世界にだいぶ後れて動き出したICTを活用した学び

学校におけるデジタル機器の使用状況が、最下位だった日本(PISA2018)。それが新型コロナウイルスの感染拡大によって、GIGAスクール構想が前倒しとなり、全国の公立の小・中学校で「1人1台端末」とネットワーク環境が整備された。世界にだいぶ後れはしたものの、ここ日本でも2021年4月から、ほとんどの公立の小・中学校で「1人1台端末」を活用した学びが始まっている。

だが、実際の教育現場は混乱の1年だったといっていいだろう。端末は届いたが開封すらしていない。活用は始まったが、使うたびにトラブルが発生して授業が進まない。いきなり授業で使うのはハードルが高いから、日常の健康観察記録で使ってみようなど、試行錯誤をしながら少しずつ活用を進めてきた学校がほとんどだ。

そうしたGIGA端末の活用を積極的に記事でも取り上げてきたが、中でも読まれたのが「2週間で授業一変『奈良市GIGAスクール』の全貌」だ。

20年9月末という早い段階で端末の配備を終えた奈良県奈良市では、教員のために3カ月で約200回のオンライン研修を県と共催。当初から、基本的に毎日端末を持ち帰る運用とし、学校と家庭の両方で活用しながら、端末が日常使いの文房具になるゴールを目指した。パスワードの管理も子どもに任せており、「パスワードを忘れた」など、最初は1日300件ほどの問い合わせが入り教育委員会も青ざめたという。各学校が走りながら考え、困ったことがあったら互いにシェアする奈良市の積極姿勢は、「1人1台端末」の活用を本格化させる際のいい先行事例になった。

小・中の不登校過去最多の実態とオンライン支援の可能性

学校現場におけるICT活用の広がりは、不登校児童生徒の学びのあり方も変え始めている。

小・中学校における不登校児童生徒数は20年度、ついに20万人近くに達し、過去最高を記録した。その数字だけを見れば深刻な事態のようにもみえるが、登校を強制しないほうがいいという考え方が広がっていることも背景にある。「小・中の不登校過去最多『無理やり登校』避けるワケ」では、8年連続で増える不登校児童生徒の実態に迫るとともに、全国に広がる不登校特例校やオンラインを通じた学びの取り組みを紹介した。

これまでも不登校で学びの機会を失ってしまった子どもに対しては、さまざまな支援が行われてきたが、ICTが多様な教育機会の確保に有効だとコロナ禍で再認識されることになった。全国で不登校だった児童生徒が、コロナ休校下に行われたオンライン授業には参加できたという例が多くあったからだ。熊本県熊本市では、学校再開後もオンラインで学習支援を行ったところ登校できるようになった生徒もいたことから、継続して支援する体制を整えていくという。

ブラック校則を学校側に要請してきたのは社会?

学校の中の課題といえば、今年は「ブラック校則」が話題になった年でもあった。

「ツーブロック禁止」「下着の色は白」「靴下の長さは、ひざからくるぶしの3分の1以下の長さ」。今の時代にそんな校則が本当にあるのか?と、外から見れば明らかに時代遅れと感じられる校則でも、見直されないケースは少なくない。だからといって、社会が学校を批判することが正しいことなのか。これまで学校側に要請をしてきたのは社会の側ではないのかーー。

「学校批判は的外れ『ブラック校則』なくならない訳」では、ただ校則の是非を問うのではなく、学校で当たり前となっている校則やルールを対話的な見直しを通じて、生徒の自主性や主体性を育む「ルールメイカー育成プロジェクト」を取り上げた。

認定NPO法人カタリバ が進めるプロジェクトで、学校現場にいる当事者たちが集まり、議論をして問題を解決していくことで、校則を見直していく。「ツーブロックを解禁してほしい」「靴下の色を自由に選べるようにしてほしい」が、実際に対話を始めると「なぜそんな校則ができたのか」「今も必要な校則なのではないか」など、さまざまな視点から本質を探る必要が出てくる。

ブラック校則があると騒ぎ立てるのは簡単だが、実際に見直すときはどうしたらいいのか、カタリバ では教材やノウハウも提供している。

自己決定しなければ主体性は生まれない

こうした子どもの主体性を育てることは、新しくスタートしている学習指導要領でも大きなキーワードになっている。

麹町中学校の元校長で、現在は横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一氏は、「自ら考え、自己決定しなければ主体性は生まれない」と話す。

工藤氏の動向は、つねに教育関係者の注目の的だが、「今、日本の教育は“サービス提供型”になっている。あれもしなさい、これもしなさいと、子どもたちは過度に手をかけられていて、与えられることに慣れてしまっている。本当に大事なのは、自分で考える力をつけることなのに、学力だけを注視して勉強時間を増やすことが目的になってしまっている」と警鐘を鳴らす。

そこで横浜創英では今、こうした受け身の学び方に一石を投じる、自律した生徒、さらには自律した学校をつくるための改革に取り組んでいる。詳しくは「『与えられることに慣れた』子どもの残念な行く末」を読んでほしい。

なぜ、受け身の学び方から抜け出せないのか。そこには学力や偏差値を重視してきた日本の学歴社会が根本にあるのではないだろうか。

偏差値教育で自信を失った子に光を当てる高校

そんな偏差値教育で自信を失った子、がんじがらめの教育になじめない子の可能性を引き出そうと奮闘する校長がいる。札幌新陽高等学校の荒井優氏だ。「偏差値教育で『自信失った子』伸ばす学校の素顔」では、ソフトバンクの社長室から学校長に転身した民間出身の荒井氏の改革に迫った。

