「協働」ではなく、「協同」?

――田中先生は、10年ほど前に日本協同教育学会(JASCE)主催の認定ワークショップに参加したことを機に、協同学習の理論や実践を学んでこられたそうですね。文部科学省が学習指導要領で示している「協働学習」との違いをお聞かせください。

「協働学習(Collaborative Learning)」は、「子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学び」と定義されていますね。簡単に言うとグループで課題解決に取り組む学習です。一方、僕が取り組む「協同学習(Cooperative Learning)」もペアやグループで学習しますが、仲間と一緒に活動するうえでの目的などに明確な定義があるのが特徴です。

米国では19世紀ごろから協同学習が活用されていて、ジョンソン兄弟やスペンサー・ケーガンなどの研究者たちがそれぞれの定義を基に実践を広めてきましたが、いずれも学び手同士の信頼関係やその土台づくりを大切にしています。僕は、JASCEの定義に基づいて実践していますが、こうした協同学習の定義をみんなで共有し合うことが前提です。

1:互恵的な協力関係が成立している

2:学習集団の目標と、学習活動における個人の責任が明確である

3:生産的相互交流が促進されている

4:「協同」の体験的理解が促進されている
(出所:JASCE主催「協同学習法ワークショップbasic」の資料)

――子どもにとっては難しそうな言葉が並びますが、どう伝えているのでしょうか。

1の「互恵的」という言葉は、「お互いプラスになるよう協力し合おうね」「ウィンウィンの関係」といった言葉で説明しています。

2の「学習集団の目標」とは、「教科学習における目標」と「共に学ぶ仲間と学ぶ際の、学び方の習得に向けた目標」の2つを指します。前者はいわゆる「本時のめあて」ですが、「わかったこと・わからないことについてお互いの理解のために進んで話し合う」といった「仲間とどう学ぶか」についての目標も掲げて学習を進めます。

同時に「個人の責任の明確化」も大切にしています。例えば、4~5名くらいの活動になると、仲間に対する自分の役割があいまいになることがよくあります。ボーッとしてしまうなど受け身の状態で学習が進むと、「お互いのために学ぶ」という互恵的な状況になりません。そこで、授業の中でたびたび「仲間との学びにおけるあなたの役割は何ですか?」「仲間との学びのために自分が責任を持ってできることをはっきりさせよう」「タダ乗りは禁止ですよ」と、自分の役割が意識できるよう伝えています。

教室にはオリジナルの掲示物を貼り、みんなで確認できるようにしている
(写真:田中氏提供)

3の「生産的相互交流の促進」は、建設的に協力し合っているかどうか。例えばみんなで何かを決める際、ワイワイ話すだけで終わってしまうことがありますが、その状態は生産的ではないですよね。だから、紙や黒板に意見を書き出すなど、何かしら可視化しながら話し合いをするよう声がけするなどして、建設的な交流を促します。

4の「体験的理解の促進」は、協同学習の最後に、実感を持って「自分のため、仲間のためになった」と子どもたちが感じることです。

この4つができている状態が「協同学習」です。教室にはオリジナルの掲示物を貼って、授業中に「今これができているかな?」と確認や振り返りをするようにしています。

(写真:田中氏提供)

――教科学習における、協同学習の実践を具体的に教えてください。

国語は、授業時数が多いということもあり、協同学習の技法を取り入れた活動が日常的に行いやすい教科です。ここでは、海外でポピュラーな「Think Pair Share」、日本語で「かわりばんこに」と呼ばれる技法を紹介しましょう。互いが持つ情報を伝え合うので、自分の学びを広げるだけでなく、相手の学びにプラスの働きを与える実感を得ることができます。

最初にお題を設定します。例えば、「木へんのつく漢字を探そう」というお題にした場合、次のような流れで学習を進めていきます。

1:まずは5分間、1人でノートに木へんのつく漢字を書き出す。
その際、教科書やドリルなどは使わず、自分の記憶を頼りに書く。

2:ペアを組み、1つずつ交互に発表していく。自分が書いた漢字と同じものを相手が言ったら、その漢字に赤で丸を書く。自分が書かなかった漢字を相手が言ったら、赤でノートに書き足す。

3:自分の漢字のストックが切れたら、相手が書き出した漢字を教えてもらう。

4:「1人でやったときとペアでやったときとでは、どんな違いがあったかな?」と問いかけ、振り返りを行う。

最後には「仲間と一緒に学んだら、自分の気づけなかった漢字がいくつも見つかりました」など、協同で学ぶよさの「体験的理解の促進」が進んだことが確認できるはずです。

もう1つ、「雪玉ころがし」という技法もご紹介します。雪面に小さな雪玉を転がすと雪玉が大きくなっていきますが、そのイメージで、互いが持つ情報を足していきながら大きなものにしていくのです。理科の授業で、「ホウセンカを観察して気がついた特徴を発表し合おう」というお題だった場合は次のような流れになります。

