コロナ対応で学校が回らない

子どもにも感染力の強いデルタ株が市中に広がっていることもあって、今、各地の学校は、コロナ対応にいっそう神経をとがらせている。消毒、手洗い、マスクなどの通常の感染予防対策に加えて、分散登校にしたり、いわゆるオンライン授業※1を実施したり、対面授業とオンライン授業とを組み合わせたりと、さまざまな工夫が各地で行われている。

ここ1年半をざっと振り返るなら、部活動など学校の教育活動の中でのクラスターも発生しており、決して楽観視はできないが、児童生徒の感染は家庭内ルートが多い。教職員と児童生徒は感染予防に非常に尽力していて、一定の功を奏していると評価できるのではないだろうか。

ただし、そこと裏表の関係にあるのだが、先生たちの業務は増える一方だし、精神的な負荷も重いままだ。「学校現場は疲弊しきっている」と述べる関係者もいて、夏休み中は多少ゆっくりできたかもしれないが※2 、この9月が、ぷっつり糸が切れるような状態にならないか、心配だ。

教職員自身が感染したり、濃厚接触者となったりするケースはもちろんあるし、子どもの保育園、小学校が休園・休校となり、仕事を休まざるをえない先生たちも増えている。濃厚接触者となれば2週間勤務できない。

こうした中、もともと少ない人員で運営していた学校が「回らなく」なってきているのだ。

妹尾昌俊(せのお・まさとし)
教育研究家、合同会社ライフ&ワーク代表
徳島県出身。野村総合研究所を経て、2016年に独立。全国各地の教育現場を訪れて講演、研修、コンサルティングなどを手がけている。学校業務改善アドバイザー(文部科学省委嘱のほか、埼玉県、横浜市、高知県等)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁において、部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員も務めた。Yahoo!ニュースオーサー、教育新聞特任解説委員、NPOまちと学校のみらい理事。主な著書に『教師と学校の失敗学 なぜ変化に対応できないのか』(PHP新書)、『教師崩壊』(PHP新書)、『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)、『学校をおもしろくする思考法 卓越した企業の失敗と成功に学ぶ』『変わる学校、変わらない学校』(ともに学事出版)など多数。5人の子育て中
(写真は本人 提供)

一向に解消しない教師不足、講師不足

ギリギリの人員体制で綱渡りという意味では、とりわけ小学校が深刻だ。もともと、教科担任制を前提にしている中学校や高等学校と異なり、学級担任がさまざまなことを担うのが前提の制度(教員数の決め方)なので、大規模校を除いて、学級担任を持たない教員は少人数しか配置されていない。中学校と高校では副担任がつくのとは大違いだ。

1人の先生が担当している授業数(コマ数)も多い。少し以前のデータとなるが、文部科学省の2016年の調査によると、週26コマ以上担当している小学校教諭は約半数。26コマ以上ということは、ほぼ毎日5~6時間びっしり埋まっている。中学校と高校はそこまでの人はまれだ。しかも、学習指導要領改訂により英語が増えたので、昨年度から小学校の授業負担はこの調査時点よりも増えている。

学校規模や教育委員会の施策にもよるので一概には言えないものの、3~4人の先生が休むと、途方に暮れる(授業をする人がいない)という小学校もかなりの数に上るのではないか。

実際、コロナ前からの問題であるが、病気休職や産休・育休の人が出たとき、代わりとなる講師の先生がなかなか見つからない状況はここ数年続いている。そのため、教頭、場合によっては校長が担任の代行をするような小学校もある。

教員採用試験の倍率低下に始まる人手不足の悪循環

どうして、こんなことになるのか。背景はやや複雑だ。多くの場合、教員採用試験に不合格だった人が講師登録をして、正規には採用されなかったが、臨時の講師として活躍するというケースが一般的だ。だが、ここ数年、小学校の教員採用試験の倍率が下がっている(地域差はあるが)。

つまり、こういうことだ。

教員採用試験の倍率低下
⇒不合格者の減少
⇒講師登録者の減少(講師バンクの枯渇)
⇒病休や産休育休の代替要員がなかなか見つからない
⇒各学校は今いる人員で何とかするしかない
⇒各学校はさらに疲弊する
⇒そんな職場では働きたくないと敬遠する人や離職する人も
⇒教員採用試験の倍率低下