身売り案が出るほど追い込まれていた高校を立て直した経営手腕もさることながら、「今までの学校教育が光を当ててこなかった層に届くような教育をしっかり構築すれば、可能性はある」と、並々ならぬ熱意でユニークな探究型の学びにチャレンジしていた。目指すのは、「本気で挑戦する人の母校」。今後が楽しみな高校の1つだ。

コロナ禍で広がる公立と私立の格差、小学校受験が超人気

一方で、コロナは偏差値教育の象徴とも言うべき受験競争をいっそう過酷にしている。首都圏を中心とする中学受験の過熱化は以前よりいわれてきたが、小学校の受験熱が高まっているのはご存じだろうか。

コロナ禍で公立の小学校が一斉休校となる中、私立小学校はオンラインで授業をいち早く再開させたことなどから、私立に対する信頼が高まった結果と考えられる。「志願倍率10倍超えも『小学校受験』超人気の理由」では、今人気の小学校とその理由、教育の特徴について詳しく取り上げた。

だが、私立の小学校の学費はかなり高い。年間で150万円程度、6年間で1000万円はかかるといわれる。コロナで公立と私立の教育環境の格差が明らかとなったが、私立に行かせることができる家庭なのかどうか、親の収入による教育格差も浮き彫りになってきている。

生まれ育った環境により教育結果に差がある教育格差

教育格差は、教育界のみならず社会全体で向き合うべき課題だ。教育格差とは、生まれ育った環境により学力や最終学歴など教育結果に差があることをいう。コロナ禍の親の収入の減少や休校の影響で、教育格差がいっそう深刻化しているという調査結果もある。

日本について「“生まれ”によって何者にでもなれる可能性が制限されている緩やかな身分社会」と話すのは、早稲田大学准教授の松岡亮二氏だ。教育社会学が専門の松岡氏にインタビューした「『都市vs地方』生まれによる教育格差の深刻度」では、生まれ育った出身地域による差について掘り下げた。

都市出身か、地方出身か、はたまた三大都市圏出身か、非三大都市圏出身かで明らかに最終学歴に差があること、その理由を解説してもらうとともに解決策を探った。すぐに解決できる問題ではないが、一人ひとりの子どもが自分の可能性を追求することのできる社会となるために、多くの人が教育格差の現状を知っておく必要がある。

無意識バイアスがジェンダーギャップを拡大させる

格差を取り上げた記事では、ジェンダーギャップに焦点を当てた「ITやプログラミングから女子中高生が遠のく訳」も非常に読まれた記事だ。

17年のOECD(経済協力開発機構)の調査では、大学のSTEM(理系)分野の女性割合において、日本は工学系や数学系で加盟国中最下位という結果が出ている。これが将来の職業選択にも直結しており、技術者の男女比に大きな影響を与えている。

成長著しいIT業界も、女性技術者の少なさが課題となっている業界の1つだ。技術職の男女比に偏りがあったとしても、大して困らないだろうと思う人も多いかもしれないが、AIのアルゴリズムや学習データに男女の偏りがあると、AIも性差別をしてしまうようになるという。

現状の男女比が無意識バイアスとなって、さらに理系分野に進む女性が減ってしまう。そんな負の連鎖を断ち切ろうと、IT分野のジェンダーギャップを解消することを目指すスタートアップがある。Waffleだ。記事では、そんなWaffleの無意識バイアスを払拭したいという強い思いや中高生向けオンライン・コーディングコースの中身を取材した。

異色のキャリア、フリーランスティーチャーという働き方

学校における最大の課題は、働き方改革ではないだろうか。そうは思うものの、この1年の間に働き方改革が顕著に進んでいる学校現場に、残念ながら出合うことができなかった。

ただ、そんな働き方改革が急務な現場だからこそ、当初から東洋経済が注目してきたのが、フリーランスティーチャーという異色のキャリアで活躍する田中光夫氏だ。連載「フリーランスティーチャーの視点 ~ココがヘンだよ 学校現場~」では、学校に身を置きながらも組織とは一線を画す存在として、効率的に働く田中氏の独自の実践アイデアなどを取材してきた。

中でも読まれたのが、「SNSで教員が『絶対やってはいけない』3つのこと」。

教材研究や授業準備に熱心な田中氏だが、デジタル領域のアップデートも欠かさない。SNSを通じた情報発信もTwitter歴9年、Facebook歴8年とかなりのエキスパートだ。そんな田中氏が、先生がやってしまいがちな過ちや炎上につながる可能性のある発信を細かく解説。田中氏の経験も交えながら、教員の情報発信に関する注意点をまとめている。

SNSはこれからという人も、恐る恐る使っている人も、自分は大丈夫だと思っている人も一度は読んでおきたい。

教員免許更新制が廃止へ

最後に、もう1つ人気の連載を紹介しよう。教育研究家 妹尾昌俊氏による連載「今変わらなくて、いつ変わる? 学校教育最前線」だ。時流のテーマを丁寧に、時に辛口に解説してもらう連載で、「教員免許更新制に代わる『新制度』の気になる中身」は、21年の妹尾氏の連載でいちばん読まれた記事だった。

中央教育審議会は21年11月、教員免許更新制の発展的解消を正式に決定した。なぜ「廃止」ではなく、「発展的解消」なのか。10年に一度の更新講習に代わる新たな教師の学びの仕組みとは、どんなものなのか。中教審がまとめた審議まとめからは、まったく見えてこないという厳しい指摘が続くのだが、多くの読者から反響があった。

実際、どんな学びの制度となるかはこれからだが、引き続き22年に注目すべきトピックであることは間違いなさそうだ。

いかがだっただろうか。10選で1年を振り返るのには無理があるが、読者が関心の高い分野や大きなトレンドはつかめたのではないか。関連記事も多いため、併せて21年を振り返ってみることをお勧めする。

(文:編集チーム 細川めぐみ、注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)