどんな制度になるのか。

「まずは働き方改革に取り組んでほしい」「教職員数を増やしてほしい」「現場の声を聞いて真に役に立つ制度にしてほしい」など、早くも現場からは不安の声が聞こえてくる一方で、「教師が学び続けることに異論はない」「余裕ができれば自分で必要な学びに取り組む」といった前向きな声も多い。

教員免許更新制の抜本的な見直しを含む、教師の養成・採用・研修のあり方について検討してきた中教審の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の在り方特別部会・教員免許更新制小委員会」の委員で、これまで学校関係職員への研修や、教員の資質能力向上に関する調査研究を行ってきた独立行政法人教職員支援機構 理事長の荒瀬克己氏は、こう話す。

「いちばん大きな問題点は、講習が教員免許にひも付けされていたことです。教員免許更新制に関係なく、教員は学び続けなくてはなりません。学習指導要領の冒頭に、『主体的・対話的で深い学びの実現』とありますが、これは児童・生徒だけではなく先生にも当てはまるものです。自分に何が足りないのか、何の力をつけなければならないのか、主体性を持って学んでほしいと考えています」

荒瀬克己(あらせ・かつみ)
独立行政法人教職員支援機構 理事長
京都市立高等学校国語科教員、京都市教育委員会指導主事を経て、京都市立堀川高等学校教頭、同校校長。堀川高校在職時には、独自のアイデアで「課題探究型の学習」を導入し「探究科」を設立。探究科の1期生が卒業した2002年、国公立大学への現役合格者数を前年の6人から106人に増やし「堀川の奇跡」として注目された。その後、京都市教育委員会教育企画監、大谷大学文学部教授、兵庫教育大学理事、関西国際大学教授・学長補佐などを務め21年より現職。中央教育審議会初等中等教育分科会会長として、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」(21年1月)において、「一人一人の子供を主語にする学校教育」の実現についての方策を取りまとめる
(撮影:梅谷秀司)

新しい制度では、ある期間内に何時間かの研修を受けなければならないといった縛りは設けない予定だという。それぞれの教師が、興味があることや必要に応じて、時に校長や教育委員会などと対話を持ちながら、自ら学んでいくイメージだ。そのための学習コンテンツを集めたプラットフォームをつくり、テーマ別、レベル別に体系的かつ計画的に学べるようにする。「免許更新制がなくなることで、教員の質をどう担保するのか」という声には、荒瀬氏自身の経験を交えながらこう答える。

「もともと教員は、勉強が好きなのです。そうでなければ教員にはならないでしょう。そもそも研修は、更新時の講習だけではありません。私は典型的な『でもしか先生』でしたが、それでもいざ先生になると勉強をしました。生徒たちを目の前にして、自分の使命とは何か、考えざるをえないのです。当時は研修がありませんでしたが、同僚の先生と議論したり、一緒に勉強したりしていました。環境を整えることで教員も学ぶ意欲が湧いてくる。それが結果的に、質の高い子どもの教育につながってくるのです」

まずは、学びたいという気持ちの受け皿を整備しようということだろう。そもそもこれまで更新時の講習は「場所が近いから」という理由で選ぶことが多く、近隣の大学を中心に探したものの受講したいものはいっぱいで申し込みを締め切っていたということも少なくなかった。オンラインで学べる環境も整えることで、自身の現状、そして将来像に合わせてキャリア形成に生かしてもらおうというわけだ。

研修受講履歴の管理と有効活用へ

こうして受講した研修履歴は一覧で見ることができるようにもなる。そうなると、これまで更新講習の受講漏れがないように促してきた校長や副校長などの管理職、各学校や教員の研修を企画してきた教育委員会などの役割も変わってくる。

こんな研修を受けてはどうかという働きかけや、目標設定の手がかりになるほか、研修の受講履歴を基に求める人材を容易に探せるようにもなる。中教審の「『令和の日本型学校教育』を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて(審議まとめ)」には、「期待する水準の研修を受けているとは到底認められない場合は、職務命令に基づき研修を受講させることが必要となることもありえる」とある。どの程度の強制力があるものかわからないが、教員自身の主体性を重視しながらも、学ばない教員には何らかの対応があるということだろう。

「受講履歴を残すということが、管理でがんじがらめになると受け取られることもあるかもしれないが、履歴は自身のよさや可能性を認識できる学びの記録と前向きに捉えてほしい。研修を受けることは先生の義務ですが、研修を用意するのは自治体の責務です。もちろん、その学びの記録について管理職との対話が行われることもあり、管理職の働きが重要になってくると考えています」(荒瀬氏)

学びのプラットフォームには、どんな学習コンテンツが用意されるのか。大学や教育委員会、教職員支援機構のほか、民間企業のコンテンツなども検討されているという。

「教職員支援機構では、これまでの研修について見直し、どういう力をつけるための研修なのかを明確になる形で用意したいと思っています。現状の事例を基に学ぶ校内研修や課題別の研修、研修でファシリテートする力が身に付くような研修を推進していくのも重要になると考えています。また現在、さまざまな団体が研修を実施していますが、多様な研修を体系化してプラットフォームに載せていくのも私たちの仕事です。質の保証は難しい面もありますが、参加した人にレビューを残してもらい、それを参考にするという方法も考えています」

ただ、こうした新しい制度を進めていくには、「やはり働き方改革が欠かせない」と荒瀬氏は続ける。

「教員は忙しすぎる。いくらよい研修を用意したところで、受講する時間も気力もなければ意味がありません。やることは明確です。教員の仕事を減らして、教員の数を増やすことを真剣に考えるべきです。教員が疲弊していては、よい授業をできるはずがありません」

だが、学校の働き方改革は、残念ながら進んでいない。これをやれば解決するといった特効薬があるわけではないのが難しいところだ。

教員の仕事を減らす、教員をサポートできる人を増やす、教員そのものの数を増やす、そのためには教員の仕事に魅力を感じてもらえるよう働き方改革をしなければならないなど、一歩ずつ小さな取り組みを積み重ねることが求められる。それには予算もいるだろう。教員免許更新制に代わる新たな制度が、先生たちの負担とならないようしかるべき対策を併せて講じていくことが必要だ。

(文:柿崎明子、編集チーム 細川めぐみ、注記のない写真:EKAKI / PIXTA)