という悪循環に陥っている。加えて、事態をより複雑にしていることがある。

前述したように日中は授業がびっしり入っており、授業準備や事務作業などが勤務時間外に及ぶケースも多い。そのため、部活動がない小学校であっても、長時間労働の問題は依然として深刻だ。

コロナや友達関係、家庭問題などで登校や日常生活に不安がある子どもや保護者の相談、ケアも、学級担任らが担っている。事実上カウンセラーやソーシャルワーカーといった役割を教師は果たしている。カウンセラーやソーシャルワーカーの専門職が活躍しているケースもあるが、多くが非常勤職であり、相談できる日も限られている。結果的には担任が“ワンオペ”でさまざまなことを担わざるをえないケースも多い。

学校でやることは減ることはまれで、増える一方だ。最近ではコロナ感染の抗原検査を学校(教職員)で実施できるように文科省は働きかけている。

教職員数はほとんど増えそうにない

数人の教員が濃厚接触者等になり休むと、機能不全に陥りかねない、脆弱な体制だ。教職員の感染が多かったある市では、市教育委員会の職員が応援に駆けつけるなどしていたが、これが複数校で起きたら、いかんともしがたい。業務量も精神的な負荷も高まる一方の養護教諭(いわゆる保健室の先生)も頑張り続けている。教員以外のスタッフは少なく、雇用が不安定な非常勤も多い。

こうした実情は、文科省や都道府県教育委員会なども承知しているはずだが、私が見る限りでは、冷淡である。「何とか現場で工夫して、この危機を乗り越えましょう」という精神論になっている印象も受ける。

例えば、この8月に公表された、文科省の来年度予算に向けた概算要求を見てみよう。概算要求とは、こういう案で財務省と折衝していきますよ、というものであり、今後の財務省査定で削られる可能性もある。

次の資料はその一部であるが、小学校の教科担任制の一部導入と、35人学級の推進によって、教員数を増やす要望を出している。教科担任制により全国でプラス2000人との内容だが、全国の小学校は何校あるかご存じだろうか?

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出所:文科省「令和4年度 概算要求のポイント」

答えは約2万校である(正確には1万9526校、文科省「令和2年度 学校基本調査」)。なので、プラス2000人では10校中1校で1人増えるかどうか。4年間で8800人程度増やす計画のようだが、それでも、2校で1人増えるか増えないかというものだ。

35人学級については、以前から私は申し上げてきたが、持ち授業数は変わらないので、多忙解消には大きくはつながらない※3

この資料の後段には「学校における働き方改革や複雑化・困難化する教育課題への対応」とあるが、微々たる人数の予算要求である。

教職員増は大きな財政負担となるので、毎年財務省は消極的であるし、むしろ減らそうとしている。文科省はその財務省相手によく奮闘していると評価できるかもしれないが、概算要求の段階で上記のとおりなので、文科省は本当に学校(とりわけ小学校)の窮状に向き合おうとしているのか、私には見えてこない。

文科省はこんな教育を推進したいという理想は掲げるのだが、「兵站(へいたん:ロジスティクス)無視」だと、これまでもたびたび批判されてきた。例えば、教育行政の専門家である青木栄一教授も著書の中で、文科省は「『政策実現手段』に無頓着である」「資源制約を考慮せず前線の努力に丸投げする」(『文部科学省 揺らぐ日本の教育と学術』中公新書)と評している。

この悪い癖がコロナ禍でさらに教育現場を苦しくしているような気がしてならない。

文科省だけを悪者にしたいわけではない。私は著書や研修などで何度も繰り返しているが、例えば、学校の多忙の問題は、学校裁量や教育委員会の施策で改善できるものも多い。何でも国頼みとする姿勢は問題だ。

とはいえ、各地の学校が回らないような状況に文科省は無策でいていいとも思わない。「ロジスティクス無視」の汚名をそそぐ行動を起こしてほしい。

※1 オンライン授業とは、ここでは、ウェブ会議などを使って同時双方向性のある授業をイメージする
※2 念のため申し添えると、児童生徒の夏休み=教職員も休みではない。とはいえ、授業がびっしりある普段と違って、子どもたちの長期休業中は先生たちは多少ゆとりがある
※3 妹尾昌俊「【少人数学級の影、副作用】先生の忙しい日々は改善する? 悪化の可能性も」

(注記のない写真はiStock)