新学習指導要領に合わせて、25年から大きく変わる共通テスト

今年1月、大学入試センター試験に代わる共通テストが初めて実施された。受験者数は48万4114人、昨年に比べ4万2958人減と、50万人を切ったのは1994年の大学入試センター試験以来となった。新入試への切り替え初年度で、浪人生が大幅に減ったこと、またコロナ禍の影響が少なからずあったとみられる。また出題内容が思考力・判断力・表現力を評価できるように見直され、全科目でグラフ、表、地図など資料を読み取る問題が増えるなどの変化も見られた。

今年1月の共通テストの受験者数は48万4114人、50万人を切ったのは1994年の大学入試センター試験以来となった

今後、共通テストは、現在の中学校3年生が高校3年生になったときに受験する2025年からまた大きく変わる。22年度から高校で始まる新学習指導要領に合わせて、出題教科や科目が変更されるからだ。共通テストを主催する大学入試センターは3月、25年から共通テストに「情報」を新教科として加える方針を公表。6教科30科目から7教科21科目へのスリム化も盛り込まれ、文科省において高等学校および大学関係者等との協議を経て最終決定を下すという。

必履修化で国が情報科の指導体制強化をプッシュ

中でも大きな変化といえるのが、やはり新教科「情報」の追加だろう。

現在、高校で行われている情報科は「社会と情報」と「情報の科学」のいずれかを選ぶ選択必履修科目だ。しかし、Society5.0とも呼ばれる新たな時代が訪れ、大きく変化する社会の中で生きていくために、情報活用能力の習得は不可欠になっている。そこで22年度より実施される新学習指導要領では、共通必履修科目の「情報Ⅰ」と、発展的選択科目の「情報Ⅱ」に再編される。

文系理系を問わず、すべての高校生が学ぶこととなる「情報Ⅰ」では、プログラミングやネットワーク、データベースの基礎といった基本的な情報技術を学ぶとともに、情報モラルなども併せて身に付けることを目指すという。

だが今、その大前提として、情報科を教える教員が不足しているという問題点が指摘されている。

文科省「高等学校情報科担当教員に関する現状及び文部科学省の今後の取組(令和3年3月31日更新)」によれば、情報科を担当する教員5072人のうち約75%に当たる3839人が情報免許状を保有しているものの、256人が臨時免許状、977人が免許外教科担任の許可を受けて情報を教えていることがわかった。また同時に、情報の免許状を保有しているにもかかわらず情報科を担当していない教員が6064人いることも明らかになった。実際、長野県、栃木県を除くすべての都道府県・指定都市において、情報免許状保有教員数が臨時免許状・免許外教科担任数を上回っていた。

そこで文科省では、臨時免許状・免許外教科担任数の縮小に向け情報科教員の計画的な採用を促すとともに、現在情報科を担当していない情報免許状保有教員の活用、遠隔授業を含む複数校の兼務などによる配置の工夫を行うよう働きかけを行っている。また教員向け研修用教材等を活用して情報科担当教員の指導力向上に取り組むことを求めている。

文科省が新学習指導要領の円滑な実施に向けて、情報科の指導体制の強化・充実に積極的な姿勢を示す中、共通テストへの「情報」追加も、いよいよ現実味を帯びてきている。

すでに大学入試センターは、「情報Ⅰ」を出題範囲とするサンプル問題を公開。情報処理学会も、20年11月に大学入試センターから提供された「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入学共通テストの『情報』の試作問題(検討用イメージ)」を公表している。さらに、こうした時流を先取りした「受験対策コース」を展開する企業が早くも出始めている。

プログラミングを中心に学ぶ「情報」受験対策コースが登場

小・中・高生を対象としたプログラミング教室「テックアカデミージュニア」を全国に展開するキラメックスは、新たに「大学入学共通テスト情報対策コース」の学習システムを開発。今夏をメドに学習塾などの教育事業者向けに提供を開始するという。コースの対象となるのは中学校1年生〜高校3年生で、学習時間は合計70時間程度、受講形態はパソコンもしくはタブレットを用いた自学自習スタイルを予定している。

「テックアカデミージュニア」のマネージャーを務める加藤雅英氏は「共通テストで『情報』が採用されれば、プログラミング教育市場が広がるポイントになる」と同コースを開発した背景について話す。

これまで情報入試の実施は、慶応大学など一部の大学に限られていたため、対策コースを設ける進学塾や予備校はほとんどなかった。受験に関係のない科目は、受験生はもとより保護者のニーズもなかったからで、共通テストに「情報」が加わることになれば潮目が大きく変わるというわけだ。

だが、大手塾は「プログラミングをはじめ情報科を教えるための人員が不足しており、また共通テストへの情報の追加が正式決定されていない現段階で対策コースの準備を進める判断がつかないところが多い」(加藤氏)という。このほど英語の民間試験活用と記述式問題の導入を断念する見通しが示されるなどの事情を踏まえると、確かに躊躇するのも無理はない。それでもキラメックスが、リスクを承知のうえで情報対策コースをリリースする理由はどこにあるのか。

「早めに動いてモデルケースをつくりたいというのはもちろん、本来プログラミングなどの知識・技術は、これからの社会において不可欠なリテラシーです。アプリケーションやゲームなど1つのプロダクトを自分の手で作り上げる成功体験も含め、しっかりと身近な問題や社会課題を解決できる情報活用能力を身に付け、将来において自己実現の選択肢を広げられるコースを提供したいと考えています」(加藤氏)

実際、大学入試センターが作成したサンプル問題を見てみると、3つの大問で構成されている。大問1は情報技術の仕組みや情報倫理、大問2はプログラミング、大問3はデータ分析・活用だが、キラメックスの情報対策コースはプログラミング中心の学習内容になるという。

「大問1は実際にソフトやアプリケーションを動かした経験がないととっつきにくい問題で、大問3は数学の知識が必要になるため中学生にはやや難解です。対して大問2は、小学生の頃から授業で行われているプログラミングなのでなじみやすい。そこで、プログラミングからスタートして、大問1と3へ知識を広げていくと理解しやすいだろうと考えました。このほかにも、検定教科書のベースとなる高等学校情報科『情報Ⅰ』教員研修用教材や、慶応大学をはじめ他大学の過去10年分の入試問題を参照して、バランスよく『情報』を学べる内容に仕上げました」

こう話すのは、「テックアカデミージュニア」カリキュラムディレクターの平賀正樹氏だ。すでに対策コースのプロトタイプを作り、大手進学塾などからフィードバックをもらいながら、アップデートしているという。加藤氏は「塾側にとって、情報対策コースを新設することは、1つのアピールポイントにもなります。われわれがいち早く対策コースの学習システム開発を行ったことで、塾側も今後のプロモーションを検討しやすくなるのではないかと考えます」と話す。

加藤氏によれば、子どもを対象とするプログラミング教育の市場規模は200億〜300億円、1000億円以上といわれる語学教育市場の4分の1〜3分の1程度だという。共通テストに「情報」が追加されれば、市場拡大の起爆剤になる可能性は大きい。“受験科目になること”のインパクトは大きいということだろう。

だが、「情報」で学ぶ知識や技術は、これからの子どもたちが社会で生きていくのにまさに必須のスキルだ。全員が「情報Ⅰ」を学ぶことをきっかけに、多くの子どもたちが情報技術に興味を持ち、その興味を受験を通じて深め次の学びへとつなげ、社会で活躍することこそが本来の目指すべきところだ。

(写真:iStock)