1:まずは1人で、ノートにホウセンカを観察して気がついた特徴を箇条書きする。
絵でも文章でも、得意な方法を用いるよう声がけする。(10分間程度)

2:4人グループになる。各グループに1枚の画用紙を渡す。

3:「かわりばんこに」と同様、時計回りで1人ずつ気づいた特徴を発表していく。
その際、発表された特徴を画用紙に書き出していく。(10分間程度)

4:時間がきたら席を立ち、ほかのグループの画用紙を見て回る。(5分間)

5:席に戻り、ほかのグループの特徴を見て得た気づきを画用紙に赤で書き足していく。

6:「1人でやったときと、グループでやったときとでは、どんな違いがあったかな?」と問いかけて振り返りを行う。

今、協同学習は世界中で行われています。前述した「Think Pair Share」などは動画を検索すればたくさん事例が出てくるのでぜひ参考にしてみてください。ただし、ほかにも技法は山ほどあるのですが、技法だけ取り入れるのはあまり効果がありません。4つの定義があるかないかで子どもの成長は全然違います。

――特別活動など、授業以外でも協同学習を生かしていますか。

清掃や給食、その他の当番活動において、メンバー同士で活動の目標や役割分担について話し合い、活動の進め方を決めるようにしています。例えば清掃活動なら、「時間内に担当場所をきれいにするなら、どんな手順で進めるか」「誰が何を担当するか」など、「時・人・物」についてあらかじめ計画を立ててから活動を始めます。

そして活動後は、数分で構わないので振り返りを行います。「時間内に終わらせるために、お互いに力を出し合えたかな?」「自分の役割は達成できたかな?」など、互恵的な協力関係や自身の役割の責任を果たせたかについて振り返り、次の活動につなげています。

――協同学習を取り入れると、子どもたちにどのような変化がありますか。

「仲間同士でやってごらん」と言うだけで勝手に学びが進むことが増えます。また、互恵的な協力関係が育まれた成果だと思っていますが、けんかが起きませんね。

今、僕が担任を持っているクラスは小学2年生です。昨年からの持ち上がりで学級づくりができている状態だから可能なことですが、この春からクラスでやってみたいことを実現するプロジェクトを生活科の時間で進めています。アイデアを募り、その中からまず「1年生を招いて楽しませるプロジェクト」を選んで企画書作りから運営させてみましたが、最終的に僕がほとんど何も言わなくても子どもたちは自分たちで動いていました。

(イラスト:田中氏提供)

教室の飾り付けや段ボールでの迷路作り、図書コーナー作りなどアイデアを具現化する中で、僕への声がけも「先生、やってみてもいい?」から「こんなのやってみたよ」「一緒にやらない?」に変化していき、うれしかったです。1年生向けの招待状なのに習っていない漢字を使ってしまうなど失敗もありましたが、それもよい経験で次に生かそうと頑張っています。

――「子ども同士の学び合いがうまくいかない」という教員に何かアドバイスはありますか。

目指すところが不明確なのかもしれません。とくにコロナ禍でやりづらいという声もよく聞きますが、そういう方々は、共に学び合うことを「ペアやグループで学習することでしょ?」と単なる「形」として捉えているように感じます。

「協同学習」は「形」ではなく「考え方」「哲学」です。このエッセンスを取り入れ、自分たちが目指すところを定義されるとよいと思います。定義を子どもたちと合意形成できていれば、ガイドラインに沿った感染症対策の中でできることはいろいろあるはずで、すべての学校生活における仲間同士の関わりが協同学習になっていくと思います。

できれば職員室にも、協同学習の定義が共有されているとよいですね。適性などを考えず教員に仕事を割り振る学校も多いですが、協同の精神が浸透している学校は、仕事に対して積極的に手が挙がりますし、自然と適材適所の分担になっていくように感じます。

田中光夫(たなか・みつお)
1978年生まれ、北海道出身。東京都の公立小学校教員として14年間勤務。2016年、主に病気休職の教員の代わりに担任を務める「フリーランスティーチャー」となる。これまで公立・私立合わせて延べ11校で講師を務める。NPO法人「Growmate」理事としてマーシャル諸島で私設図書館建設にも携わる。近著に『マンガでわかる!小学校の学級経営 クラスにわくわくがあふれるアイデア60』(明治図書)
(写真:田中氏提供)

(文:編集チーム 佐藤ちひろ、注記のない写真はiStock)