もう夏休みも終わりですね。コロナ禍ということもあり、以前よりも長い時間をお子さんと過ごされた保護者の方も多いのではないでしょうか? 中には、すでに新学期が始まっているという学校もあるかもしれませんね。

意外なようですが、僕は子どもを持つ保護者の皆さん、そして学校や学童保育の先生などからたくさんの相談を受けます。日ごろ子どもたちと接する機会の多い教育関係者の皆さんですら、「子どもってよくわからない」と思っている方は多いのです。

ある日のふとした経験が突然、彼らを成長させることもありますし、逆に誰かのちょっとした一言で落ち込みふさぎ込んでしまったりします。先生と児童生徒の年齢が大きく離れていることで、そんな彼らの心の動きが、うまく読めないという大人の方が増えているのです。

今回は、現代の若者の心模様が描かれた本を、3冊ご紹介します。皆さんが彼らを少しでも理解できるようなきっかけになればと思います。

西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、オリジナルの勉強法を開発。崖っぷちの状況で開発した「思考法」「読書術」「作文術」で偏差値70、東大模試で全国4位になり、2浪の末、東大合格を果たす。そのノウハウを全国の学生や学校の教師たちに伝えるため、2020年に株式会社「カルペ・ディエム」を設立。全国5つの高校で高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。著書『東大読書』『東大作文』『東大思考』(いずれも東洋経済新報社)はシリーズ累計38万部のベストセラーとなっている
(撮影:尾形文繁)

今の若者たちの周りにある「空気」がよくわかる作品

『小説 東のエデン』(メディアファクトリー/KADOKAWA)著/神山健治

まず最初にご紹介したいのが、神山健治著『小説 東のエデン』(メディアファクトリー/KADOKAWA)です。

「100億円を与えられてこの国を救えるか?」をテーマにした作品です。主人公たちは「100億円で日本をよくする」という謎のゲームに巻き込まれて、日本を変えるために奔走するという話になります。

この作品は、今の若者たちの周りにある「空気」がよくわかる作品です。100億円なんてぶっ飛んだ設定でありながら、ここに出てくる少年少女たちは本当に現実にいそうな若者たちで、大学での人間関係や就活でさまざまな問題を抱えながらも頑張ろうとしています。そして、この作品で伝えているのは、そんな彼ら彼女らの周りにある「諦観」という空気感です。

みんな何かを諦めていて、みんなどこかで「まあいいや」と考える。そんな人たちが大多数で、何かを努力する人なんてつまらないと一蹴される。少子高齢化で子どもよりも大人のほうが圧倒的に多くなった日本では、新しいことをやろうとするよりも、今までどおりでいいんじゃないかと考える空気感があって、それにみんなのまれている……。そういうことがわかる作品だなと思います。

「大人」と「子ども」の境目とは

『明日の子供たち』(幻冬舎)著/有川浩

次は、有川浩著『明日の子供たち』(幻冬舎)です。

大人になるためには、何が必要なのでしょうか。僕は自分が「大人」だとは胸を張って言えませんし、たぶんこの本を読む読者のほとんどが、この問いを自分にするのだと思います。

この本は、「児童養護施設」を舞台にしており、その話を通じて、「大人」と「子ども」というものの境目を、そして子どもが大人になるために必要なことを、読む人に考えるきっかけをくれる本です。

「聞き分けのいい子ども」や「大人より大人びている子ども」が登場し、そこで生きる「子ども」の内面の成熟、“一人で誰にも頼らずに生きていかなければならない”という心の内側に驚かされます。そしてそんな子どもたちと真剣に向き合い、時に泣き、時に笑いながら懸命に働く職員たちの姿に驚き、そして感動する……という作品です。

その中で、自分は本当に大人なのだろうか、この子どもたちのほうがひょっとしたら大人なんじゃないか、なんて考えて、 子どもと向き合う目線が大きく変わっていくのではないかと思います。

狭い水槽の中で、生きなければならない現代の若者たち

『青春離婚』(星海社)漫画/HERO 原作/ 紅玉いづき

最後は、紅玉いづき原作のコミック『青春離婚』(星海社)です。

高校生の青春時代というのは、とても多感で、苦しくて、それでいて甘酸っぱい時期です。自分の人生というものを本気で考えて、正しいか間違っているかわからないけれど進んでいく。でも、そこまで大人にもなれないから、何かが毎日の容量の大部分を占めたりする。本当にささいなことで思い悩んで、どうでもいいことで救われてしまったりします。

そんな青春時代にあって、この物語は高校生の精神の揺れ動き方をよく表しています。

この物語の裏側にあるのは、学校という閉鎖空間における生きづらさです。誰が悪いわけでもないのに、集団というのは時に個人に暴力的になりがちです。SNSで個人がすぐにつながれる時代において、それは本当によく発生していることだと思います。

ここでは、それを水槽に例えています。狭い水槽の中で生きなければならないのが、現代の若者たちである、と。主人公は「旦那さん」から教わって、上手な息の仕方を覚えていく。そして、彩りのなかった生活が、ワクワクする出来事で色づいていくのです。

それは、もしかしたらほかの誰かにとっては何でもないことで、違う人から見れば取るに足らない出来事なのかもしれないけれど、彼女にとっては毎日のすべてで、明日を生きる人生の糧だった。確かに、青春時代というのはそういう要素をはらんでいます。

何でもないことに、救われてしまったりする。どうでもいいことが明日の希望になったりする。そして、ほんのささいなことで、そんな希望に裏切られたりする。この物語は、そんな当たり前の青春を教えてくれます。

いずれの作品も、今の子どもたちの状況が生でわかる作品なのではないかと思います。「子どもってよくわからない」と悩んだとき、手に取ってみてはいかがでしょうか。彼らを理解するきっかけがつかめるかもしれません。

(注記のない写真はiStock)