2年ぶりの全国学力・学習状況調査、上位は?

全国の小学校6年生・中学校3年生を対象に行われた全国学力・学習状況調査の結果が公表された。2年ぶりの調査となるが、今年の平均正答率上位の都道府県は次のとおりである。

小学校・中学校ともに国語と算数・数学で石川、秋田、福井の3県がトップ3に位置している。これは2年前に行われた調査とほぼ同じ結果だ。その中でも今回は、東京が健闘し上位に入っている。

石川、秋田、福井のトップ3県は記述式の設問に強い

まず特筆すべきは、石川、秋田、福井の「記述式」問題の正答率の高さである。小学校・中学校ともに国語と算数・数学を通して全国平均を大きく上回っている。一方、東京は全体の設問を通して、平均を少しずつ上回っている。

小学校国語で、石川、秋田、福井が全国平均を最も大きく上回った記述式の設問は、文章のリライトを求めるものだった。「遊具は掃除担当の人が片付ければよい」と考える人を説得するために、丸山さんが書いた【文章の下書き】の一部を書き直す。ただし、次の条件を満たす必要がある。

〈条件〉
○「そうじたん当の人などがかたづければよい」という考えに反対する意見と、その理由を書くこと。
○【西田さんの話】から言葉や文を取り上げて書くこと。
○六十字以上、百字以内で書くこと。

「全国学力・学習状況調査【調査問題】」2021年

丸山さんの文章と西田さんの話という複数の情報を関連させながらリライトするという小学校6年生にとってはハードルの高い設問だ。全国平均正答率は56.6%。その中で石川は72.8%(全国平均より+16.2ポイント、以下カッコ内の数値は全国平均との差)、秋田は69.0%(+12.4ポイント)、福井は67.0%(+10.4ポイント)と全国平均を大きく上回った。一方、同設問の東京の正答率は55.3%と全国平均を1.3ポイント下回った。

これは国語の授業で、複数の情報を関連づけたり、それらの違いや共通点を意識したりするなどの学習が丁寧に行われているかどうかの違いによると考えられる。これは学習指導要領で重視されている「言葉による見方・考え方」にもつながる。

一方、小学校算数で石川、秋田、福井が全国平均を最も大きく上回った記述式の設問は、数式の意味を言葉や図を使って説明することを求めるものだった。

【4】(3)
30mを1としたときに12 mが 0.4にあたるわけを、【ゆうまさんの説明】と同じように、0.1 にあたる長さがわかるようにして、言葉や数を使って書きましょう。

「全国学力・学習状況調査【調査問題】」2021年

全国平均正答率は51.5%。その中で石川は63.3%(+11.8ポイント)、秋田と福井は60.5%(+9.0ポイント)と全国平均を大きく上回った。東京は正答率51.3%と全国平均を0.2ポイント下回った。

上記設問は、小学校6年生には難しい設問にも思える。しかし、実はこの設問の直前に【ゆうまさんの説明】として、14mが20mの0.7倍に当たることが図や文で示されている。極論すると、その説明の数値を入れ替えれば正答を導き出すことができるのだ。

にもかかわらず全国での正答率が低かったのはなぜか。それは設問直前の【ゆうまさんの説明】を理解できない子どもが多かったためと考えられる。その証拠にこの設問は小学校算数の中で無回答率が高い。全国平均で10.3%である。一方、3県の無回答率は、石川4.7%、秋田4.5%、福井6.6%と全国平均を大きく下回った。

これは、算数の授業で数式の意味を論理的に考え、わかりやすく説明するという学習がきちんと行われているかどうかの違いによると考えられる。これも学習指導要領の「数学的な見方・考え方」につながる。

OECDのPISAで問題となった日本の子どもの無回答率の高さ

OECD(経済協力開発機構)が主催するPISA(国際学習到達度調査)では、日本の子どもたちの無回答率がOECD平均に比べとくに高いことが明らかとなった。自信があれば答えるが、自信がないと答えることを放棄してしまう子どもが多いのである。

国際調査と国内調査の違いはあるが、そういう状況の中で全国学力・学習状況調査での石川、秋田、福井の無回答率平均は、全体として全国平均よりかなり低かった。とくに記述式に絞ると無回答率平均は同じ上位県でも次のとおりの差がある。

