プログラミング教育とは

現代社会ではコンピューターを適切に活用することがますます重要になっています。2000年代以降になるとIT長者、ITベンチャーといった言葉も一般に広まり、プログラミングができればあらゆることをデジタル化させることができたり、さらにはそれが仕事になったりといったイメージを持つ人も多いでしょう。

ですが、学校教育におけるプログラミング教育は、アプリケーションなどを開発するための技術・知識を学ぶことだけが目的ではありません。

プログラミングという“題材”を通して、物事を分解して考える、あるいは順序立てて捉えるといった思考を身に付け、それによって各教科の学びを深めることがプログラミング教育のゴールです。

それぞれ新学習指導要領が開始となるタイミングで、小学校は2020年度からプログラミング教育が必修化され、中学校は21年度から技術・家庭科でプログラミング教育が拡充。高等学校では22年度から「情報I」で全員がプログラミングやデータベースの基礎などを学ぶことになります。

海外各国でも初等教育からプログラミング教育が導入されており、プログラミング教育を行うことで、これからの時代を担う子どもたちの可能性を広げることが期待されています。

必修化の目的

繰り返しになりますが、プログラミングの必修化は、プログラマーを育成することではありません。ほかの教科と同じように、子どもの可能性を発掘し、広げていくことが目的です。

加えて、プログラミングを学ぶことで、コンピューターの仕組みを理解して活用できるようになるなど「情報活用能力」を高めることも狙いの1つとして定められています。

文部科学省の方針と、小・中・高等学校におけるポイント

文科省は2019年、「小学校プログラミング教育に関する概要資料」を発表しました。

この資料によると、プログラミング教育では小・中・高等学校で共通のポイントと、それぞれで固有のポイントを掲げています。それぞれについて見ていきましょう。

小・中・高等学校共通のポイント

小・中・高等学校共通のポイントとして、文科省は次の2点を挙げています。

・情報活用能力を、言語能力と同様に「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ
・学校のICT環境整備とICTを活用した学習活動の充実に配慮

文科省|小学校プログラミング教育に関する概要資料

 

まずキーワードになるのが、「情報活用能力」です。

情報活用能力は、「各教科の学びを支える基盤」と捉えられており、具体的には以下の3つの要素が情報活用能力を構成する資質・能力として挙げられています。

・知識及び技能
・思考力、判断力、表現力等
・学びに向かう力、人間性等

また、すべての児童・生徒に1人1台のICT端末を配布するというGIGAスクール構想によって、学校のICT環境整備に拍車がかかっています。

小学校におけるポイント

小学校におけるプログラミング教育のポイントは、「プログラミング的思考」を育成することです。

プログラミング的思考とは、ある動きの組み合わせを考えて、どう組み合わせるべきなのか、どう改善すればより意図した動作につながるか、ということを論理的に考える力のことを指します。

例えば実際にプログラミングを体験しながら、コンピューターに意図した処理を行わせて、論理的思考力を身に付けるようなカリキュラムが想定されています。

また、独立した科目としてプログラミングの授業があるわけではなく、算数など既存の教科の中で指導していくことが前提となっています。この背景には、プログラミング教育によって各教科の学びをより確実なものにすることも折り込まれています。

中学校におけるポイント

中学校におけるプログラミング教育のポイントは、技術・家庭科で情報セキュリティーに関する分野を充実させている点です。

また、2021年度にスタートした新学習指導要領では、これまでになかった「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」という部分が改訂されました。

これまでのような専用のソフトウェアを使ったプログラミングだけではなく、入力した情報に対する応答をネットワークを利用して行うようなプログラミングも指導内容に組み込まれています。例を挙げると、AIによる画像認識技術で、社会問題の解決のためのコンテンツを作る授業などが想定されています。

このように実生活や社会における問題解決に結び付いた学習の中で、プログラミング的思考を身に付けていくのが、中学のプログラミング教育の特徴です。

高校におけるポイント

高校におけるプログラミング教育のポイントは、必修科目として「情報Ⅰ」が新設される点です。

加えて、選択科目として「情報Ⅱ」が用意され、専門的な技術・知識を深めたい生徒がより発展的なプログラミングを学べるように設計されていることも特徴です。ここではネットワークやデータベースの基礎を学ぶことができるだけではなく、重要視されている情報活用能力を伸ばすカリキュラムが想定されています。