これからの世界や社会では、簡単に答えが見つからないことのほうが多い。答えがわからなくても挑戦してみるということは、子どもの学力・能力として重要なものである。だからといって「難しい設問でも諦めずにすべてに答えるんだよ」と教師が告げても無回答率は下がらない。重要なのは普段の学校での授業のあり方だ。ただ正答を求めるのではなく、質の高い課題に対し、自ら考え、グループや学級で話し合いながら試行錯誤を繰り返しつつ解決に迫っていく授業を行っていくしかない。

学校質問紙から見える3つの共通点

各教科の調査と同時に行われた学校での取り組みなどについて聞く「学校質問紙」の回答からも、石川と秋田には共通する傾向が見られる。

以下のA〜Dの設問については「1.よく行った」と答えている割合が、石川と秋田ではとくに高い(以下、「1.よく行った」と答えた上位4県の割合と全国平均との差を示す)。

A 授業において、児童・生徒自ら学級やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、表現するなどの学習活動を取り入れましたか
【小学校】石川+7.5/秋田+9.5/福井-4.5/東京+1.9
【中学校】石川+7.2/秋田+10.2/福井+7.3/東京+1.9
B 児童・生徒の発言や活動の時間を確保して授業を進めましたか
【小学校】石川+8.2/秋田+8.6/福井0.0/東京-0.4
【中学校】石川+6.7/秋田+10.7/福井+2.5/東京-6.6
C 家庭学習の取り組みとして、学校では、児童・生徒に家庭での学習方法等を具体例を挙げながら教えるようにしましたか(教科共通)
【小学校】石川+9.4/秋田+25.0/福井-8.7/東京-10.6
【中学校】石川+18.8/秋田+25.4/福井+12.3/東京-10.8
D 家庭学習の課題の課し方について、校内の教職員で共通理解を図りましたか(教科共通)
【小学校】石川+12.6/秋田+30.1/福井-11.6/東京-9.9
【中学校】石川+23.0/秋田+22.0/福井+11.1/東京-11.5

「全国学力・学習状況調査【都道府県別】学校質問紙」2021年

1.「対話的な学び」を重視した授業

AとBは、普段の授業がどういう形で行われているかを示している。授業には講義型、問答型などさまざまな形があるが、中でも石川と秋田は「対話型」の授業が多いことがうかがえる。学習指導要領で重視されている「対話的な学び」である。

ただ正解を求めるのではなく、ハードルの高い課題に対し、自ら考え、グループや学級で話し合いながら試行錯誤を繰り返しつつ解決に迫るという授業である。例えば秋田ではそのような形の授業を「探究型授業」と呼び、県内の小学校・中学校で行っている。これらの取り組みは、難しい問題での無回答率の低さとも関係している。

2. 家庭学習への手厚いサポート

Cは家庭学習への指導がどこまで丁寧にされているかを示す。秋田は通塾率が極めて低く、それを補う意味で家庭学習への指導が丁寧に行われているのである。石川は通塾率がとくに低いわけではないが、それでも家庭学習の指導を手厚く行っている。石川が上位を占めた理由の一端がこのようなところからもうかがえる。

3. 教職員のチームワーク

Dは、教職員のチームワークの質を示唆している。教職員相互の同僚性の高さ、さらに授業研究など校内研修会での共同研究の質とも関わっていると推察できる。

学力向上を支える石川と秋田の取り組み
1.「対話的な学び」を重視した授業
2. 家庭学習への手厚いサポート
3. 教職員のチームワーク

学力向上の取り組みは、さまざまな角度からさまざまな方法で行っていく必要がある。とはいえ、どの地域においても1.「対話的な学び」を重視した探究的な授業、2. 家庭学習への丁寧で手厚いサポート、3. それらの指導の質を高める先生方のチームワークが柱となっていくことは間違いない。

阿部昇(あべ・のぼる)
秋田大学大学院 教育学研究科 特別教授
東京未来大学特任教授。秋田大学名誉教授。教育研究者として、約40年にわたり小中高の授業の研究を行ってきた。専門は教育方法学、国語科教育学、授業研究。秋田県教育委員会・検証改善委員会委員長として12年間、秋田の学力について調査・提言を行ってきた。日本教育方法学会常任理事、全国大学国語教育学会理事、日本NIE学会理事。国語科教育専門サイト「国語授業の研究ノート」を運営

(注記のない写真はiStock)