さらに2021年3月に、独立行政法人大学入試センターは、2025年の大学入学共通テストから受験科目に「情報」が加わることを発表しました。

公開されているサンプル問題には、通信の仕組みやネットワークについての理解を問うもの、情報をロジカルに分類するプログラミング的思考を問うものなどがあります。

独立行政法人大学入試センター|平成 30 年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について

 

プログラミング教育の現状と課題

ここからは、プログラミング教育の現状と課題について解説をしていきます。

設備の導入

文科省は、GIGAスクール構想を精力的に進めており、ほとんどの公立小・中学校では1人1台のICT機器が整備されました。

GIGAスクール構想の実現に向けた ICT環境整備端末の進捗状況について (確定値)

 

また、学校内のネットワーク環境の整備についても、2020年度内に86.2%、2021年度から97.9%の学校でネットワークが整備完了される状況です。ただし、GIGAスクール構想は小・中学校が対象なので、高校では生徒1人ひとりに端末が支給されていなかったり、ネットワークが整備されていない学校もまだ多いのが現状です。

教員

現場で指導に当たる教員の立場でも、いくつかの課題を抱えながら進めているのが現状です。

人員・知識の不足

1つ目の課題として、知識の不足が挙げられます。

文部科学省が2018年に各自治体の教育委員会に対して行った調査によると、各教育委員会、管轄の小学校・教員が抱えるプログラミング教育の課題として「ICT支援員の不足」(80.6%)、「指導方法の情報不足」(75.4%)という回答結果が出ています。

文科省|平成 30 年度小学校プログラミング教育の取組状況に関する調査報告書

 

また、2020年にLINEみらい財団が小学校教員を対象に行った別の調査では、プログラミングを勉強したことのある教員が66.5%に上る一方で、その中の69.6%がプログラミング教育に「不安を感じている」と回答しています。回答者全体では、73.3%が「とても不安」「やや不安」と答えています。年代別で見ると、20〜34歳の教員のうち87.8%がプログラミング教育に不安を抱いており、35〜49歳では77.0%、50歳以上では61.0%でした。

ここからわかることは、児童・生徒に教えるプログラミング教育では、自身がプログラミングに関する知識・経験があっても教員としての不安があることと、教員としての経験も不安の持ち方に影響を与えていることです。

一般財団法人 LINEみらい財団|プログラミング教育必修化に関する調査報告書(2020年)

 

負担の増加

プログラミング教育が新たに導入されると、教員の負担が増加します。

文科省の「教員勤務実態調査(平成28年度)」によると、小学校教諭の平均勤務時間は11時間超となっています。

昨今はニュースなどでも教員の残業が話題に上るようにもなっていますが、例えば中学校教諭は土日でも3時間程度を部活動に割いているなど、すでに拘束時間が長い状態がデフォルトになっています。

小・中学校ではプログラミング教育による新設科目ではないとはいえ、授業の中で新しい分野の指導をするためには、準備などの負担が大きくなります。とくに小学校では、英語教育も2020年度から必修化されているため、さらにプログラミング教育の重荷が降りかかるといった状況です。

高校の場合は、情報科目として指導しなければいけませんが、そもそも情報を教えられる教員自体が不足していたり、人手不足の中でどう教員を割り当てるのかといった人材配置も課題として挙がっています。

設備やスキル・ノウハウなどの課題に加えて、負担という意味でもプログラミング教育の浸透にはまだハードルがあるといえるでしょう。

まとめ

ここまで、プログラミング教育の概要と現状、課題について解説しました。

プログラミング教育の根幹は、プログラミング言語の習得ではなく、プログラミングを通じて学びを深める考え方を身に付けたり、現代の情報社会を理解し、社会に役立てることにあります。

これからの時代を担う子どもたちにとって、仕事・プライベートのいずれにおいても情報技術はなくてはならないものです。プログラミング教育によって正しい知識を身に付け、子どもたちの可能性が大きく広がること、さらにはそれを通じた社会のさらなる発展が期待されています。

(写真:iStock)